06 第一地方自治体自警団03
ミサは小銃を脇に携えるとまずさっと扉に耳を当て、廊下の音を聞いた。
音はない。
次にゆっくりを銃先で扉を開き、素早く身を乗り出し通路の前後ろへと素早く銃を向ける。
(今のところ敵は無し、か。でも目隠しでここまで連れてこられたからわかんなかったけど、ここは何かの公共施設?)
辺りを見回すと比較的きれいな廊下が続いている。
(周りが狭い、会敵すると厄介ね。とりあえず建物から出ないと)
ミサは音を足音をできるだけ立てずに忍び足で廊下をかけだした。
暫く辺りを捜索するが人がいる様子がなく静まり返っていた。
(変ね、連中どこに行ったんやろ?)
ふと、ルームプレートに事務用品保管庫と書いてあるのが目に入った。
(ラッキー、誰もいませんようにっ!)
ゆっくりと扉をあけながら隙間から銃口を差し込み、バッと一気に開け放つ。
そこは、書類や古びたコピー機などが乱雑に放り込まれていた。
ミサは横の棚に目をやるとタブレット端末が充電されたまま数台放置してある。
タッチすると電源が入るがネットワークはオフラインになっていた。
だがそれよりも気になるのが壁紙のデザインだった。
そこには訝しげなマークと愛洲馬庵と書いてある。
(愛州・・・うま?あん?なんて読むの??)
ふと後ろを振り返ると扉にもマークと愛州馬庵と書いてある紙が貼られていた。
なんだか見覚えがある、ミサは自分が拉致直前に端末から送られてきたブリーフィング用の作戦データの内容を思い出していた。
(そうかこれが作戦での対象となる宗教団体なの?じゃあ私はきっと・・・)
とりあえず端末を拝借し、部屋を後にすると先程まで静まり返った廊下の向こうから声が響いてきた。
息を潜め、身をかがめながらミサは声の方へ向かっていくと”2Fホール客席側舞台袖”と書いてある扉へ着いた。
ゆっくりと扉を開けるとそこは1F2Fと吹抜となるホールになっており、大勢の人間が集まっていた。
何人かは武装しており、辺りを警戒している。
辺りに気づかれぬよう、警戒しながら下を見下ろせるところまで近づく。
すると舞台の方に先程のマークを背に演説する男が目に入った。すぐ傍らに見覚えのある姿もある。
(夏冬だ・・・でもちょっと待ってその隣・・・)
(あの怪しい風貌の親父はたしか・・・データに載ってた重要参考人、ハウス門戸とかいう奴じゃない?
たしか逮捕交流が困難な場合は処理って書いてたっけ)
ミサは急ぎ端末内臓カメラを操作して、門戸や傍らにいる連中の写真・ビデオ撮影を開始した。
ホールでは教団長と思しき門戸が顔を真っ赤にして力説の唱える真っ最中であった。
「・・・我々現代人はその多くが大した実力や能力、技術すら無いくせにいつも虚勢を張りたがる不良野郎である。
特にガキの頃の虚勢は目も当てられないほど醜く、そこからの恐れや不安、将来への心配は皆無である。
汚く口の悪く、死ねや殺す・ダボ、ボケを幼いころから常套句とする。
また挨拶は自分よりも立場が上のもの”だけ”にするもの、
立場が下と見るやそれが知らぬ人だろうが知った人とだろうがすれ違いざまには必ず舌打ち。
加減というものを知らず、そして常に誰かを見下したがるいじめ気質が根幹に根付いている。
それはいったいなぜなのか?!」
(なにが”我々”よ、反吐が出る。でも自警団(主に関西地方)のリサーチはよくしているようね。)
ミサは演説を聞いていて思わず吹き出しそうになって必死に口を押さえこらえた。
「”愛”がないからだ!」
(はあ?!馬鹿じゃないのこいつっ!)
ミサは思わずガクリと肩を落とす。
だがそんなミサの反応と違い、演説を聞く隊員たちは皆何かを期待してるのか態度がまるで違った。
門戸が両手を広げると皆ゴクリと喉を鳴らし、門戸に視線を集中させる教団一同。
(どうしたんだろう?それにしても個々の隊員は結構若い男性が多い?・・・ウチの本部とは大違いだけど)
群衆である隊員と思しき面々はみな若く体格のいいものばかりであった。
「愛があれば、我々は強く、清く、正しい本来の日本人になることができる!
そして今、そこに一番近い人間こそが我々”愛州馬庵”である」
(アイスバーン・・・何言ってんのこいつ?!も、もしかしてそれが教団名?)
