表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民で王都に行けませんが、なぜか推しが私を追いかけてきます  作者: 獅子の舞子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

第五章 第四話 ―――守りたいのは、君だけ―――

 第三の作戦の標的が決まった。


 騎士団長、ガウェインである。


「ソフィアさん。ガウェイン団長って、素敵な方ですよね」


 マリーはいつものように布石を打った。


「ガウェイン様ですか? はい、とても豪快で頼りになる方ですね!」


「でしょう! 強くて優しくて、まっすぐで。——騎士団長と光の聖女なんて、すごくお似合いだと思いませんか?」


「お似合い……ですか?」


 ソフィアはきょとんと首を傾げた。


 マリーは内心で確信していた。


 ——これは、いける。


 ガウェインは武の極み。ソフィアは光の聖女。二人とも魔物と戦う最前線の存在だ。守る者と清める者。これ以上お似合いの組み合わせはない。絵になる。間違いなく絵になる。


 今度こそ成功させてみせる。マリーは密かに燃えていた。


 そんなある日。


 ガウェインが診療所にやってきた。


「マリー! 頼みがある!」


「ガウェイン団長。どうしました?」


「近くの森に魔物が出た。これから討伐に向かうんだが——ソフィア嬢にも、光の魔法で協力を頼んでてな」


 ——きた!


 マリーの目が輝いた。


 ガウェインとソフィアの共同任務。まさに絶好のお膳立ての機会だった。


「それは、ぜひ二人で頑張ってください! 応援してます!」


「いや、それでだ。マリーにも来てほしい」


「え」


「討伐となりゃ、怪我人が出るかもしれん。負傷者が出たとき、すぐ手当てできるよう、腕のいい薬師が同行してくれると助かる。——お前しか頼める奴がいねえんだ」


 ガウェインはまっすぐにマリーを見た。


 その目には信頼がこもっていた。


「……分かりました」


 マリーは頷いた。


 負傷者がいるかもしれないなら、医者として断る理由はなかった。


 それに——現場でガウェインとソフィアが共闘する姿を、間近で見られる。うまくいけば、二人の距離を縮める手助けもできるかもしれない。


 ——よし。同行して、二人をくっつけてみせる。


 マリーは薬箱を手に、密かに決意を固めた。




 森に着いた。


 だが——負傷者はどこにもいなかった。


「あれ。怪我人は?」


「ん? ああ、まだ討伐前だからな。これから戦うんだ」


「……あ」


 マリーは気づいた。


 負傷者はこれから「出るかもしれない」のであって、今はいない。つまり自分は、これから始まる魔物との戦闘のど真ん中に、薬箱一つで立っているわけだ。


 戦う力もないのに。


「……えっ、これ、けっこう危なくないですか」


「心配すんな! 俺が守る!」


 ガウェインが胸をどんと叩いた。


 その直後だった。


 森の奥から、地響きとともに巨大な魔物が姿を現した。


「来たぞ! 二人とも下がってろ!」


 ガウェインが剣を抜き、前に出た。


 戦闘が始まった。


 ガウェインの剣が唸る。一撃、一撃が重い。さすが騎士団長。その武は圧倒的だった。


 そしてソフィアも。


「光よ!」


 彼女の手から、まばゆい光が放たれた。魔物が怯む。光の聖女の力は、魔物にとって天敵だった。ソフィアは的確にガウェインの攻撃を援護していた。


 ——二人とも、すごい。


 マリーは戦闘の迫力に圧倒されながら見惚れた。


 ほら。やっぱりお似合いだ。守る騎士と清める聖女。完璧な連携。これぞヒロインと攻略対象の——。


「マリー、危ない!」


 その思考は、ガウェインの叫びで断ち切られた。


 魔物の一体が戦闘の隙を縫って、マリーの方へ突進してきていた。


「——っ」


 マリーは動けなかった。


 次の瞬間。


 ガウェインが信じられない速さで、マリーの前に割り込んだ。そしてその巨体でマリーを庇った。剣の一振りで魔物を弾き飛ばす。


「大丈夫か、マリー!?」


「だ、大丈夫です……! ありがとうございます……!」


「よし。怪我はないな」


 ガウェインはほっと息をついた。


 その直後、再び別の魔物が動いた。


 今度はソフィアの方へ。


 マリーは青ざめた。


「ソフィアさん!」


 でも。


「——光の盾!」


 ソフィアは慌てず、自分の周りに光の障壁を張った。魔物の突進を軽々と弾き返す。


「わたしは平気です!」


 ソフィアはにこっと笑った。


「自分の身は自分で守れますから! それより——」


 ソフィアはガウェインに向かって叫んだ。


「ガウェイン様! わたしのことはいいので! マリーさんを守ってあげてください! マリーさんは戦えないんですから!」


「おう! 任せろ!」


 ガウェインは即座にマリーの傍へ戻った。


 ——あれ?


