07 スプリングタウン05
「ミサ、喜美江ちゃんを頼む!」
辰はそう言うと床の銃を拾い上げ、壁にかけている救急キットバッグを肩に下げると
ガンバスのハッチへと駆け出した。
「おいオッサン、嘘だろ?!」
ルイが辰を制止しようと声を上げるが辰は既にハッチの解除ボタンに手をかけていた。
「まだ救いが有るかもしれん」
辰はハッチを開け、外へと飛び出した。
去り行く間際、辰の背後ではミサに抱きかかえられている喜美江が身体を震わせながらすすり泣いていた。
外に出るや否や、辺り一面は地獄絵図が広がっていた。
あちらこちらで黒煙が立ち上り阿熊達の怒号や銃撃音、爆発音が響き渡る。
「くそっ、生きててくれ!頼む!」
辰はイエローサインへと脱兎の如く走り出した。
前方まではわずか200mあまり、息を切らせながら無我夢中で足を上げ腕を振り走った。
―――だが、そのシルエットを遠く阿熊集団の一匹が見逃さなかった。
「あれは・・・・・・おいお前ら、ちょっとあっちの方角には撃たんといてくれや」
「なんや、なんかあるんけ?」
「俺チョット用事できたから今からあのぶち壊した車の方に行ってくるわ」
「??」
ひときわ大きな巨体、獣であろうにもかかわらず鍛え上げたかのような筋肉質。
鋭い眼光、傷だらけの片腕。
その阿熊は冷静にただ前を見据え、辰の方へ駆け出した。
肌が焼けるような灼熱の炎の中、辰が必死に叫ぶ。
「第三小隊!イエローサイン!無事な奴は返事しろ!大森さん!おおい!」
辰はしきりに辺りを見渡すが残骸ばかりであり人影のようなものは発見できなかった。
「!!」
そこで床板の瓦礫に挟まっている黒い”人影”を目の当たりにし、思わず目を背けた。
「そんな・・・・・・」
膝をつき、地面に手をついて強く項垂れる。
と、そこにわずかなうめき声が聞こえてきた。
「・・・生きてるのか?!だれか返事を!」
辺りを凝視し、くまなく探す。
―――いた。体が真っ黒になり、腹と腰回りが酷い有様になった大森隊長だった。
急ぎ大森の傍に駆け寄り、手でゆっくり顔をわずかに上げさせた。
大森は、見るに堪えないほど既に手の施しようもなかった。
「大森さん、俺だ。辰だ、わかるか?!」
「た、つ、たつか・・・?」
大森はもう顔もボロボロでわずかに唇が動く程度になっていた。
「そうだ、辰だ。スマン、大森さん。力になれなくて・・・」
辰は涙をこらえて大森に答える。
「き、きみ・・・え、ぶじ、か?」
「無事だ、無傷だ。俺たちが保護している、何の心配もない大森さん!」
それを聞いた大森は最後の力を振り絞り、辰に伝えた。
「きみえ・・・たのむ、またな・・・たつ・・・」
「うううっ、ごめんなぁ大森さん、ごめんなぁ!!」
大森はそういって娘を最後まで思いながら絶命した。
天を見上げ、泣きながら吠えるように辰は叫んだ。
―――だがそんな辰に無慈悲が襲い掛かる。
ハッっと気づき、我に返った時にはすでに遅かった。
目の前には大きな巨体。
次には全身に襲い掛かる衝撃。
そして視界が大きく揺れ自身の身体は宙に浮いた。
「ぐはぁっ!!」
落下により地面に打ち付けられ脳震盪で目の前の視界が揺れる。
「オッサン、こんなところ合うなんてな。これがあれだろ!ここであったが百年とかなんとか。アンとテ、兄弟の弔いよ。
お前も仲間がずいぶん死んだようやし、痛み分けや。もう死んどけや」
辰は定まらない視界からも声からそれが阿熊の因縁三兄弟の長男・ゴリであることを知った。
(死ぬ、しぬ・・・しぬ・・・もう無理だ・・・)
ゴリは自身の腕を大きく振り上げた。手に付けたアームブレードがギラリと光る。
そこに鼓膜が裂けんばかりの無線が響き渡る。
”辰!身体を転がしなさい!”
