初上陸7
「フォボス各機、遮蔽物を使え。連中を片付けるぞ」
小隊長が指示しつつ、率先垂範。近くの雲の塊に突進しつつの射撃で、こちらに弾をばら撒いていた一機のトルーパーに命中させる。
「「「了解」」」
その姿に叫び返しつつ、俺たち三機はそれぞれ手近な遮蔽物を盾にとった。
幾重にも重なった雲の襞。無数に波打っているようなそれを上から見れば、恐らくくしゃくしゃにしたシーツのようにも見えるのだろう。
そのシーツの皴と皴の間を駆け抜け、天然の防壁として飛んでくるその壁と同じ素材の銃弾を防いでもらう。
流石に接近するといくらか狙いは集中してくるが、それでもまだ1㎞以上の距離がある。
「舐めるな……ッ」
その状態で機体の姿勢を変更。訓練で叩き込まれた最小限の露出で、ライフルを遮蔽物から出して狙いを定める。視界が完全でないため銃にマウントされたカメラによる照準に頼ることになる。
「当たるかよ……」
腰だめで射撃をしつつこちらへと突進するトルーパーを捕捉。
伍長の先程のそれをまじないのように繰り返し、必中の距離まで奴が突っ込んでくるのを待つ。
完全に捕捉すれば赤くなるレティクル。未だ緑色のそれが赤く変わる瞬間を待ち続ける。
操縦桿のトリガーの上に、実際の銃のそれのようにそっと指を乗せる。
これも実際に自分で射撃するときと同様、決してトリガーを強く握りこまない。
手の震えやちょっとしたブレなどに過剰に反応しないよう、操縦桿には少しだけ遊びをとるように設定されているが、それでも不要な力がかからない方がいいに越したことはない。
奴の弾が遮蔽にぶち当たる。
その次の弾が頭上遥か上を飛び越える。
――そして、レティクルの色が変わる。
「ッ!!」
闇夜に霜の降りる如く――射撃のコツと言われるその引き金の引き方が出来たかどうかは自分では分からない。
ただ言えるのは、この機体のFCSはガンカメラだけでも正確に機能したということ。
「ターゲットダウン!」
敵の未来位置予測と腕部の射撃反動制御は完璧な仕事をして、奴の装甲板に発射された20mmAPDS全てを突き刺した。
装甲を穿つ銃弾。そこから噴き出す白いガス。
それがHLPSの本体とも言うべき代物=通常の雲だ。
奴らの内部にはコアとなるソリットクラウドの塊が存在し、それ以外はヌアザ濃度の低い、ほとんど普通の雲と変わらない気体が充填された状態だ。この部分が人間でいう筋肉の役割を果たしていると考えられているが、それが外に噴出したという事は、もうこいつに戦う能力は残されていないということ――被弾の勢いで来た方向へ押し戻され、得物を放り出して倒れた姿からも明らかなように。
「次!」
そいつへの攻撃を終え、即座に次のターゲット=そいつの隣から突っ込んでくる別のトルーパーへ狙いを定める。レティクルが奴の上に表示されたアイコンと重なった瞬間に赤へ。距離は既に800mを切っている。
「こいつもっ!」
三発のバースト射撃。最後の一発だけは奴が姿勢を崩したために外れたが、それでもダメージは十分にあったはずだ。
更に三発叩き込み、計五発の直撃で奴を無力化。
「フォボス4!右だ!まわり込まれている!!」
軍曹の叫び声、反射的に指示された方に振り向きつつ、腰部ブースターで後ろに飛び下がると、それとほぼ同時に、こちらよりやや高い位置にいたトルーパーが弾をばら撒きながら突撃してくる瞬間だった。
「くっ!!」
間一髪で銃撃を躱す。既に連中の射撃もばら撒きと言っていられない。
着地と同時に再度ブースターをふかして飛び下がり、同時に捕捉したそいつに向かって引き金を引く。
「よし!命中!!」
だが、止まらない。
