09 天空城決戦へ07
絞り出すような動きでビームは放たれ、着弾と同時に部隊は見る見るうちに阿鼻叫喚の地獄と化した。
焼き爛れる隊員、兵器、車両。
自衛隊・自警団は車体を包み込むような冷却材入りエアバッグを展開し
防御態勢を取るも北側勢力はわずか数小隊を残してほぼ半壊した。
サイドワインダーが天空城に向かい、それを笑いながら見ていた霧島もビームの熱で焼けただれ、見る影もなかった。
ガンツアーのガンバスは難を逃れたものの、次は自分たちがターゲットになるのは明白だった。
「北部本体が壊滅したのか?!どうなってる!?・・・てかどうすんだよ・・・なあオッサン、どうするよ!?これじゃあ俺ら―――」
ルイは事の成り行きを見ながら辰に懇願した。
「・・・・・・まだだ、ここで諦めてなるものか」
辰は、暫くは放心状態で眺めていたがそれでもあきらめていなかった、その目には燃え盛る熱い炎がみなぎっている。
そこへ。
”・・・・・・・・・・・辰・・・聞こえる、あなた達無事?!”
「縄文寺?!、お前ら撃たれてないのか?」
”あなた達に付き合おうとしたのが幸いしたわ、横見なさい、横!”
すると、いつのまにかガンツアーの隣には国立自警団、第四小隊ハイアマゾネスのガンバスが隣接していた。
そこへ、先程まで残存勢力を一掃していた第一地方地方自警団のガンバスも到着する。
”辰隊長、無事か?!あれは、ビーム兵器か?”
松井隊長が無線で問いかけながら同じくガンツアーの前方斜めについた。
第一地方自警団のガンバスは幾つもの巨大特殊装甲で覆っており、盾の役割も担っていた。
甲斐が天守閣を眺めながら辰に言う。
「辰、ある意味チャンスだ。俺たちは今唯一本丸まで距離を詰めている。
悟られぬようここから単身で乗り込んで天守閣で女将を討とう」
「甲斐さん、マジで言ってんのか?!」
「今しかいない。あれだけの大型ビーム兵器だ、次のチャージは時間を要する。
それまでにケリを付けよう。こっちにターゲッティングされたら間違いなく終わりだ」
そう言ってまだ奇跡的に難を逃れた傷だらけのホバーバイクのワイヤーを外した。
すると、ハイアマゾネスのガンバスのハッチも開いて縄文寺が姿を現す。
「あなた達、天守閣に行くのね?!うちの武器も持っていきなさい」
そう言うと、ハイアマゾネスの飛鳥が小柄な容姿に見合わない銃を持ってガンツアーに乗り込んだ。
「先輩方、どうぞ、さあ早く」
「うわ、めっちゃかわいい。マジでこんな子が銃撃ってんの?」
ルイが思わず声を漏らすが、辰が窘める。
「ルイやめとけ、ケツに銃弾撃ち込まれるぞ。松井ちょっといいか?ユニトを借りたい」
「ユニトをか?わかった、ハイロイドがいた方が何かと便利だろう」
松井も後方のハッチを直ぐに開いてユニトを見送る。
「ユニト、頼む。ここは死守するからな」
「わかりました。松井隊長、行って参ります」
ユニトも大口径アサルトライフルとホバーボードを持って辰達の元へ行く。
「オッサン、俺も行くよ」
「ルイ、マジで言ってんのか?」
「当たり前だろ!何年の付き合いだと思っているんだったく」
そう言うと、少し照れた様子でホバーボードを持ってバイクへワイヤー付けし始めてた。
「良い”息子”じゃない?」
「縄文寺、冗談いってんな」
「こんな状況で冗談なんか言ってられないわ。それよりも急いで、既に囲まれつつある」
ガンバスのモニターを見ると、既に多数の阿熊が三台のガンバスを遠巻きに包囲しつつあった。
「そうだな、よっしゃっやるかぁ!」
そう言うと、辰はガンバスの床下のロックにカギを差し込み、超核砲弾を取り出すと
何と傍らに転がっていたリュックに詰め込んだ。
「おいマジかオッサン、核兵器リュックに入れるの?!遠足じゃねーんだよ!」
「心配するな時限装置を付ける。だがもしもの場合は恨みっこなしやからな」
辰は嬉々して、既にホバーバイクに乗って待機中の甲斐の後ろに飛び乗った。
「いやいやそういう問題じゃ・・・ああもうしゃーね!」
ルイも急いでホバーボードを起動し飛び乗る。
「縄文寺本部長殿、行ってまいります!」
「柄にもないこと言ってんじゃないわよ、ここはまかせて、人間の意地を見せてみなさい!」
「了解した!」
こうして、辰、ルイ、甲斐、ユニトの一同は一斉に本丸に向かって勢いよく飛び出した。
迫りくる阿熊を押しのけ、今やいびつな形になってしまった天守閣を目指す。
「オオオオオオオオオオオオォォオォォ!!」
一同は雄たけびを上げながら四方八方に襲いに来る阿熊どもに機関砲をぶっ放し、一目散に天守閣を目指す。
「・・・っ、数が多い。これじゃ天守閣まで弾が持たんぞ」