条件反射だった。聞くと同時に全身の力を振り絞りローラーのように側面へすごい勢いで転がっていった。
「おっ?」
ゴリは辰が引いた途端、視線を正面に見据えた。
そこには縄文寺がガンバスの中からサイドハッチを開き、大きな対戦車無反動砲を構えている。
”今!”
縄文寺は引き金を引き、ゴリに向かって発射した。
一直線に走る閃光。
だが、ゴリはその巨体に似合わぬ俊敏な動きで体をくねらせ、そのまま足で蹴ってバク転すると後方の瓦礫に
身を隠した。
「チッ外したっ!」そう言って縄文寺は苦渋の顔をする。
「ひぇええええええっなんスかあれ?!あの巨体で曲芸師かなんかっスか?」
モモが唖然とした表情でモニターを凝視する。
「室町、急いでっ。飛鳥っ、お願い!」
縄文寺は無反動砲再装填をしながら叫んだ。
「くそっ間に合えよ!」
室町は引き締まった腕で操縦桿をひねり、ガンバスを辰の方角へ目掛け進行させた。
飛鳥もコンソールを操作し、ゴリやそのほかの阿熊に向けて弾幕を張り続ける。
「っち、こんバスはえらい(すごい)やっちゃな」
ゴリはそう呟いて身を翻し、四足歩行で後方にいる仲間の元に瞬く間に駆け戻ると
預けていた土管のような大きさのロケットランチャーを片手で持ち上げた。
「ちょ、マジですか?!隊長、ヤバい奴が来ます!ヤバすぎ!」
モニターを望遠モードで見ていたモモは絶叫した。
「迎撃間に合わない?!」
縄文寺の叫びも空しく、ゴリはランチャーを発射する。
ハイアマゾネスのガンバスが迎撃しようにも誘導性を持つそれは弾幕を縫うようにこちらに接近してきた。
直撃するその刹那―――。
大きな物体が縄文寺達ガンバスの目の前に現れそこに直撃した。
それはイエローサインのドローンである。
ガンツアーガンバスにドッキングしていたトレイラー操縦席にいたイルは
VRゴーグルをおもむろに外し、無線でハイアマゾネスに伝えた。
”何やってるの!!早く逃げて”
「イル!礼を言うわ!」
縄文寺は思わず安どの表情を浮かべる。
そして小銃を持ってガンバスを飛び出し、急いで辰の元へたどり着いた。
「辰、しっかりしなさい!若い子が頑張っているのにあなたがそんなんでどうするの!」
凄い剣幕で辰に激を入れる縄文寺。
「縄文寺・・・大森さんが・・・俺は・・・」
まだ脳震盪が収まらない辰は、千鳥足になりながらつぶやく。
「馬鹿、挫けるな!戦いなさい!仲間を犬死させるな!」
縄文寺は力任せに辰を引っ張り、半ば強引にガンバスに放り込んだ。
「状況を!」
「隊長、マズいです、もう弾が・・・」
縄文寺がモニターを見るとすでにオートで撃てる殆どの弾は消費しつくし、
セントリーガンも側面のCD群が僅か数パーセントになっていた。
(部隊も同じ状況、これではもう持たない・・・)
「ヤバイです隊長。あの曲芸師また射撃体勢に入ってる!」
モニターにはこちらに向かって再びランチャーを構えるゴリの姿があった。
(そんなっ・・・)
縄文寺は覚悟を決め、ほかの隊員を見つめる。
皆顔を見合わせ、お互い頷き合った。
「自決コードを―――」
ガンバスのAIにそう呟いたとき、頭に響くような甲高い音が戦場に響き渡った。
「何!?」
一同は突然のことに困惑した。
モニターを見ると阿熊達が次々へと撤退している。
「・・・嘘、引いてくれたの?」
突然のことに縄文寺は緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。
「私達・・・助かったの?」
それぞれの部隊の人間が皆、死んだような顔で撤退してゆく阿熊達を見つめ
生き残れたことに安堵の息を漏らした。
モモは人生においてこれ以上に無い経験に思わず泣き出した。




