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07 スプリングタウン06

阿熊のスプリングタウン襲撃から約2週間。

「えー、以上のことからここ数年での整合性も踏まえ、体内のナノマシンも一致したことから・・・」

「なぁ室町、ナノマシンって言ったらあれか?昔ウイルスだのワクチンだの何回も俺らに打ってた―――」

「黙って聞く」

室町は肋骨周りをコルセットで固めた包帯グルグル巻きの辰に小声で注意した。

 ここは、スプリングタウン内のビームライン研究所。

かつてスプリングエイトとして世界でも有数の研究施設として名を知らしめた場所である。

研究者や高官や公員の住居施設もあり・研究所と共に国の管轄下に置かれて、

大規模ドームに覆われ国家直属自警団に守られた”上級国民達”の住む町スプリングタウンである。

当然、辰を始め自警団や民間人は本来立ち入ることは決して許されない。

地下大規模プラント施設は地上と違い毒に汚染されていることは一切無い。

半自動で生産される作物を始め、人口肉、地下水脈に豊富な資源。

此処だけはいまだ外界とは別次元の、それはかつての日本の残り香があり、長らく過酷な

環境に身を置く辰たちガンツアーにとってはそのあまりの外とのギャップに居心地の悪さを感じた。

そして今、タウン内の大講堂会館では辰とイルを始め先の作戦を命からがらくぐり抜けた部隊の代表達がガン首をそろえ

阿熊対策本部研究所長の説明をけんもほろろに聞いていた。

「あーもう、わかった偉いオッサン。とりあえず技術的な話はいいから要約して話してくれや。

ここにおる連中は”学”のない奴ばっかりやからよぉ!」

辰達の斜め後ろにいる一際デカい男が椅子から立ち上がって前の机に勢いよく手を叩き、声を張り上げる。

所長はギョッとして思わず身震いした。

横にいる助手らしい者に小声で一言二言、会話を交わすと所長は冷や汗をぬぐいながら言った。

「えー、つまりですね。この近辺一帯の阿熊達はみな人為的に作られた”B兵器”バイオ兵器なのです。

先程も申し上げた通り、阿熊達は人間じみた行動を取りますが、決して知性が野生を上回っているという事ではございません。

現在阿熊には総括、司る個体が存在していることを確認しております。それを何らかの形で対処することにより、

その個体・・・そうですね、わかりやすく”ボス”としましょう。その”ボス”を殺すか・・・まあ破壊?することにより

少なくともその周辺の阿熊は皆、それぞれ統率が取れずいわゆる野生へ戻るのではないかと推測されます」

「チッ、ちまちま言いやがってクソが。結局昔の大戦兵器が原因で尾を引いてだけやろがい。ダボがよ!」

デカい男は悪態をつくとドカッと椅子に座って前の机に両足を勢いよく乗せた。

「あのデカいのって国の人間?バスに乗らず生身で戦った方がよくね?てかなんであんなのが国に雇われてんの!?」

イルは隣の辰に耳打ちした。

「聞こえてんぞ、田舎地方のメスガキが!」

「・・・・ああっ!舐めた口きいてんじゃねーぞダボがよ!」

イルが立ち上がってガンを付けるのを隣の辰が怪我のためか弱々しく制止する。

「や、やめろって。お~い、誰か・・・」

