08 愚者の陽動作戦06
「時速45キロ・・・アイ、もう少しスピード出せないか!?」
鏡隊員はルーフ上から追ってくる阿熊に向けてバズーカ砲を交互に放ちながらアイに尋ねた。
”現在損傷率82%、本来は徐行もままならぬ状況です”
アイはステイタスモニターを映し出す。
そこには例のアニメの少女の絶頂寸前の表情と、危険・脱出推奨などの項目が並んでいた。
「クソっ、このままでは地雷区域まで届かずくたばるだけだ。そこまで遠くもないんだが・・・」
追手の阿熊達を迎撃しながら今後の状況を考える。
(最悪、俺が囮になってでも彼らをポイントまでゴールさせなければ・・・だがこれでは)
というのも、追手は最初の方から現存するゴリやエリート阿熊だけでなく
道中からポツポツと他の阿熊も戦力に合流しているようなのだ。
それらは、先のエリートどもと違い槍を投げたりデカい弓を弾く程度なので何とか迎撃出来ているものの
新たに銃を撃つ連中が加わればもうおしまいである。
”・・・ううっ、聞こえる?・・・鏡さん?”
突如無線から、苦渋の声が小さく聞こえてきた。
「誰だ、もしかしてミサか?大丈夫なのか?」
”っへへ、何とかね・・・。でもイルが重傷、ルイもまだダメ見たい、オッサンが今必死に応急処置してる”
ミサは激しく痛む身体を必死に起こし、車内の様子を伝えた。
「かまわん、ミサ、何とかオペレート出来るか?阿熊の軍勢を何とか払いのけたい。
モニターに目的ルートが出ているだろう、アイに教えてもらえ!」
ミサは震えながらオペレートするスツールに座ると震える腕でコンソールを叩き、アイと協力して状況の把握に努めた。
「・・・オーケー、わかった。出来るだけ他の阿熊がいないところを通るようにルート設定する。このまま
222号手前の地雷原までね」
「そうだニーサンまで行けたら俺達は助かる!後、セントリーガンの補充を出来るか?後方の補給口だけでいい」
「出来るも何もやんなきゃ死んじゃうでしょーが。でももう残りの弾も少ないよ・・・」
そう言うとミサは床に転がっているバケツを取り、予備弾丸箱へ向かうとゆっくりとバケツに弾を汲み上げていった。
「頑張れ!」
そう言った矢先、目の前を黒い影が覆った。
(!!!!!)
黒い影、阿熊のゴリが奴らのドローンでこちらに向かって飛翔してきたのである。
目に入るや否や、鏡はバズーカ砲を手から離しながら条件反射で叫んだ。
「メッサートマホーク!!」
”有効時間62秒”
無機質なアナウンスと共にガンバスに繋がったコンテナの天井から大きな斧がせり上がり、鏡の方へ飛んで行った。
鏡は体で受け止める様に振られながらも絶妙な具合でキャッチし
ゴリの振り上げた鉈を遠心力を生かした横切りで受け止めた。
「辰!俺が本当のメッサ―の使い方を教えてやるよ!!」
「先ほどのこざかしい真似はお前か?脳天を真っ二つにしてやるよ!」
そして、ガンバスのルーフの上で鏡とゴリの壮絶なタイマンが始まった。
お互い、生物の限界に臨まんとばかりに凄まじい動きで刃を交え合う。
本来ルーフはセントリーガンで迎え撃てばいいのだがもうそのほとんどが潰れて沈黙しており、
残った銃砲群も他の追手を迎え撃つのに精一杯であった。
「おおおおおおおおおおおっ!!!」
(くそっ一発一発が凄まじく重い、辰はこんな奴に肉弾戦挑んでいたってのか?!)
鏡は威勢よく斬りかかるもののゴリのアドバンテージを崩すことなく、もはや体力が持ちそうになかった。
(畜生、あともう少しだってのに!!)
ヒュー――ン。
突然、斧から電子的な音が鳴り響いた。
(ヤバイッ、バッテリー切れ?!これじゃ、もう受け止めらっ・・・)
人間と阿熊の力の差は歴然である。それでも対等に渡り合えるのは武器の電磁アシストがあるからである。
それが今切れるということは。
「こういうことだっ!」
ゴスッ!
ゴリの渾身の一撃を何とか受け止めたが斧は弾き飛ばされ、鏡は前方の際まで弾き飛ばされた。
「ゴミがよ、とっとと死なんかい!」
ゴリは近づいて鏡を足元で見下ろすと、持っていた鉈を逆手に持ちかえ、そのまま振り落とした。
(クソっ!!)
鏡は目を見開き、その振り下ろされる刃に釘付けになった。
ドンドンドンッ!
