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制空猟兵  作者: 九木圭人
初上陸
18/29

初上陸9

「ッ!!!」

 咄嗟の反応が間に合ったのは、まさしく幸運と言うより他に無い。

 腰部ブースターの爆発が、奴の刃の到着より僅かにだが速い。

 先程まで自機の頭があった場所=バイザーに示される目の前を奴の渾身の斬撃が通り過ぎていく。

 思わず体が強張るようなその軌道。だが、そうしている場合ではないというのは、その一瞬の映像も正確に捉えているアイカメラがこれまた捉えている。

 左腕を振り抜いた奴の、その反対側の腕。

 斬撃の姿勢上こちらからは離れた場所にある右手の中で、その得物の短い銃身がこちらに狙いを定めている。


 いや、正確に言えば狙いを定めてはいないのだろう。

 この距離だ。相手を捕捉して引き金を引けばどこかに当たる――恐らくは致命傷で。


「あっ――」

 声が漏れたのは一瞬。

「大葉!!!」

 軍曹の声が、はるか遠くから聞こえて来るような気がした。

 ――やはり、俺はきっといい部隊に配属になったのだろう。もし軍曹が叫ばなければ、そして連日の訓練で俺をしごき倒していなければ、結末は変わったものになっていたかもしれない。




 フォボス隊のメンバーとなって以降、小隊規模での行動の訓練が増えた。

 だがそれは、個人技を磨く時間が無くなったことを意味しない。むしろ第一段階を突破したことでより遠慮なく本気の訓練を行えると判断されたらしい。


「生身と同じだ!殺さなければ死ぬと思え!!」

 クラウドウォーカー同士での格闘戦の訓練においても、軍曹は一切手を抜かずに殺しに来た。

 クラウドウォーカーの格闘は当然ながら通常の操縦と同様コックピット内で操縦桿やシフトレバー、フットペダルの組み合わせで動かすことになる訳だが、それだけの操作で可能な動作など、人間のそれに比べれば相当に限られたものにならざるを得ない。

 故に機体に組み込まれたAAS(Assault Assist System)と呼ばれる支援システムにより、特定の操作の組み合わせで自動的に特定の技を繰り出すようになっている。


 言ってしまえば格闘ゲームのコマンド入力と原理は同じだ。

 有志国連合軍参加各国の軍隊格闘術をベースにした技が組み込まれているそれを使って戦うことになるが、格闘ゲームと違うのは、熟練者はそれ以外の技術を組み合わせて使ってくるという事だ。


「おおおっ!!」

 たとえば今回のように俺が対装甲ナイフを構えて突撃する。

 こちらで叩き込まれたクラウドウォーカーの動きに加え、前職でも生身ではあるが少しだけ齧った武器技術を組み合わせたそれで、着実に追い込んだ。

「シャッ!」

 真剣ならば確実に貫ける一撃。初めて軍曹にそれをぶち込めるという僅かな期待――それらは、目の前から突然消えた視界と共に掻き消える。


「なっ!!?」

 ホワイトアウト。

 バイザーの中が白一色に染まり、目の前にいた軍曹機も、成り行きを見ていた伍長と小隊長の機体もまた、一瞬で掻き消える。

「ッ!」

 直後、その白の世界に別のものが差し込まれた――機体の後方から、自機の首に向かって。

「勝負あり……だ」

 そして無線越しの静かな声が、実戦であればコックピットのすぐ上にある刃が首を切り落としていると伝える。

 AASの中には入っていない戦い方。例えばこの目潰しとしてのスモークの使用などは、熟練者故の技と言えた。




「……ッ!」

 転じて、現在。

 俺に向けられようとしているトルーパーライフルの、その銃口がこちらを完全に向く前にその記憶がフラッシュバックしたのは、そしてそれで反射的に体が動いたのは、まさしく訓練の賜物と言っていいだろう。

「シッ!」

 スモークを放ち、同時に奴の横へとすっ飛ぶ。

 周囲の雲に取り込まれたかのように、一瞬で赤燐の煙の中に包まれたトルーパー。

 流石に想像していなかったのか、それとも視界が急に奪われたことでパニックを起こしたか、左腕の直刀が白煙の中で踊っている。


「シャァッ!」

 その斬撃とは反対、銃を持った右手側に飛びつきながら、逆手に抜いた勢いのまま対装甲ナイフで奴のライフルをカチあげ、そのまま首へと突き下ろした。

「ッ!!!」

 アイスピックのように振り下ろす一撃が、独特の手応えを伝えてくる。

 それが成功か失敗か、白煙の切れ目に見えた、奴の首に鍔元まで深々と突き立った対装甲ナイフと、それを押し返すように噴き出す奴の中の雲が全てを物語っていた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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