「やめなさい!!今そんなことしてる場合なの?!今は一刻も早く今後の方針を決めなくてはならないのよ!」

そこに、所長と同じ講壇にいた縄文寺が制止する。

二人は暫くにらみ合った後、しぶしぶ椅子に着いた。

「イル、今は大事な時だ、つっかかるのはやめてくれ。」

「わかってるよ、あのオッサンがいきなり突っかかってくるから・・・」

不貞腐れるイルに対し、辰は前を向いたまま淡々と呟く。

「皆もう、疲弊しきって気が気でないんだ。それにここは国の直轄区、俺たちがいつまでも滞在するのは

禁止されている」

「上級国民様の土地には立ち入るなって?誰が守ってると思ってんのよ。

それにさっきから何なのあのベラベラ喋る”むくんだ”じじい。あれがB兵器なんじゃないの?」

「・・・・・・・・・・」

イルはさっきからずっと説明する所長を怪訝な目で見ていた。

「ああ、ありゃ”デブ”って言うんだ。飯を毎日たらふく食うとああなるわ。

きっと此処の連中は昔見たく毎日三食食ってるよ」

辰は呆れながら答えた。

「フン!上級国民!ちょっとはこっちに回しなさいよ」

前の方で座る辰たちの遠慮のないやり取りをただただ所長は愛想笑いでかわしてゆくのである。

「えーっと、皆さん、よろしいですか?ハハハ、落ち着いて、進めましょうね」

「皆さん、こちらをご覧ください」

助手がモニターを操作し、小型カプセルのような画像を前のプロジェクターに映し出した。

「これは3ナノサイズの大きさの大陸製のパルス受動体です。これは2年前、阿熊の前頭葉より発見されました。

これらの解析および研究により、先日ようやくパルストレースに成功。

信号元は同じ阿熊と思われる個体から発生していると突き止めています。

ですので、いわゆる指令を題している個体がいるのは明白です」

辰はそれを聞いて、質問意思として手を控えめに上げた。

助手はそれに答えて手で「どうぞ」とジェスチャーする。

「それは全てにおいて一括に指令を出すものなのか、それとも個々に出すものなのか?知識はどうなんだ?」

「皆さんにわかりやすく説明すると、”クラウド”です」

「クラウド・・・」

さっきまで縮こまっていた所長が自信ありげに前に出て意気揚々と語りだす。

「これは実によくできた代物です。今までの話を聞くと”ボス”が各部下に指令や知識を出しているものとお思いでしょう。

ですが、これは逆になり、部下なる者がボスに”要求”し、ボスがその都度知識や情報を供給するといって間違いないでしょう」

「じゃあ、今回銃を撃ちだしたのは・・・」

辰の核心に所長が答える。

「部下が戦いに勝ちたいためボスに要求した、もしくはボス自身が銃の技能を習得し、部下へ通達したと思われます」

「そんな、ふざけた話が・・・」

辰はうなだれた。

デカい男の隣にいたインテリ気質の男が続けて質問する。

「”ボス”は同じ阿熊で間違いないのか?何らかの生体兵器、もしくは大陸側からの操作の可能性は?」

それに助手が答える。所長をずいっと押しのけながら。

「可能性は今のところ、現地確認しておりませんので不透明であることは否めません。

ですがアメリカ軍の協力を得て、軍事衛星から信号元の発信源を探知したところ日本南西部沿岸・現在は禁止区域に指定されている”天空城”周辺地域にたどり着いたのでそこに答えはあるかと」

