タワーディフェンス3
「さて諸君、集まってくれたな」
前回と同様に部隊毎に集合している我々を見渡して、基地司令殿が口を開く。
「既に知っている者も多いと思うが、どうやら方面軍司令部はこの基地がお気に入りらしい。前回の派遣からまだ二週間、本来なら断りたいところだが、どうもそういう訳にもいかなそうだ。……とまあ、言い訳はこの辺で本題に入る」
これまた前回と同様、基地司令付きの古参軍曹が慣れた手つきで映像を映し出す。
日本を中心とした世界地図。その中心部から南下した、赤道付近の海域がクローズアップされる。
「オーストラリア北西沖、インド洋にある人工島『アースターミナル』が、今回の派遣先となる。
その映像に映し出されたのは、成程人工島という言葉がぴったりの直線的な陸地だった。
いくつかのブロックを組み合わせたようなそれは、島というより巨大な台船の集合体と言った方が近いような姿で、その中央にいくつもの巨大な円形の建物を積み重ねたような構造物が鎮座している。
なんとなく、子供の頃社会科の教科書に載っていたミャンマーのパゴダのような雰囲気のある不思議な建物だが、パゴダよりも遥かに最近造られたことは一目でわかる近未来的な代物で、そびえ立った中央部分も、素材は分からないがドーム球場を何倍も縦に伸ばしたような見た目だ。
――いや、そびえ立ったという言葉をこの構造物に使うのは不適当かもしれない。なにしろその中央部から更に上に、文字通り空に届く代物がそびえ立っているのだから。
「知っている者も多いと思うが、アースターミナルは環太平洋宇宙開発事業団の軌道エレベーター『パシフィックピラー』を備える宇宙開発の重要拠点だ」
そのSFでしか聞いたことのない施設の名前も、二足歩行ロボが実用化されたこの世界では実在の施設だ。
パゴダの中央の更に上にそびえ立つ正六角柱の長大な塔。画像では見切れているが、この部分は地上から数㎞程度――それでも十分に驚くべき高さだが――までで、底から先は専用のケーブルが伸びる形となっている。
で、勿論そこに行けというからにはただで見せてくれる訳でもない。
「現在このアースターミナル東400㎞で熱帯低気圧が発生する兆候が見られている」
当然、これだってただの熱帯低気圧という訳ではあるまい。
「当初はオーストラリア方面軍単独で警備に当たることも考えられたが、この熱帯低気圧……かなり高い確率でHLPSになると考えられる熱帯低気圧が生まれた場合、彼らは領空、領海及び本土防衛に当たる必要がある。よって、軌道エレベーターの防衛には我々の手を借りたいということだ」
まあ、無理もないだろう――現場としては「何故それでうちの部隊なのか」という疑問は残るが、その辺は一兵卒が考えても仕方がない。
「パシフィックピラーは未だ建造中ではあるが、低軌道ステーション、つまり途中駅に当たる部分は既に運用が開始されており、我が国の多目的軌道プラットホーム機『ヤタガラス』もここで補給を受けることとなっている。つまり、政府としても他人事ではない訳だ」
映像に紙飛行機を巨大化したような、ダークグレーの大型全翼機が映し出される。
軌道エレベーターには未だ課題が多い。
静止衛星までを地上と繋ぐという離れ業の技術的問題も勿論ながら、その費用対効果についても計画がスタートした今でも議論が続いている――この前たまたま見た特集番組によれば。
しかし宇宙開発を中止するのは、国際競争においても国防上においても致命的だ。
そのため、衛星軌道を飛行し、かつ軌道エレベーターのステーションを補給基地として利用できる大型宇宙船の開発が求められた。軌道エレベーター完成時に求められる機能の全部或いは一部を代替し、かつ軌道エレベーター完成までのつなぎにして、軌道エレベーター建造に意義を与える。そんな科学と政治のあいの子が多目的軌道プラットホーム機ヤタガラスだ――これもまた特番で見た。
こうした背景もあって、パシフィックピラーは将来的に静止衛星まで届く軌道エレベーターとして完成させるとして、ひとまず途中駅をこの代用品の補給基地として運用することとなっている。
と、それが余談ではないという事を示す結びの言葉を基地司令が口にした。
「問題は、現在予想されている熱帯低気圧がHLPS化して軌道エレベーターに向かった場合、このヤタガラスのステーション到着予定日に、エレベーター諸共危険に晒されるという事だ」
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




