初上陸8
「野郎……」
「二人ともすぐに隠れろ!次が来るぞ!!」
小隊長の声が、まだ爆発の残響が残る耳に飛びこみ、鞭で打たれたように体が跳ねて、そのまま操縦桿とフットペダルに伝える。
今の爆発で俺と軍曹の目の間にある壁はえぐり取られた。次の一発は確実に殺しに来る。
先程飛び下がった場所へ向かって走り、即座に遮蔽物に身を隠す。
勿論それで安全という訳ではない。ここはあくまで一時的な避難場所に過ぎない。
「「ッ!!!」」
再びの着弾。その安全な一時が終わる。
「ちぃっ……、フォボス4、散開しろ!前が開けている!!動いて射界の外に出ろ!!」
「えっ……り、了解!!」
一瞬の躊躇:それで回避できるのか?
これまでの二発で十分証明されたようにフラックの主砲はきわめて強力だ。装甲の厚い場所で受け止めて……などというのは不可能だろう。
加えて、その弾速と捕捉能力、そして未来位置の予測と偏差射撃の精度も抜群だ。
スーパークルーズ中の戦闘機を軽々と撃墜するそいつを相手に、エトナの足で走り回って回避できるのかは甚だ疑問だった。
「フォボス2、4、そのまま蛇行して奴に肉薄しろ!こちらで援護する!!」
「「了解!」」
小隊長が叫び、反射的に叫び返す俺たち。
軍曹の提唱した機動が有効かどうかは分からないが、分からないからと足を止めて説明を求める時間もない。
加えて判断するのは上官の仕事、それに従うのが一兵卒の仕事だ。やれと言われたら「どうして?」ではなく「どうやって?」以外の質問はない。それを既に示されているのなら、口の出番は終わりだ。何より俺も立ち止まったまま死にたくない。
「おおおっ!!」
先程まで壁だったくぼみを飛び越えて、次の壁に向かってひた走る。
その間まだ生き残っていたトルーパーがこちらを狙うのが、そしてその姿勢のまま横合いから頭を吹き飛ばされて転がるのが見えた。
「よし到着!」
腰部ブースターの推力を使った応用=スライディング気味に前方にそびえる雲の壁の根元へと飛び込む。
直後、後方数十mの距離で雲が巨大な柱となって爆ぜた。
信じがたい事実:着弾の爆発より、奴の圧縮空気を用いた独特の射撃音の方が遅い。
「躱せるのかよ……」
機体の音響システムの故障を疑うが、そんなはずもない。超音速飛行すら撃ち落とすのだ。砲弾だって音速を上回りぐらいするだろう。
「フォボス4、無事か!?」
「無事です!」
同じような壁に同じようなルートで飛びこみ、その動作中にもう一機のトルーパーを仕留めた軍曹の叫びに同じように返す。
と、そこに更に入ってきたのは、伍長の声。
「軍曹、今から奴の注意を惹きます。その隙に動いて!」
「了解だ。聞いたなフォボス4」
返事をするよりも早く事態は動く――丘陵部の頂上にいる、ここからではまだ小さく見えているフラックの頭部に正確に一発銃弾が叩き込まれることで。
「よし!動くぞ!!」
軍曹が奴の盾のようなパーツの更に外側に回り込むように右へ走り、俺もそれに続く。
動き出した時に見えたのは、頭への不意打ちに機体の向きを変えたフラックの、その動く頭部が着弾によって再び火花を散らせている所だった。
だがそちらばかりも気にしていられない。
伍長と小隊長が引き付けてくれている間に何とか丘陵部の麓に足をかけることには成功したが、最後の砦とばかりに残っていたトルーパーが近くの雲から飛び出してくる。
「クソッ!」
「邪魔だ!!」
俺と軍曹がそれぞれ罵りながら引き金を引く。
レティクルが完全な捕捉を表示するのを待つのも惜しんでフルオートでばら撒く。
どうせこの距離だ。走りながらのばら撒きでさえ余裕で当たる。その見当に外れ無し――あと少し遅れていれば、反対に自分がそうされていた。
「シャッ!」
崩れ落ちるそいつを尻目に斜面を駆け上がる。狙うは山頂のフラックただ一機。幸いその大量の脚の操作と、ダメ押しのように張り出しているアウトリガの格納に手間取って至近距離での旋回速度は悲惨な程だ。
「ッ!!」
その身重な味方を守るべく、二機のトルーパーが斜面を駆け下りてくる。
連中二機は即座に散開。一対一の戦闘を望むように突進。
「このっ!」
その姿にライフルを向けて射撃。
だが、二本目のマガジンの底に残っていた弾は、全て雲の坂道に穴を開けて払底した。
「なにっ!!?」
やけっぱちのような行動。左腕の籠手のようなパーツに格納された折り畳み式の直刀を展開しつつ跳躍しての飛びかかり。
トルーパーの脚力と背面のブースターの推力を活用したそれは、確かにやけっぱちに見えて、しかし回避と攻撃を両立している。
「ぐううっ!!」
回避動作を取っている余裕も、近接戦闘に切り替える余裕もない。
咄嗟にライフルを頭上に掲げて振り下ろしを防いだのは我ながら褒められるべき判断だっただろう――たとえそれでライフルが破損しても命には代えられない。
「ッ!!」
「フォボス4!大葉!!」
「おあああああっ!!」
軍曹の叫び声。返事する余裕もなく咆哮。
上から落ちてきたトルーパーの一撃によりバランスを崩して倒れそうになる機体をこちらも腰部ブースターで無理矢理姿勢を制御。
初太刀で仕留め損ねた敵が、下からの突き上げを狙って体ごと飛びこんできたのは、まさにその瞬間だった。
(つづく)
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続きは明日に