 マリーの作戦は、根本から崩れ始めていた。


 ガウェイン×ソフィアを近づけるはずが。ソフィアは自衛できるどころか、立派な戦力。ガウェインが守る必要なんて、まるでない。


 むしろ二人がかりで守られているのは——戦えない自分の方だった。


「マリー、俺の後ろにいろ! 絶対にお前は傷つけさせねえ!」


「は、はい……!」


 全員がマリーを守る体制。


 マリーの「くっつけ作戦」は、戦場のど真ん中で無残に空回っていた。




 戦闘は終盤に差し掛かっていた。


 残る魔物は一体。だがそれは、最も巨大で手強い個体だった。


 ガウェインが斬りかかる。ソフィアが光で援護する。あと一歩。


 そのとき。


 魔物が最後の力で暴れた。その巨大な尾が、地面を薙ぎ払う。


 その軌道の先に——マリーがいた。


「——マリー!!」


 ガウェインの声が響いた。


 それはいつもの豪快な声ではなかった。


 血を吐くような。心の底から絞り出すような。——悲鳴に近い叫びだった。


 ガウェインの体が、考えるより速く動いていた。


 彼はマリーと魔物の尾の間に、自らの身を滑り込ませた。そしてマリーを抱き込むようにして庇った。背中で魔物の一撃を受け止める。


 鈍い衝撃音が響いた。


「ガ、ガウェイン団長!?」


「……っ、無事か、マリー」


 ガウェインは歯を食いしばっていた。背中に確かなダメージを負っていた。それでも彼は、腕の中のマリーを確かめるように見た。


 その琥珀色の瞳。


 そこに宿っていたのは——いつもの陽気な光ではなかった。


 マリーを失うかもしれない。その恐怖。そして、何があってもこの女だけは守り抜く。その鋼のような決意。


 『生涯をかけて、お前を守る』。


 かつて彼が誓った言葉。その本気が——今、ガウェインの全身から滲み出ていた。


「……お前を傷つけさせはしねえ」


 低く絞り出された、その声。


 マリーの心臓が、どきり、と跳ねた。


 ——え。


 いつもの騒がしくて豪快なガウェインじゃない。


 今、自分を抱きしめて守っているこの人は。こんなにも真剣で、こんなにも必死で——こんなにも男らしい顔をするのか。


 マリーの頬が、思わず熱くなった。


 でも。


 それは一瞬のことだった。


 ——いや、いや。これは反射。ただの反射。


 マリーは慌てて首を振った。命を守られた状況でドキッとするのは当たり前。それは恋とは違う。ただの生理的な反応だ。


 そう自分に言い聞かせた。


「だ、団長! 背中、怪我してます! すぐ手当てを!」


 マリーは医者の顔に戻った。


「がはは! こんなの、かすり傷だ!」


 ガウェインは立ち上がると、いつもの豪快な笑顔に戻っていた。


「それより最後の一体だ! ソフィア嬢、行くぞ!」


「はい!」


 ガウェインとソフィアの最後の連携で、魔物は討伐された。


 さっきのシリアスな表情が嘘のように。ガウェインはまた、いつもの騒がしい団長に戻っていた。




 討伐が終わったあと。


 マリーはガウェインの背中の傷を手当てした。幸い、大事には至っていなかった。鍛え抜かれた頑丈な体だった。


「ほんと、無茶しますね、団長」


「お前を守るためなら、無茶くらいする」


 ガウェインはけろりと言った。


 その言葉に深い意味はなさそうだった。彼にとっては、ただの当たり前。マリーを守るのは、息をするのと同じくらい自然なこと。それだけだった。


 手当てを終えて。


 マリーはこっそりため息をついた。


 ——今回も、ダメだった。


 ガウェインとソフィアをくっつけるはずが。結局、二人がかりで自分が守られて終わった。ソフィアは自衛できる戦力だし、ガウェインの庇護欲はなぜか全部自分に向いてしまう。


 お似合いのはずなのに。一ミリも進展しなかった。


「あー……また失敗しちゃった」


 マリーは肩を落とした。


「ん? 何が失敗だって?」


「いえ、なんでもないです……」


 マリーは力なく首を振った。


 でも。


 ふと隣を見ると。


 ソフィアが、きらきらした目でガウェインを——ではなく、マリーを見ていた。


「マリーさん、今日、すっごくかっこよかったです! 戦えないのに、最後までわたしたちの傍で、怪我に備えてくれて。それに、ガウェイン様の手当てもてきぱきしてて。——やっぱりマリーさんって、素敵な人ですね!」


「え、あ、ありがとう……」


 マリーは苦笑した。


 なぜかソフィアの好感度ばかりが上がっていく。攻略対象との恋は進まないのに。マリーへの友情と尊敬だけが、ぐんぐん育っていく。


 ……何かが根本的に間違っている。


 マリーは空を見上げた。


 次こそは。次こそは絶対に成功させる。


 残る攻略対象は——シリルとアルフレード。


 マリーの孤独な戦いは、まだ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