09 天空城決戦へ02
辰と縄文寺は重厚なデスクを挟み、高級なソファに深く腰掛け窓から見えるどんよりとした空を眺める
霧島幕僚長、現・作戦司令官と対峙していた。
元々院長室であったらしいこの部屋は、その雰囲気も相まって余計に重々しい空気が立ち込めている。
「・・・第五地方自治体連合自警団・本部長として断固拒否します、その要請にはお答えできかねます」
「まあ、普通はそう言うわな。君はどうだい、えー誰だっけ?辰クンだっけ?」
あっけらかんとした物言いに縄文寺がカチンときたのか即座に言い返す。
「第5小隊”隊長”・辰隊員です」
「そんなことは分かってるよ。それに私は今”彼”に質問しているんだ、なぜ君が答えるよ?」
霧島司令官は急に椅子を回転させて窓から二人に向き直りギロリと縄文寺を睨んだ。
司令官は顔のしわなど老け方を見る限りは60歳は超えているような感じであったが
それを感じさせぬほどの鍛え上げられた身体が一目見るだけで直ぐにわかった。
霧島の凄みに思わず尻込みする縄文寺。
辰は体の怪我の痛みもあってかあまり緊張した様子もない(緊張しようにもしようがもない)が
それでも、この現在のトップに君臨する彼には礼節を持って答えた。
「は、私は特別異論はございません」
辰は短く、そして力も入らず答えた。
「辰!」
「いいんだ、縄文寺。どのみち俺の隊は負傷者も相まってまず前線は無理だ。
そして少しでも”数”を用意したいんならそれが最善であると思う」
辰の物言いに縄文寺はただ悲壮な表情を浮かべた。
「でもこの要請は・・・」
「”死ね”といってるようなものだろう?なあ辰クン?ははははは」
縄文寺の呼びかけに霧島が横槍を入れる。
「辰隊長、作戦履歴を見る限り君は今まで似たような任務を幾つもこなしてきた。
その中で成功・失敗に関わらず第五小隊は必ずある答えを提示している」
「ある答えとは?」
「”生き残っている”ということだよ。
これは今の世の中においては奇跡的とも言って良い、そしてその奇跡こそが君たちの実力そのものだよ」
辰は思いもよらなかった、生き残るということが成果・評価に値するなど。
横で聞いている縄文寺も霧島という人間はやはりトップに君臨するだけあって物を見ているという事かと驚いていた。
「もちろん、本作戦においては君が請け負うものは最も”死のリスク”が高い。
だが勘違いしないでほしい、死のリスクを背負わないものなど一人もいないのだ、それは今に至るまでずっとな。
特に今回は私達、連立自衛隊もかなりのリスクを背負う。・・・奇跡的に無傷で見つかった
”中距離弾道ミサイル”、本来フリゲート艦に搭載するものを”トラックに積んで手動で”発射するのだからな。
それも、まるで子供の工作のようなチープな発射台を使って」
それを聞いて事前に作戦要綱に目を通していた縄文寺は驚愕した。
「待ってくださいっ。専用車両を使うのでは!?」
「もちろん、”それ”は専用車両だよ。まさかいわゆる軍用車両とでも?どこにそんなもん残ってるんだか」
縄文寺は呆れてものも言えなかった。だが予想できなかったわけではない、なにせ自分たちがそうなのだから。
でもせめて隠れた戦力が温存してあると思いたかった。
ただ希望的観測である。
そこに辰が少し歩み寄り、礼をしながら弱々しく発言した。
「霧島本部長、私はこの度の要請・ご命令を謹んでお受けいたしたしたいと思います。
ですので不躾ながら少し陳情とお願いを申し上げたいのです」
辰の真剣な眼差しを食い入るように見つめ霧島司令官は問いかける。
「ほう、なんだね言って見なさい」
「私の隊・ガンツアーに出来る限りで構いません、弾薬と兵装を。あと、出来ればデコイの車両を」
霧島は仰け反って笑った。
「ハハハ!流石、縄文寺本部長”お墨付き”のガンツアーだ、肝が据わっている!
