第3話 苺泥棒
ストロベリアの街。農林大臣邸。
真夜中。
「う、美味い。美味すぎる…」
台所に、首輪の付いた男がいた。
箱入りの白イチゴ。白リッチ。
そのひとつ、ひとつを、両手で交互に取る。
ひとつ、ひとつを、お口に運ぶ。
もぐもぐ。もぐもぐ。
もぐもぐ。もぐもぐ。
白リッチを食べる手が止まらない。
味わっている。至福の時間。
「…おい!またか!」
鎧を着た警備兵が、警棒を向ける。
「ひ、ひいい」
首輪の付いた男は、恐れおののく。
「農林大臣の使用人が、何をしているんだ」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「あやまる気があるなら、やめろ」
「止められないんです。やめられないんですう」
首輪の付いた男。
トーマス・ロトス。18歳。
長いウェーブヘアの男。
農林大臣邸の元・使用人である。
第3話 苺泥棒
ストロベリアの街。白い洋館。
「と、いう泥棒だったトーマス本人だよ」
ラズが、かるく説明した。
苺泥棒。
しかし、使用人としての能力が高い人物。
農林大臣が、強く更生を望んでいる人物。
コアンの代わりに、洋館の家事全般をこなしてくれる、期待の新星だ。
「お屋敷のお仕事なら、私が頑張ります」
「頑張る時間分を、僕と過ごそう」
だきっ。
ラズは、コアンを抱き寄せる。苺の香水の香りがしてくる。
首輪の付いた使用人服のトーマスは、テキパキと洋館内の仕事をこなす。
食事の準備。白魔法のホウキへの、お水やり。洗濯。お風呂。
全て、一人で、完璧にこなす。
メイドのコアンが、一日かけて、頑張る仕事をこなしてくれた。
「俺、実は、農林大臣の隠し子なんだ。母親が、メイドだったんだ」
衝撃の事実である。
それで、家事全般が得意なのか。
「今、母親が第二夫人候補なんだ」
母親が、第二夫人候補に、あがっている中でのイチゴ泥棒。
足を引っ張らないため、一旦、ラズの洋館で、預かることにしたそうだ。
農林大臣は、人気者のようである。
「僕なら、メイドだけを奥さんにするかな。もちろん、コアン。キミのことだよ」
「ラズさま…」
ラズとメイドのコアンは、ソファで横並びに座って、見つめ合う。
美しい指先が、触れ合っている。
「じゃーあ、頑張ったご褒美にイチゴをあげよーう」
水精霊ウンディーネのミーズが、赤いイチゴを運んでくる。
「…」
「いらないのー?」
「白いのは…?」
「売る用だから、赤いのが食用だよー」
「…っが」
ガバっ…。
トーマスは、突然、かがみ込んだ。
「お、おーい。大丈夫かー?」
「…白いのが、食べたいっ…!」
頭を抱える。
トーマスは、白イチゴが食べたいらしい。
白いイチゴは、本来、未成熟なイチゴ。
品種改良した白イチゴは、白リッチと呼ばれている。
白いまま、甘く美味しく育つ。
トーマスは、白リッチに魅了されて、イチゴ泥棒になった。
「農林大臣のグランドリーさんは、買ったり、保管されたりするのでは無くて、自分で栽培したのを食べて欲しいらしいよ」
ラズは、農林大臣の気持ちを伝える。
「自分で…」
「じゃーあ、アタシとコアンさんで手伝おーよ」
「はい。手伝いましょう」
ミーズとコアンは、トーマスを中庭に誘う。