ホバーボードに乗っているルイが泣き言をいう。辰がそれに反応してルイの方を向いてニコリと笑う。
「バイクに鉈があるだろう!!最悪、全員でぶった斬ればいい!」
「馬鹿ぁ!その元気はどっから来てんだよ!」
「オッサンは馬鹿だからなぁ」
甲斐が運転しながら、呟く。
「加えて、オタクともお聞きしました」
ユニトもピストルをすさまじい速さで撃ちながら辰に言った。
「言いたい放題言ってんじゃねーよ!」
辰もそう言っては迫りくる阿熊を押し返した。
かつては急階段を幾つも登らなければならなかった城は既に半壊している為、傾斜を上るのみである。
阿熊達を蹴散らし、幾つもの坂を超え、そして、数年ぶりの青空の下。
一同はついに天守閣にたどり着き、無数の親衛隊阿熊が自信を盾にするように”女将”の前に立ち、
その後ろには電子的な兜のようなものを付けた淡い色の毛並みの阿熊が大きな腰掛に鎮座していた。
電子的な兜を付けており、それは話に聞いていたこの近辺の阿熊を制御するものと思われる。
おおよそ間違いなく阿熊のボスである。
もはや日本に突如として湧いて出た阿熊達は大陸軍の兵器と考えてもおおよそ間違いではなかった。
すぐ後ろには掛け軸も飾られており、”女将”とお世辞にも達筆とはいいがたい自体で書かれていた。
お互いの勢力は銃を構え、暫くは張り詰めた空気が立ち込める。
「あれほど忠告したのに、あなた達は訪れたのですね。はじめてお目にかかります。女将です」
前面の親衛隊を押しのけ、淡い色の阿熊は辰達の前に立ち自己紹介したのは目標である女将という阿熊だった。
「ああ、えと、始めまして、女将さん?俺たちはこの地区一帯の自警団だ。一応人間代表、俺の名は辰」
だが辰は特別緊張することも、即座に銃をぶっ放すこともなくゆっくりバイクを降りて簡単に自己紹介した。
他の三人は辰がこの先どう行動するのか聞いていなかった(即時射殺と思っていた)のでとりあえず静観する。
そして、お互いがまるで会談するかのような形になり、それから女将がゆっくりと口を開いた。
「辰さん、再三の警告を受け入れられることもなく、私は非常に残念でなりません・・・もう一度私の・・・」
「ああ、もういいよそういうの」
「???」
辰は、さっきまでの緊迫した様子とは違ってまるで緊張の糸が途切れた様子だった。顔をなんだか砕けている。
女将や側近の阿熊達はその態度に思わず動揺した。
甲斐もあまりにも激変した態度をとる辰に思わず問い詰める
「お前、辰、どうしたんだ?」
「ああ、気にせんでくれ。俺はこの偉大なる阿熊・女将が本当に居てくれただけでもう大満足だよ」
「おい何言ってんだオッサン・・・これから仲良く和平交渉でもする気か?!」
話に横槍を入れる甲斐を始め、もちろんルイも、そしてユニトですら嫌な予感がしてならなかった。
「ゴホン!すみません、大変失礼しました。わたくしたちはあなたを殺そうと思いここへ来たわけではないんですよ。
だってこうまでしないとお近づきになれませんから」
「一体何をおっしゃって・・・いったいどういう事ですか?」
大上は困惑したまま辰に問いかけた。
「信じられないとは思いますが、今日はご挨拶だけにお伺いいたしました。
後日、改めてお互いのより良い関係を築くための話し合いの席を設けさせていただければと思いますので、
うちの責任者とまたお伺いいたします」
辰はまるでそれまで戦場にいたとは思えないほどに態度を一変させ、営業マンのような態度で接していた。
これにはいよいよ、後ろに仕えていた三人も、大上の側近たちも皆ヒソヒソ耳打ちをする。
「あ、そうですこれ!私達からのお土産、受け取ってください」
そして辰はおもむろに持っていた銃を床へ置いて背負っていたリュックを前に回し、ごそごそと中身を取り出した。
「待て!そこに置け!女将は下がっていてください」
側近の大柄な阿熊がしゃしゃり出て警戒する。
「!!!」
甲斐が息をのむ。
もちろん、ガンツアーに積んでいた”虎の子”、小型核弾頭に時限起爆装置を付けたものである、のだが
まるでキャラクターの置時計のような装飾を施してあった。
何時小細工したのか、かつて人気のバーチャルシンガーがくっついている。
付いているデジタル時計は既にカウント開始しており、5分を切っていた。
辰の後ろの三人はタイマーも垣間見えたのか絶句した。
「なんですかこれは?」
「置時計です、可愛いでしょう。名前は”エキセントリックサイダー”です。
それでは突然お邪魔して失礼いたしました。私たちはこれで撤退します。おい帰るぞ!」
(エキセントリックサイダー・・・小型核弾頭のコードネームやんか!)