「天空城だって・・・?」

インテリは驚きと恐れでデカい男と顔を見合わせた。

「あそこは阿熊達の本拠点だ。あそこは何百匹という屈強な阿熊が根付いてしまっている。

無論、行って生きて帰れる奴なんているわけ・・・」

国家御付きの自警団の面々も思わず、怯んでしまう。

と、その時辰の近くにいた、室町が何かに気づいた様子で縄文寺に問いかけた。

「ちょっと待って!じゃあ阿熊が急に此処に攻め入っていたのって」

「どうやら、阿熊の”ボス”っていうのは知能がかなり高いようよ。

何らかの方法で私達の研究・発見に気づき、取り急ぎ大挙を成して叩きに来たのよ」

「なら一刻を争うじゃないか、どうすんだよこれから」

一同が口々に騒ぎ出すのを制止する様に一喝する様に縄文寺が高らかに言う。

「そのことについて、そして次の作戦についても説明します」

モニターは一旦画像が消え、再び画像が映し出される。

そこにはこう書かれていた。


天空城攻略作戦 作戦要綱 

作戦責任者 陸上自衛隊第二師団 霧島 黒冶 一等陸佐


「冗談でしょ・・・自衛隊が出るの?!国外勢力はどうする気だよ?!」

辰が叫ぶ。

「うるさい!第五地方自治体連合自警団並びに第十一国立自警団はこれより一週間後に陸上自衛隊主導により遂行される

”天空城攻略作戦”に参加し、この一帯の阿熊の撃退と故郷の奪還します!」

一同はそれを聞いて目を丸くして唖然とし、あるものは開口したまま硬直した。


「やばい、死んだわ俺」


「辰、喜美江の調子は?」

ブリーフィングを終えた辰とイルはガンバスに戻る途中、縄文寺に呼び止められる。

「今ミサが面倒をみてる。鎮静剤を入れているからここに着いた時ほど錯乱していない」

「そう、大事にならなければいいけど」

「喜美江の処遇なんだが、うちで・・・」

辰の申し出を間髪入れず遮断する。

「駄目よ、喜美江は当分本部付にするわ」

「ええっ~なんでよ!?この鬼!」

イルが縄文寺に食って掛かる。

「鬼もくそもないわよ。精神に深い傷を負った人間を再び戦場に駆り出す気?だったらあんたらが鬼よ」

「だが、大森さんに面目が立たん。なんとか力になれないか?」

申し訳なさそうな辰を縄文寺が珍しくなだめる。

「いい?あなたの気持ちもわかるけど、今は作戦に集中してほしいの。すべてが掛かっている。

大森さんを偲ぶ気持ちは私も同じ。彼女のことは絶対に守って見せるから」

「縄文寺・・・」

「それよりもあなたよ。本当にいいの?切り込み隊長買って出て。わざわざ責任を感じてリスクの高いものを選ぶ必要もないのよ」

縄文寺の心配は喜美江よりもガンツアーズにあったらしく、辰を窘める。

「いいんだ。大森さんの弔い合戦だ、古株ともケリを付けたいしな」

「大馬鹿かよ・・・」

縄文寺は辰の頭をコツンと突く。

やがて一同はガンバスのドックへとたどり着く。

急造であったがここは物資が豊富なためかかなり修理や補給が進んでいた。

辰達の姿を見たルイとモモが急ぎ駆け足で寄ってくる。

「たいちょールイが~ルイが~」

「ちょっ、なんにもしてねーよおっ!」

いきなり縄文寺に泣きつくモモにルイが焦りだす。

「ルイ、あなたもうちょっと歳を考えなさい」

「おいおい、あんたがそういうかっ―――」

明るく振る舞う一同であったが、深刻さは隠しきれずやがて重苦しい空気が流れだす。

「オッサン、作戦要綱さっき見たよ」

「スマンな。かなり危険だが頑張ってくれるか」

ルイも珍しく辰を気遣う。

「心配すんなよ、無茶には慣れてる。しかしまぁ切り込み隊長とは。また同じ規模で来られたら間違いなくゲームオーバーだ」

「縄文寺たち本隊は天空城攻略のため陸自に合流する。しかしここも死守するため出来るだけガンバスで阿熊をひきつけつつ

タウンを抜けるから俺達も途中まで付き合う事になる」

辰から伝えられた新たな真実にルイは愕然とした。

「馬鹿じゃないの・・・」

「頼りにしてるわ。事実、ソロでの作戦活動はあなたたちが群を抜いてる」

「当たり前だ。元々他の部隊の作戦遂行のための”陽動”が俺らの主な任務だからな」

辰の驚くべきカミングアウトにルイは驚く。

「はぁ、初めて聞いたぞそんなの?!」

「そりゃなぁ、鼻から負けようが勝とうが関係ないなんて言ったらお前らヤル気ゼロだろ?」

辰はニッっと久しぶり笑顔を出した。

「だから・・・だから、ウチんところ結果を問わずいい武器が入って来てたのか~」

ルイはそう言うとすっかり脱力してしまった。それをモモが笑いながらルイの頭をペシペシ叩いた。

「兎に角、あなた達はたった”2部隊”でもう一度あの連中を渡り合わなくちゃならないの。

頑張って頂戴。絶対生きて、いい?」

「ああ、わかってる、わかってるって。なあ大森さん」

辰はそう言うとガンバスの後ろにドッキングされたトレイラーの

大森のイエローサインのマークを寂しげに眺めた。


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