初上陸10
「大葉!無事か!!?」
ほぼ同時にもう一機のトルーパーと、その増援に駆け付けた追加の一機を撃破した軍曹機がこちらに目を向けながら叫ぶ。
「はい!」
「よし、なら行くぞ!」
そういうや否や、既に斜面を駆け上がり始めていた――最早己を守る者がいないと知って、もぞもぞと旋回動作を行っているフラックへと。
「了解!」
叫び返しながら俺も駆ける。ライフルをリロードしている暇はない。
不意に、フラックがその前側の脚部をがくんと一気に折りたたんだのが見えた。
斜面の傾斜もあって、そのまま前に倒れ込みそうになるような急激な前傾。ただでさえ前に突き出している長砲身と左腕と一体化した盾型のレーダーの重みで転がり落ちそうになるのを、張り出したアウトリガで無理矢理に固定する。
「避けろッ!!!」
そうしてまで対処しなければならなかった相手=俺の進路上に、奴の砲口が、そのライフリングまで見えるぐらいの距離で突き付けられるのと、軍曹の叫び声は同時だった。
「ッ!!」
片方だけの腰部ブースターを点火して姿勢を無理矢理に変え、その指示を実行したのも、また。
「ぐぅっ!!!」
コックピットの中にいてさえ感じる超高初速弾の衝撃波。
生身であればぺちゃんこになっているだろうという事は、軋みを上げる全身の骨格が教えている。
だが、整備班の仕事はそれでも機械の五体を走らせる。
「シャァッ!!」
叫び声をあげた時、俺の機体は奴の砲身を掻い潜り、折りたたんだ前側の脚部に飛びかかっていた。
腰部ブースターへの水素再充填が終わるのと同時の再起動。
最低出力の爆発では機体をやや浮かせる程度だが、それでもご丁寧におじぎのような姿勢をとってくれたフラックには十分だ。
「っし!」
ガツン、という衝撃。ショック吸収用のゴムソールを介してもケツを叩く硬質の感触。
その跳ね返すような力が、奴の脚部装甲であるというのは見なくても分かる――自機より一回り以上大きい相手の首を狙うために、そこを踏み台にすると決めていたのだから。
ダッシュの勢いと、腰部ブースターの推力、その二つの力の残りに、踏みつけた奴の脚部を蹴る力を加える。
先程伍長が撃った頭部が一瞬だけ視界の中央へ。見た目は通常のトルーパーと変わらないが、装甲が増設されているのか、まだその機能は生きているようだ。僅か一瞬の交錯だったが、奴が俺を見たような気がした。
「らあっ!」
そのまま、体ごと奴の上体へぶつかる。
同時に対装甲ナイフを首筋へ。
先程トルーパーに仕掛けたのと同じ攻撃は、同じように鍔元までしっかりと突き刺さり、同じような手ごたえを返して、しかしサイズの分まだ振り払おうとする力を残してしまった。
「ぐっ――」
バランスを崩さない様に首の動きに合わせて飛び降りる。
着地と同時に目に入った光景=振り払った結果こちらに上体を向けたフラックの背後に現れた、もう一機のエトナ。
「はあああっ!!」
そのもう一機はパイロットの気勢と共に盾型のパーツの裏から奴のわきの下を突き刺していた。
左腕が、恐らく何とか振りほどこうとしたのだろう、半端な高さまで上がり、それから急に力を失ってだらりと落ちる。
金属音に似た音を立ててその盾型のパーツが足元を叩き、続いて前側以外の脚部が立っている力を失って座り込むように折れ、その音を聞きながら俺は再度突撃する。
「シャッ!」
反対側と同様、長砲身下をくぐり抜け、構造上装甲化の難しいわきの下へ。
「……対象無力化。よくやった。フォボス4」
長砲身も足元の斜面と音を立て、完全に動かなくなったフラックからナイフを引き抜いたのは、安堵のため息と共に発せられた軍曹の声が聞こえてからだった。
「言っただろう?訓練程難しくない、と」
「……はい」
無線通信故に顔は見えない。
だがその穏やかな声は、どういう表情をしているのか容易に想像できるものだった。
「フォボス2よりフォボス1。フラックを無力化しました。2及び4両機とも健在です」
「ここからも見えた。よくやった軍曹。それに大葉も。……一字一句受け継いでくれたお陰だな軍曹」
「……ッ!!偶然かと」
クラウドウォーカーパイロットになると、声だけで相手がどういう顔をしているのか大体わかるようになるのかもしれない。
何となく赤面している軍曹の姿が目に浮かんだ――『訓練程難しくない』『そのために、今日まであれだけきつく当たった』軍曹が出撃前に話してくれた言葉は、彼女が初出撃の際、今朝の俺よりもガチガチに緊張していたのを見かねた小隊長が言った言葉なのだと、中津伍長から笑い話のように聞かされたのは、後日のことだった。
「ポラリスよりオールユニット。全フラックの無力化を確認した。サックチームは直ちに突入せよ」
無人となった丘に集結したところで、無線が作戦の第一段階完了を告げる。
「クロスボウリーダーよりポラリス。クロスボウ全機作戦空域に到着。指示のあるまで待機する」
「ポラリスよりクロスボウリーダー。了解した。クロスボウ隊は空域を維持せよ」
更にHGVを搭載した戦闘攻撃機からも通信。これで後はサックチームが詰めるだけ――そう思っていた矢先、地鳴りのような轟音が響き、遠く台風の目がある辺りで雲の爆発とでも呼ぶべき巨大な柱が上がった。
「来たぞ……」
「あれが……っ!」
姿を見るのは初めてだった。
水柱のような雲のそれの中から現れた、細長い、原子力潜水艦のようなフォルムの飛行物体。
トルーパーやフラックと同様のダークグレーのそれは、数kmは離れているだろうここからでも、その光沢によって明確に位置が分かる。
「ポラリス。こちらクリス1。アギリーズだ。奴を釣り上げた」
サックチームの隊長機が告げる。アギリーズがどれなのかは一切の事前情報が無くても分かるだろう。
「了解クリス1。クロスボウ隊、ターゲットを送信した。全機攻撃開始」
「クロスボウリーダー。データ受信。クロスボウ全機“矢を放て”」
通信を終えるのと、流れ星のような光が頭上を越えるのは同時。
そして唸りのような音が遅れて聞こえ、それとダークグレーを複数の爆発が包むのとほぼ一緒。
それから更に遅れて爆発音。極超音速とはがどういうものか、これ以上ない程に分かりやすい実例だった。
「ポラリスよりオールユニット。効果判定中……。よし、アギリーズの反応消滅!作戦成功!作戦成功だ」
こうして、俺の初陣は終わった。
全員の雄たけびが無線を飛び交う中で、気づけば俺もそこに加わっていた。
(つづく)
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続きは明日に




