09 天空城決戦へ05
辰達だけではなく今この放送を聞くすべての人は驚愕していた。
なぜなら、大戦後の全国に伝えられた人類交代宣言より10年以上に渡り阿熊の親玉など
表舞台に現れることなど皆無であった。
その親玉が長い時を経て、”女将”と周りの阿熊から称される恐らく頭であろう阿熊が人類に話しかけている。
全ての者が動きを止め放送に静かに耳を傾けていた。
「私たちのテリトリーを脅かし、我が”国”へ侵攻を続ける全ての人間の軍隊に告げます。
今すぐ武器を捨て、退却なさい!」
ルイは辰に無線で問いかける。
「マジかオッサン。こりゃあなんかの罠か?」
「姫川市が私たちの”国”と来たか、随分な言い草だ。
アイ、ガンバスは市街進行を続けろ。少しでも妙な動きが有れば即対応だ」
”了解”
防災スピーカーを通じて伝わる声はとても熊とも思えないほど落ち着いた品性あふれる女性の声だった。
「・・・あなたたちがかつての住処を取り戻そうとしていることは理解しています。
ですが考えてみてください。今このとてつもなく厳しい自然環境の中で生身で生き抜くことができるのでしょうか?
私達、屈強な身体を持ち、環境変化に耐えることの出来る阿熊ならもちろん可能です。
この自然との調和を保つことができることでしょう。
人間ももしかしたら可能かもしれません。
ですがそれは今も昔も変わらず科学を使いあらゆる物や生物を見境なく破壊し、殺し、消費し、食いつぶす
この地球上の最も害のあるやり方、生き方。
はっきり申しましょう。あなた達はもう、とうに霊長類”失格”なのです」
辰はそれを聞いて思わず噴き出した。
「霊長類失格って言われちゃった・・・」
”元気出してください。私達AIもそう変わりませんよ”
珍しく、アイがフォローを入れている。
「もう承知の通り、私たちはの生みの親は確かに人間であり、この海を隔てた大陸側におられるのでしょう。
ですが私たちは生みの親だからという理由で決してそれらに屈服することなく、
私達自ら自然との調律文明を築き上げます。
なにより、毒の大地と称される地育った作物も人間には毒でも私達には無害なのです。
さあ諦めるのです。もう、愚かな真似を重ねないでください。そして隠居に慎むのです。
かつて木々を切り開かれ、山を追われ、住処を追われた私たちのように。
今度はあなた達の番になっただけなのです」
辰は放送を聞き終えて、半ば呆れて、そして今までの困窮・悲痛の生活を思い出し怒りをあらわにした。
「霊長類失格?人類交代?俺らにんなもん関係ないやろ、要はケンカ売ってるだけだろ?!ぶちのめして―――」
ドゴンッ!!
辰の搭乗するドローンの床下の一部に穴が空いた。
「っ?!クソ、しまった気を取られっ!!」
辰は浮力を失い急降下するドローンの非常レバーを自身が飛ばされる前に急いで引く。
ドローンからは無数のエアバッグが幾つも飛び出し、地上衝突の衝撃を寸で受け止めた。
その直後、辰は衝撃でただでさえ傷ついた体から激痛が走るも、歯を食いしばって急いで飛び出し
離れた瞬間にエアバッグが破裂しておびただしい煙幕を出した。
「人間が、姑息な真似し上がって」
ドローンを撃ち落としたのは針の率いる阿熊達であった。
皆、一斉にガンバスに向けて砲撃を開始する。
辰は急いでガンバスに戻って機関砲を拾い上げると、撃鉄を起こしながらハッチを開いて
外に向けて射撃を開始した。
「死ね、死ね!この!ふざけやがって!」
「オッサン、落ち着けって!」
ルイが操舵席からコンバットハイになる辰をなだめるものの、もう心ここにあらずの状態だった。
”緊急、ロケット弾4発接近、迎撃、回避不能!”
ブザーと共にアイが伝えるものの、既に間に合わずガンバスの応急処置した装甲やルーフ部に二発直撃した。
「ぐぉおおおおお!!!」
ガンバスに大きな衝撃が走る。
「畜生、畜生、畜生めーーー!」
機関砲を投げ捨てると備え付けの消化器に持ち替え、急いで消火作業に入る。
もはやガンバスの車体は3分の1が虫食い状態になってしまった。
衝撃が収まると今度は奥から火の手が上がった。
車内に響く警告音に辰は新しい消火器を取ろうとした、とその時。
ふと、撃ち破られたルーフの一部からから開けつつある曇り空が垣間見えた。
「・・・・・・・・・・・・・嘘、青空・・・何年ぶり・・・・」
顔を上げたまま暫く硬直してしまった。
直ぐに気が付き、ふと開けたままのハッチに目をやると
もはや近距離まで詰めてきたアンチマテリアルライフルをかまえる阿熊の”針”と目が合った。
「あ、」
光の速さで脳裏をよぎる、この間作戦で目の当たりにした頭を吹き飛ばされた池田隊長。
所詮人間、死ぬときはこんなものなのか―――。
ドンッ!と針のライフル弾がガンバスを突き抜けた。
だが。
ライフルの大穴は辰の真横に空いた。
「オッサン、ボサッとすんなや!」
ルイが叫ぶ、モニターを見てとっさに操舵を切ったのだ。
「!!」
条件反射でうつ伏せになり先程投げた銃を瞬時にとって構えようとする、が。
(くそ、奴は早いぃ!!)