ルイは思わず目をむいた。
「待てお前!一体どういうつもりだ!玉砕覚悟で攻めてきたんじゃないのか?!一体何なんだ!」
側近の阿熊が吠えるがそんなものには気にも留めず、辰は三人を促す。
それぞれ、まるで信じられないといった様子で急いで帰り支度をする。
「あ、あなた達は一体なにが目的なんです!?」
女将が慌てて一同を呼び止める。
すると最中、辰はふと急に身を翻して、先程とは打って変わって冷酷な表情で吐き捨てた。
「私ら”学”の無い人間なんで。そう言う難しいのは役所の連中に」
辰は踵を返してバイクの後部座席に急いで乗った。
「なっ、待ちなさい!なんですか一方的に!皆さん!?」
大上が慌てて側近に命じ、後を追わせる。
「おうおうおう、なんやねん、あいつら!お前ら、追え!一人も逃がすな!殺すか捕まえろ!」
既にカウントは始まってしまった。故にもう四人はもう何も考えず無我夢中で逃げだす。
「おい辰、お前はなからこのつもりだったな!!!」
「クソ親父!”最後”の手段を”最初”の手段にしやがって、このクズ!!!」
甲斐やルイが次々に辰を責め立てる。
「所詮は熊の浅知恵よ、放送で停戦呼びかけるような奴は甘ちゃんだってのが相場で決まってんだよ!」
そう口にした辰の表情は満面の笑みだった。
「後方注意してください。追手が多数迫っています!」
ユニトが警告し、それを聞いたルイが後ろを見ると舐められたとばかりに血眼になった阿熊が
追ってきていた。
既に追いながら射撃を開始している。
その一発のグレネードが甲斐のホバーバイクのすぐ横で着弾し、バイクもあおりを受けバランスを失った。
「クソっ、飛び降りろ!!」
ワイヤー繋ぎのホバーボードもつられてバランスを崩して、四人とも乗り物を失ったので
持っていた機関砲も投げ捨て、後は全力疾走でガンバスまで向かった。
前後左右、阿熊の攻撃が入るもそれぞれ驚くほどの身体能力でかわしながら
血眼になって全力疾走した。
撤退路を死守していた縄文寺達は今もなお激しい戦闘を続けていた。
四人はその姿が目に入るや無線で自分たちの方向の射撃を停止させ、急いでガンバスに飛び乗った。
縄文寺は甲斐から無線で報告を聞き、暫く絶句したのち呟いた。
”・・・・・・・・・ふざけてんの?”
縄文寺を始めとした一同は信じられない様子で冷たい視線を”間接的”に辰に浴びせる。
「辰、お前・・・・・・播州人だな」
「うん、典型的なクソ野郎」
”ひどいよね、クソヤンキー”
”馬鹿じゃないの?!”
”とっとと行くぞっ!対核準備だ!急げ!今馬鹿ども!”
「相手に敬意等は一切払わない、利己的主義者、まさにオッサンですね」
「こんなのと、一緒の仲間と思われたくないな」
「俺さ、他の地区に行くと第五の地方ってややはぐらかしていうもん」
「ああ、やっぱオッサンだわ」
一連の流れを見ていた自警団一同は直接・無線問わず、口々に辰に文句を垂れる。
辰は、そんな文句をただ黙って受け入れ、アイに絶叫にも似た命令を下した。
「アイ、全速、前進、全員、退却ー---!!」
やがて、辰達の何なのか知った女将が過ぎ去り行く辰達一行を天守閣から睨みつけ、
血がにじんだ涙を流しながら雄たけびを上げた。
手には置時計が握られている。
どうやらそれがなんであるか悟ったらしい。
天空城周辺に女将の断末魔が響き渡る。
「クソ人間――――!!!!」
その日、天空城は崩壊した。
せっかくの青空は、どす黒い日々を経て、再び、また曇り空へと変わったのである。