「さぁ、皆さん。今日も”儀式”の時間です!」
周りからの歓声が沸き上がる。皆一斉にアイスバーン!アイスバーン!と叫んでいる。
舞台袖から複数の可憐な女たちが表れた。
皆、艶やかな衣装や特定の人が好みそうな衣装をしているが少し違和感も感じる。
(凄いっハイロイド(アンドロイドの上位版)だ!みたいパッと見でも人間と遜色ないぐらい超高級品だわ・・・確実に億はいくわね)
次々とハイロイドを囲む隊員たち。
ミサはそれを冷ややかな様子で眺めた。
(愛ってそういう事・・・さすがカルト宗教ね。呆れてものも言えない。
オッサンがこの動画見ればルイと一緒に祭りね)
「・・・・・・アノ、お困りごとですか?それともご病気でしょうか?」
「!?」
急に肩越しに声をかけられ戦慄した。撮影に気を取られて背後に気を配れなかったのである。
振り向き様に銃を突きつけるとそこにいたのは、同じくハイロイドの少女である。
キョトンとしてこちらの顔を覗き込んでいる。
(戦闘用・・・じゃないか?でも恰好から雑用でもない感じもするし、どうするべきか)
暫く押し黙っていると、遠巻きから明らかに下からではない慌ただしい声が聞こえてきた。
「おい急げや!ンなもん後でもできるだろ!」
「銃は!?早く下の人間に声かけんかい、ダボがよ!」
(ヤバい、このタイミングで見つかるなんてっ)
どうもタイミング悪く、ミサが”処理した”隊員が見つかったらしい。
下をのぞくと夏冬が部下を蹴っ飛ばしていた。
「お困りでしたら力になりますよ」
バイオロジーマタの少女に敵味方の判別は無いのかこちらに優しい眼差しを向けていた。
「・・・ええ、困りごとよ。とりあえず私を外まで案内して、他の人に見つからずね!」
「ラジャー」
ミサはハイロイドの手を掴んで廊下へ飛び出した。
「現着までは?」
”11分で予定ポイントに到着します。辰さん、先方への事前連絡はどうしますか?”
「ホバーバイクで甲斐さんと先行する間に連絡するからしなくていい。てかアイよ?なんか前より喋り方が人間じみてないか?」
既にガンツアー隊は甲斐たち第一小隊通称リバー隊と共に第一地方へと急行し、近郊まで迫っていた。
「レイのパッチが効いてんだろ。それよりもイル・・・心配スンナって、大丈夫やから」
ルイはガンバスの操舵コンソールを弄りながらイルをなだめた。
イルは色々準備の真っ最中である辰の顔をずっと睨みつけて、呟いた。
「なんであたしが行っちゃダメなの?別にどっちが行ったって今回の作戦指揮は甲斐さんでしょ?」
辰は呆れた様子でしぶしぶ答える。
「駄目、今行けばお前は間違いなく誰彼構わず皆殺しにしそうだからな。
幸い、マトモな方の自警団には連絡出来たんだ。向こうと状況確認するまで待っててくれ」
「絶対よ!すぐに連絡してよ!」
「了解、了解。まあちょっくら行ってくるぜ」
辰は柔軟体操をしながらイルに微笑みかけたがイルは気が気でないようだ。
「・・・ミサもイルの成長ぶりに喜んでるよ」
辰はそう言って先程の昔話をレイにした時を思い出していた。
(気の弱い妹のため、あえて自分が弱い立場を演じ、妹に強くなってもらうよう促すか...双子ってのは良くわからんなぁ)
”第一小隊甲斐隊長より通信”
「第一小隊準備完了した、ガンバスはうちの少し離れたところに停車しておいてくれ。臨戦態勢は維持してろよ」
「ガンツアー了解した。頼むぜルイ、吉報を待ってろ!」
「早くいけよおっさん!」
いじらしい顔でルイは辰に活を入れる。
「了解、作戦開始だ。皐月辰出撃する!」
手で二人に軽く敬礼すると辰はハッチを開け甲斐の乗るホバーバイクの後部座席に飛び乗った。
甲斐はバイクのスロットルを回して勢いよく市内中心へと向かって走り出す。
「辰、お前んとこのミサは大丈夫なのか?」
「ミサは心配ないよ甲斐さん。あいつは元々気が強いのもあって”ヤバい”所に色々隠し持ってっからな」
「ヤバいところってどこよ?」
少しニヤニヤしながら甲斐は辰に問いかけた。
「ああ、まあ、ははは・・・。そんなことより第一地方の自警団は大丈夫なのか?」
辰は茶を濁して話題を変えた。
小さいころから成長を見ているせいか余り触れられたくないようだった。
「若い奴はみんなカルト教団に懐柔されたらしい。マトモで残ってるのは高齢者連中だよ」
「マジか・・・前途多難かもしれん、イルには黙ってるか」
辰は申し訳なさそうにしながら腕についている端末を弄る。
ピピピッっと通信回線を開いた。
「こちらは第五地方自治体連合自警団、第五小隊。第一地方自警団、応答されたし」
少しの間が空き、イヤホンから応答が聞こえた。
「こちら第一地方自警団。そちらの信号を確認した。
もう少し先を行くと薄い灰色の2階建ての建物が見えるはずだ、門を開放してセントリーガンを切っておく。
そのまま裏口から入ってくれ、オーバー」
ドスの効いた、だが明らかに年を食ってるであろう声に辰は驚きを隠しえなかった。
「オーバーと来たよ、軍隊かっての・・・大丈夫か?」
かつて軍事無線では通信の最後にはオーバーと付ける決まりが”当時”あったらしいが今の辰たち自警団は関係ない。
「まあ、なんとでもなるだろう」
甲斐は言われた通りにバイクを回し裏口の”業者搬入口”と書かれたところでバイクを止めた。
入り口にはすでに小銃を構えた、細身の男が待ち構えていた。
「第二地方自治体連合自警団、甲斐だ。こちらは第五地方自治体連合自警団、第五小隊隊長、辰」
二人は軽く会釈をする。
「よく来たな、俺は第一地方自治体第三小隊・黒田だ。さっそくついてきてくれぃ」
黒田はどう見ても70歳は超えているようだった。下手すれば80と言われても不思議ではない。
甲斐と辰はお互いに顔を見合わせた後、一抹の不安がよぎった。
(おいマジか・・・)
足早に歩きだす黒田に従って歩き出す二人。
すぐ現れた大きなドアを開け、目に入った光景に二人は驚嘆した。
甲斐が小声でつぶやく。
「ある程度予想はしてたがこれはまいった。これじゃあシルバー人材センターだよ」




