初上陸6
「引き付けろ……一斉にやるぞ」
隊長の声を聴きながら、バイザーに映し出されている映像の中で、徐々にその姿を大きくしているトルーパーたちを見つめ続ける。
体に対して細い印象のある手にはAks-74uに似た武器を持ち、それを腰だめにしている左腕の籠手のような独特のパーツには我々のナイフよりもリーチに優れる直刀型の近接戦闘用装備が格納されている。
ダークグレーの機体――あえて機体と呼称するが――は、成程クルーザー以上のHLPSを兵器名で呼称する理由が分かる程に、昔ロボットアニメで見た機体のそれを彷彿とさせるほど兵器らしさを放っている。
「フォボス2、一番右をやれ」
「了解しました」
「3はその隣、4は一番左だ」
隊長がそれぞれの獲物を振る。
四指隊形というべき横並びの陣形でこちらに近づいてくるトルーパー連中の中から、自分に振り分けられた奴に目を向ける。
一番左のトルーパー。まっすぐ伸ばした親指以外の四本の指のように並んだ陣形で、奴の受け持ちなのだろう左サイドを警戒しながら向かってくるが、こちらに気づいた様子はない――他を警戒している残りの三機と同様に。
「……」
息を殺し、その様子を見守る。
指はスリープモード解除ボタンの保護カバーの上=指示があればいつでも外して再起動可能かつ誤作動を指せないための措置。
一切の画面情報のない、カメラだけの視界の中にトルーパーの一隊が、その細部まで正確に分かるぐらいに近づく。
「全機スリープ解除。割り当てを狙え」
「「「了解」」」
指が保護カバーを弾く。
軽い感触と共に復活する敵機を示す胴体部分に浮かぶ緑色の四角形のアイコンと、一番遠い右端の機体を含む全機が100mを切っている距離表示。そして一番左の個体のそれの上にパイロットの指示一つで即座に鉛玉を叩き込めることを意味する赤いレティクルが重なる。
瞬間、奴らが動きを止める。こちらに感づいたか――反射的に浮かぶ可能性より短い指示。
「……やれ」
「ッ!」
操縦桿のトリガーを一気に絞り込むと軽快な射撃音と共に飛び出した20mmAPDSが、連赤いレティクルのど真ん中に吸い込まれていく。
完全な不意打ち。他の三機も俺の撃ったそれと同様に一切の回避行動をとらずに胴体や脚部に穴を開けられている姿が何よりの証明。
――だが、その初撃で倒せたわけではない。
繊維化ソリットクラウド装甲。ヌアザ粒子を取り込んだ雲=ソリットクラウドを直径数ミリ程度の繊維状にし、それらをワイヤーのように何本も束ねてより合わせて編み上げるようにすると極めて強固な装甲となる。
ソリットクラウドの性質のうち、未だ人類が再現に至っていないこの装甲は、最低限の強度しかないはずのトルーパーのそれでさえ、APDSの直撃に数発は耐えられる程に硬い。
その繊維の装甲を薄いソリットクラウドで挟み込んでいるのがトルーパーを始めとしたHLPSの大部分の本体だ。
「この……っ」
タングステンの弾丸に装甲を貫かれながら、なおも襲撃者に応戦するべく得物を向けようとするそいつに、更にセミオートで一発ずつ撃ち込んでいく。
銃を構えようとした左腕の肘から先がちぎれ飛ぶ。
丸みを帯びた胴体の避弾経始を上回って突き刺さったAPDSが奴の内側を食い破る。
遂に首の下の部分に一発が命中し、その上に乗っている三角錐の頭が不意に上を向いた。
「……よし」
不意にそれが奴の最期だと理解する。
トリガーから指を離す。銃撃の勢いが残っているように仰向けに崩れ落ちていくトルーパーから、レティクルが消える。
「流石に硬いな……」
初めての撃破。抱いた感想は自分でもそっけないと思う代物だった。
「ターゲットダウン」
宣言を無線へ。
他の三機もほぼ同時。
「よし、進むぞ」
小隊長の声と共に再び動き出す。
或いは崩れ落ち、或いは膝をつき、或いはバラバラになっているトルーパーたちを避けて更に奥へ。
雲の壁沿いに進み、時折あるクレバスのような窪地を飛び越え、成程あの訓練は全く無駄ではなかったと再認識しながら奥へ奥へと歩を進めていく。
再び隊長の声がしたのは――そして、その理由が俺の目にも映ったのは、そうして進み始めてしばらくしてからだった。
「前方、丘陵部の頂上に目標を視認」
巨大な襞が幾重にも並んだ雲の平野の奥。小高く盛り上がった雲の上、トルーパーたちよりも一回り大きな個体が、まだ距離のある今の時点でもはっきりとわかる異形の体で空を睨んでいた。
蜘蛛のような多脚と、ダメ押しのようにそこに加わり、他の脚部より一際遠くまで伸びているアウトリガ。その下半身の上に乗っているトルーパーと同様の胴体。そしてトルーパーとは似ても似つかぬ、右肩に担ぐようなシルエットに見える長砲身と、盾と一体化したような左腕。
フラック。HLPS防空網の要にして、俺たちの今日の攻略目標がそこにいた。
「ッ!」
「流石に気づくか……!小隊各機、正面の襞まで走れ!」
そしてその攻略目標のそびえ立つ丘陵部の麓、襞の隙間を縫うようにしてこちらに向かってくる、つい先ほど相手にしたのと同じトルーパーの群れ。
数にして十機以上はいるそいつらの姿を視認するや発せられた小隊長の指示に応答しようとした瞬間、機体の頭部の高さにキュンと音を立ててなにかが飛び去っていく。
「当たるかよ!」
それに反撃する代わりのような伍長の声。
銃弾型に成形した繊維化ソリットクラウド。トルーパーの得物がこちらに向けられている。
そしてそれは、こちらが見えている時には向こうからも見えているという戦場の鉄則そのものを証明していた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