針は既に再装填を終えて再び狙いを付けていた。
ダ―ン!!
大きな破裂音が聞こえた。
頭が吹き飛んだのは”針”の方だった
だが辰は驚愕の表情だった。
なぜなら辰の構えた銃は既に弾が無くなっており、引き金を引いても撃てなかったのである。
「なんで?!何が起こった」
唖然とする辰にアイが呼びかける。
”味方識別コード接近、距離150mあまり”
「味方ぁ?!」
ルイは思わず素っ頓狂な声を上げた。
徐行で走る、ガンバスの横にたどりついたそれは見覚えのあるホバーバイクだった。
「・・・・・・・・甲斐さん?・・・ああ、甲斐さん!嘘だろ!」
「よお辰、そのバス、天空城観光バスツアーだろ?俺も乗車するよ。ちょうど観光したかったんだ」
「甲斐さん、甲斐さん!どうして!」
辰は思わぬ援軍に感動し、半泣きになっていた。
「じゃあ、俺もいいか?校外学習だろ、道中暇つぶしのおもちゃいっぱい持ってきたよ」
「鏡、お前!」
ホバーバイクの後ろには補給隊の鏡も乗っていた。
背中には人一人分はあろうかというデカいコンテナと銃がたくさん吊り下げられている。
「松井隊長、2時方向!」
甲斐はインカムで連絡する。辰が斜め前方を見ると既に第一地方自治体自警団のガンバスが
リーダーを失った阿熊群を掃討中だった。
”対応中だ、ユニト行けるか?”
”了解、バトルドレス・アクティブモード・オンライン・・・・レディ・・・”
ガンバスのルーフにはハイロイドのユニトが身体の様々な箇所に装甲を身に纏い、両手に銃を持って立っていた。
”start”
ユニトの目が光り、飛翔し、身体を宙で捻らせ、辺りの阿熊に一斉掃射を開始した。
「松井まで、あいつら・・・」
”晴天”の霹靂だった。
数年ぶりの青空を拝むと同時に、一生分の幸運が訪れたようだった。
「よっとっ」
二人はホバーバイクをオートモードして磁力コードで車体をつなぐとガンツアーズに搭乗した。
「甲斐さん、いったい・・・」
「縄文寺に連絡を受けてな。自衛隊が目を光らせてることもあって、
第二地方の本部に無理やり許可を下ろさせててほとんど”お忍び”で参上した。
だから合流ギリギリまでは信号は出せなかったんだ。スマンな」
荷物を降ろしながら鏡も疲れた様子で呟く。
「マジで大変。陸自には今度会ったら問答無用で射殺されるかもな・・・」
辰は涙をこらえ、二人に感謝した。
「ほぉ、オッサンも柄にもないことをするんだな。まあ、込み入った話は置いといてオッサンのケアでもするか」
甲斐はいつもの調子で辰をおちょくった。辰にはそれが嬉しくてたまらなかった。
「ルイ、操舵を変わろう。俺は先の作戦で体の融通が利かない、お前が辰のフォローをしてやれ」
鏡はそう言って困惑するルイを操舵席から追いやった。
「おい、マジか。マジな戦闘なんて久方振りやで」
「ガンツアーのお前なら余裕だろ?!頼むぞ、ルイ」
そう言って、辰はルイに銃を押し当てた。
ルイは腹をくくったように肩をまくってライフルを携え始めた。
「アイ、状況を」
”進行方向に敵勢力微小。
このまま侵攻可能ですが車体損傷甚大により予備モーター走行の為、出力低下の為速度30km制限。
使用可能兵器、フロントバルカン及びAB群セントリーガンのみ残数約18%”
それを聞いて、皆が輪になって銃を整えながら甲斐が他に伝える。
「もう搭載武器には頼れんな、俺達の射撃と第一地方自警団の支援で何とか天空城までたどり着こう」
「いいのか?この作戦は生きて帰れるかもわからんのに」
辰の心配を他所に甲斐が言う。
「命の心配して、こんなところまで来るか?それに鏡から聞いた。あるんだろ、”虎の子一代”」
辰はそれを聞いて、前方隅の床下を見た。
平常時はミサやイルからエロ本を隠すためのスペース。
しかし今は黄色いテープで囲まれた点検口には見覚えのある”放射線マーク”が貼られている。
「オッサン・・・お前!」
「大丈夫だルイ、あれは最悪の事態。犬死にならないための最終手段だ」
銃を整え終えるとそれぞれ左右に分かれ、ハッチや、撃ち破られた装甲の間から銃を構える。
外を見ると、遂にガンバスは天空城の南大通りまでたどり着いていた。
もはや敵の本丸は目と鼻の先である。
周囲には屈強な無数の阿熊が先ほどの放送を聞いて戦意向上させ、雄たけびを上げたり、天に向けて槍を突き立てている。
辰はそんな様子を一望しながら言った。
「でも、もし犬死するならその前に阿熊どもに一つ教えといてやる。
俺たち人間はな、お前らに何時までも食らいついてやるって・・・」
一呼吸おいて。
「だって俺ら霊長類失格だもん!」
一同は屈託のない笑みで、笑いながら機関砲をそれぞれ四方八方外へ向けてぶっ放し、
天空城の南門を破壊して突入した。