無論だよ、任せなさい。で、これはまだ”陳情”だな。後”お願い”は何なんだ」
既に霧島には予想がついているのか、あえて辰に答えさせた。
「うちの隊員であり、現在負傷中の長谷川ルイ、蔭木ミサ、蔭木イル三名の作戦除外並びに保護をお願いいたします」
「辰、貴方・・・!」
縄文寺は心配で聞くや否や思わず辰の腕を掴んだ。
「大丈夫だ。今、本部のエンジニア・レイがAIにアップデートをかけて、ガンシステムまで回るよう量子コンピューターを調整している。
俺一人でも十分やれるようにして見せる」
辰はそう言うと、縄文寺に痛々しい笑顔を向けた。
霧島は最初から分かっていたように少し口をニヤつかせ立ち上がり辰の方へ歩き出した。
「もちろん構わんよ。彼らはまだ若い、”若さは未来”そのものだ。幾らでもやりようがある。
怪我が治ったら自警団本部の”内勤”に回そうじゃないか、善処しよう。
・・・では、覚悟はいいんだな。二言は無いぞ、辰隊長!」
霧島は怪我をした辰にも容赦することなく両肩に気合を込める様に力強く手を置いた。
「・・・っ、り、了解です。天空城直通の国道での囮担当、引き受けます」
そう言って辰は霧島の目を睨みつけた。
縄文寺は掴んだ辰の腕を引っ張りながら扉に向き直り歩き出し、霧島に吐き捨てる。
「・・・少し失礼します!また後程、お伺いいたします!」
「ああ、結構結構。私はここにおるよ」
出ていく二人を尻目に再びデスクに戻り、また窓の景色を眺めた。
「・・・はぁ。ったく嫌な役回りだよ」
縄文寺は辰の腕を掴んだまま、上階のテラスへと躍り出た。
「あなた、本気なの?!天空城までの国道は前と同じように阿熊の巣窟よっ」
「大丈夫さ、国道付近に陣取る阿熊の主力相手にぶっ放して、
出来るだけ天空城周辺の阿熊の注意を”南”にそらすんだろ。
その間に陸自と自警団が北東方面から、そして第二地方の待機の連中と共に城の攻略、楽勝よ。
姫川市にいる阿熊ぐらいは直ぐにこっちに来るやろ?」
もう縄文寺は辰の顔を見るのがもう辛いのか首襟をつかんで、顔をうずめていった。
「作戦じゃないの、”あなた”の心配をしてるの!どれだけの数を相手にすると思ってんのよ!
姫川市内は凶暴な阿熊の巣窟よ。死ぬわ、100%!絶対!それでいいのあなた!?」
辰は特別動じることもなく、暫く空を見つめた後呟いた。
「いつも曇り空だよな。いつになったら晴れるんだろうな、空?まあ、つい最近、灰色の曇り空の原因をまた作っちまったが」
辰は縄文寺の手を両手で優しく握った。
「昔いったよな。
”どうしてこんなことになったんだろうね””このまま死んじゃうのかな”って。
でも、今にして思えばこんなにも必死に”生きてる”って感じがする」
縄文寺は顔を上げた、目は晴れて涙がにじんでいた。
「この間、第六の鏡も言ってたよ。
いつの時代も、苦しんで、辛くて、痛くて、それでも生きて世代を繋いで、俺たちが”今”生きてると」
優しく握った手を、より強く握る。
「縄文寺。あいつらの事よろしく頼む。お願いだ。俺は、俺が”生きてきた”ようにあいつらにも”生きて”ほしい」
すると縄文寺はいきなり手を振りほどいて力強く抱きしめて耳元で呟いた。
「・・・ホント・・・昔から・・・・自分勝手・・・クズ!」
「・・・縄文寺」
「囮だからって玉砕するんじゃないわよ!戦いなさい!」
「あたりまえだ、あくまで俺は”生き抜く”」
「・・・・・・・・・・いいわ、今から頼める人間全員にガンバスの善処を頼んでみるわ。
貴方も頑張んなさい、いいわねっ!」
「もちろんだ」
「・・・じゃあ、回れ右してとっとと行く!」
そして、縄文寺は身体を引き離すとそのまま背中を向けてもう振り向くことはなかった。
辰は彼女の背中と空のグラデーションを目に焼け付け、建物に取り急ぎ戻っていった。
今、辰とガンツアーのガンバスは作戦の為、国道に入った。
今日はたった一人、辰は操縦席に座っている。
「アイ、調子はどうだ?」
”ファームウェア、最適化完了100%です。ポテンシャルは実践で最大限引き出して見せます”