「ぐはぁ!!」
突如ゴリの背中に強烈な痛みが走る。だが態勢を崩すことなくゆっくりと振り返るとそこにはハッチから身を乗り出して
こちらに向かい大型ピストルを向けた辰がいた。
「お前の相手は俺だろ木偶の坊がっ!」
「クソオヤジ・・・まだくたばってなかったとはな」
辰は何とかルーフまでたどり着き、ゴリと対峙した。
「・・・兄弟の敵を討つんだろ?付き合ってやるよ」
「付き合うにしてはもう立っているのもやっとの様子じゃねーのかよ」
「ハンディキャップに決まってるだろ、この間抜け」
お互い前からの因縁ということもあってか、余裕の笑みでにらみ合いののしり合った。
「スマン辰、任せるぞ!!」
鏡はそう言うと身を翻してそのまま前方のルーフハッチに落ちる様にもぐりこんだ。
「兄弟など正直どうでもいい。俺には戦いこそすべて」
辰を見据えたまま、ゴリは続けた。
「辰、家族を持たないであろうお前にはわかるまい。
俺達にとって子供は全てなのだ、自身の子どもすら殺める人間とは違ってな」
辰はそれを聞くや否やいきなり高笑いをした。
ゴリは突然のことに困惑する。
「ハハハハッ、子供が全て?家族が全て?ハハハッ、そんなもんはなぁ」
辰はなんとピストルを投げ捨て、腰をかがめてナイフを持ちファイティングポーズをとる。
「とっくに失ったよ!」
「っ!?」
言うと同時にゴリへと駆け出し目と鼻の先まで距離を詰めると突然しゃがみ込んだ。
ゴリはあわてて鉈を振るが辰はそのまま股をくぐり背中に回ると首に腕を回してしがみ付き、
常人とは思えない速さでナイフを幾度も突き刺した。雄たけびを上げながら。
「おおおおおおおおおっ!!!!!!」
グサッグサッグサッ!
ゴリは鋭い痛みを受けながらも辰を振りほどいた。
「ぐはっ!」
そのまま倒れこむ辰、と同時に辰の肩から突如血しぶきが上がった。
(狙撃!!)
辰は狙撃元であろう所に視線を向けるとドローンに乗った小柄な阿熊が目に入った。
新たに加わった見慣れぬ追手の阿熊である。
「やめろやボケッ!お前らは手ェだすなや!」
だがゴリは有難迷惑とばかりに狙撃手の方に向かって雄たけびを上げる。狙撃者は困惑した様子で身を引いた。
「・・・辰、お前との因縁もここまでやな。くたばれや」
(!!)
辰はそのまま伏せたまま覚悟を決めようとした。
だがその時、胸のあたりにわずかな小刻みな振動を感じた。
「覚悟を決めたようだな、死ねや」
鉈を振り落とすゴリ。
と同時に辰は身を翻してすぐ横に仰向けになった。
するとうつ伏せになっていた所はルーフから内部へと続く点検口になっており、そこが開いていた。
「!!!!!!!」
開いた点検口の奥の瞳と目が合う。
そこには単装砲を構えた鏡がいた。
「ごめんな、汚い人間で」
―――――ゴリの頭が砕け散った。
ゴリの返り血を浴びながら辰は呟く。
「ゴリ、お前の言うとおりだ。こんな汚い俺ら人間はきっと今以上の地獄に落ちる。だからどうかあの世で笑ってやってくれ」
辰はそのまま力なくルーフで大の字になった。
ガンツアーはボロボロになりながらも何とかして目標ポイント目前までたどり着いた。
「オッサン、間もなく電磁地雷原!」
少し持ち直したであろうミサが入るや否や辰に伝えた。
「・・・了解。鏡、準備は?」
「大至急でやる。アイ、権限を辰へ戻す。多目的ステーはまだ生きてるな」
”使用可能、ただし補助装置に異常があるため最終調整は目視によるマニュアルを推奨します”
辰はそれを聞いて舌打ちする。
「”ボタン”はお前で押せってか?ああいいさ、もうこうなりゃ自棄だ」
辰は身を翻して車内に戻り、ガンオペレータの席に着いた。
「追手は?!」
「以前こっちに向かってガンガン撃って来てるよ!」
ミサはモニターを見ながら伝える。
「良いか?電磁地雷原を抜けると同時に直ぐに起動しろ。その後に電磁フェンスも作動して追手を完全に断ち切れ」
「了解!」
ガンバスようやく電磁地雷原にたどり着いた。
地面がガタガタなため速度を落としながらもなんとか抜け切る。
そして。
「アイ!起動しろ!」
”了解、電磁地雷作動”
辺りに雷のような閃光が走る。そして追手はその閃光の海へと揉まれていった。
「どうだ?!」
モニター確認するミサ。
「大丈夫、振り切ったみたい」
辰はミサの報告を聞くと今度は鏡の方へ確認を取る。
「鏡、準備は?!」
外のステーに発射機構を取り付けていた鏡は車内に戻ってくる。
「もう大丈夫だ、全員防護服を着ろ!イルとルイにはかぶせてやれ!」
一同は側面のパネルから薄い携帯放射能防護スーツを取り出して必死に着込み始めた。
倒れこんでいるイルとルイにはそのまま何着も覆いかぶせた。
”射撃ポイント到着しました”アイが皆にアナウンスする。
「最大望遠!本部は?!」
アイはガンバスのカメラモニターを映し出す。そこには無数の黒煙を上げた本部と幾数もの阿熊が飛び込んでいた。
「くそ・・・畜生、畜生、頼むぞ!みんな地下に避難しててくれよ。・・・鏡!」
「了解した。発射シーケンス開始!発射十秒前・・・」
ガンバスの射撃ステーが作動し、小刻みに微調整を開始する。
辰は傍らにあったジェラルミンケースを開けると発射ボタンのガードを外した。
「いいか、発射後は暫くはマニュアル通りの待機だ、何があっても微動だにするな!」
辰はそう言うと目を瞑って天を仰ぎ見、祈った。
「5,4,3,2,1・・・今!」
「発射開始!」
グッっと力づよくボタンを押す。
ドンッ!っという破裂音と共に二発の核砲弾は本部方面の空へ向かって飛翔した。
―――――――暫くの沈黙の後。
強烈な閃光。
そして、耳を貫くほどの音共に。
衝撃波が走った。