繊維化SC装甲で受け止めると、多少の穴を気にせずに、奴はこちらの最後の守りであった雲の壁を飛び越える。
「くっ!」
鏡映し=双方が互いの得物を構え合う。それぞれ左右は雲の壁。どちらも回避不可能な地形。
つまり、撃ち合って先に死んだ方が負け。
奥歯が軋む。文字通りの殺し合いに引き金を全力で引く。
闇夜に霜の―――などと言っている場合ではない。
「おおおおおおっ!!!」
先に二発の命中弾を得ていたことが功を奏した――のだろう。
奴が構えるより一瞬早く放たれたこちらの弾丸が、奴の照準を真上にずらした。
そしてその照準を目の前の敵に一矢報いるべく戻すよりも、航空機関砲を小改造で転用したこちらのフルオートの方が速い。
ダークグレーの腕部が、続いて同じく脚部が吹き飛び、その勢いで残った部分も後ろに吹き飛んだ――最後まで残った右腕がトリガーをガク引きで弾をばら撒いていたのは、奴なりの執念なのだろうか。
「やった……」
その姿をマズルファイアの向こうに見て射撃を止める。あと少しだけ遅れていれば、マガジンの中が完全に払底している所だ。
そして次の瞬間、それでも遅すぎたと知らされた――既に400m切るまでに接近していた、それまでの正面方向からの敵に。
「ちぃっ!」
振り向きながらそちらに銃を向ける。
ターゲットが視界に入るや否や表示される赤いレティクルと、そのレティクルの向こうから飛んでくるソリットクラウド製の銃弾。
カッと硬い音を立てて、頭部カメラの視界の端に一瞬火花が走る。
撃たれ、角度の妙でそれをはじいた――そのことを理解するより前に、体が反射的に縮こまる。
「クソッ!」
反射的に引き金を引き返す。立て続けに飛び出す銃弾が一発、二発、三発――そこで、薬室を叩く金属音。
命中は一発だけ。足止めにもならず。
対する奴は、その止まらなかった足で元気に突っ込んでくる。
先程の対処で飛び下がった際、機体全てを隠すことの出来る高さの壁からは離れた。今の場所は機体の胴体部分が半分ほど奴から見えている――つまり、コックピットの辺りまで。
「……ッ!!」
導き出された予測――それが脳内に出て来るよりも、俺の後ろから放たれた一発が、奴の胴体を浮かせる方が先だった。
「無事か!フォボス4!!」
叫びながら、更に一発、一発と確実に撃ち込んでいくもう一機のエトナ。その肩に書かれた「02」が輝いていたのが、鮮明に目に焼き付いた。
「すいません!助かりました!」
「マグを替えろ!今のうちだ」
叫びながら、ライフルから離した左手でドリブルの動き=伏せろ。
声と機体のどちらの指示にも同時に従う。マグチェンジも自動でやってくれるのだから便利なものだ。
「完了!」
その間残存する敵を追ってくれていた軍曹に無線越しに叫び、再び機体を起こして加勢する。そこで改めて、俺以外のフォボス隊の三機は、極めて効率的に仕事をするという事を知った。
「よし、なら――」
だが感心するのは後だ。
軍曹が何かを伝えようとしたその言葉に耳を傾け――次の瞬間にそれは途絶えた。
「クッ!」
「なんだ!?」
突然の爆発。その衝撃波で思わず尻もちをついた機体を立て直し、同じように立ち直った軍曹と共に、俺たちの前にある雲の壁がぼっかりとえぐり取られているのを見る。
そしてそのはるか向こう、すっかり数の減った取り巻きのトルーパーたちを始末したら向かうと考えていた攻撃目標が、いつの間にか空を見上げるのを辞めて、自らの陣取っている高台の麓に視線をと射線の両方を移しているのもまた、同時に見えた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