「ほお、なかなか言うようになったじゃないか。まさか俺がAI相手に仲良くおしゃべりするようになるなんてな」
辰はそう言いながら戦闘服にハーネスをまとい、手持ちの銃や端末を操作する。
今辰は作戦目的地に向かって進行するガンバスのルーフに搭載した大森隊長形見のドローンに乗っていた。
ドローンは配送用器具を取り外し全てガンコンテナやラックに改造してある。おびただしい数である。
”ありがとうございます、辰さん”
「ん、ありがとうとは?」
”いつもAIに人のようにしゃべりかけてくれるのは自警団では辰さんぐらいですよ”
「はは、そんだけモーロクしてんだよ。また、話し相手になってくれ」
辰はそう言うといそいそと機器のチェックに再び戻った。
”了解です・・・辰さん、第6小隊鏡さんから入電です”
「繋いでくれ」
”辰隊長、鏡だ。出発前に機器の説明が不十分で申し訳なかったな”
「構わんよ、今必死にマニュアル読んでっから。こっちも悪かったな、えらく急で」
無線の向こうの鏡は申し訳なさそうな感じで辰に答えた。
”心配スンナ。出来る限りいい兵装を回した。俺のおすすめも幾つか入れてる、活用してくれ”
辰はこれから死線をくぐりに行くにもかかわらず明るい声で答えた。
「当たり前よ。縄文寺もかなり手を回してくれたんだってな。周りのデコイ車が凄いことになってるわ」
ガンバスの前方にはガンバスそっくりな二台の自動操縦車両。
さらに横に一台・後方に二台と迎撃システムを組んだ車が自動並走している。
単純攻撃と壁役にしかならないが今のガンツアーには十分だった。
”何とか俺も力になれたらいいんだが、キャンプ内待機を命じられている。ごめんな”
鏡の心配を他所に辰は自信ありげに答えた。
「任せとけよ、こういうのはガンツアーの専売特許よ」
”はは、流石だな。頑張れよ辰、また会おうぜ”
「了解だ」
通信は終わった。
辰は不意に今まで作戦で共に戦ってきた仲間たちを思い出していた。
でも、連絡は取らなかった。未練がましいから。
そう、心の片隅に、自分がもう生きて帰れないことは理解していた。
でも、自分は生きるといった。
だから、いつものように立ち向かうんだ、と。
”―――辰さん、前方500m先に約80点の熱源探知。目立つ動きはありません”
「予定よりも早いな。こりゃ袋叩きの前面衝突か。どちらにせよ、囮役なら突っ込むしかない。
アイ、全車、セントリーガン起動、全ガンシステムスタンバイ、砲身出せ!」
辰はアイに命令する、すると。
「待て待てオッサン。突っ込むって、せっかくドローン搭載してんだろ?おっさんが乗って上から状況を見て指示出せっての!」
「それもそうか・・・よし、それならさっそくドローンにとうじょうしっ・・・・?」
辰は困惑しながらそう言うと少し硬直して、ゆっくり口を開いた。
「・・・おい、ルイか?・・・・もしかしてガンバスに乗ってるのか?あれだけ確認したのに!」
いつの間にか、包帯グルグル巻きのルイがガンオペレータ席に座っていた。
「あのなぁ、今時自分が仲間をかばって玉砕でお涙頂戴なんて”昭和脳”が考えることだよ。
そんなんだから、万年”オッサン”呼ばわりなんだよ」
「だめだ。今すぐ降りろ。ここならまだ阿熊もいないっ」
ルイは制止しようとする辰に構わず喋りだす。
「なにいってんだよ、だいたいこのガンバスは俺達の”家”でもあるんだぞ!オッサンの好きにさせるなって二人も言ってたぞ」
「っなに?!」
辰はしてやられた気持ちになった。
病院で治療中だったため黙っていたがなんと全て筒抜けだったのだ。
「生きるんだろオッサン!言い出しっぺが真っ先に死にに行くのか?!」
・・・少し間が空き。
「・・・ルイとミサには言っておいたよ、辰おじさん」
辰は呆れながらも、観念した顔で伝える。
「この大馬鹿野郎・・・・・・・・・・・・・・行くぞ、”二人”とも!」
「了解だ!」
”了解!”
辰は作戦本部へ無線でコールする。
「こちら第五地方自治体連合自警団・第五小隊ガンツアーズ、”姫路天空城”作戦状況開始!」




