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06 第一地方自治体自警団01

「で、アイよ、誘拐されたのは何時ぐらいの話よ?」

辰はスツールに座ったまま鼻をスンスンと、すすり泣くイルを尻目にアイに問いかけた。

”防犯カメラ映像及びゲート通過履歴は17時45分ちょうどです”

「マジで警備は何やってんだ、馬鹿じゃないのか?貴重なEV装甲車まで盗られやがって・・・」

辰はそう吐き捨てると、車窓から流れる景色を眺めた。

毎日曇り空なので夕焼けを見ることはなかったがその日は若干晴れ、

雲の間から大地に降り注ぐ射光が見えた。

ガンバスのAI、アイはそのまま報告を入れた。

”本日、午後17時未明、本部にて逮捕、勾留中の第一地方自治体自警団所属・夏冬 恵が逃走。

非番にて本部に戻る途中の第五地方本部付き第五小隊隊員・蔭木ミサを人質にとり整備倉庫保管のEV装甲車を奪取。

現在GPSにより追跡中。犯人は北上中”

「はぁ、私が傍に付いてれば・・・」

イルは落ち込んで下を向いている。

「でもまあええやんか?発信機付いてるし、どうせそこに行くつもりだったんだから

道案内してくれるようなもんだよ。こういうのを怪我の功名というんだよ、なあイル?」

ルイは元気付けるつもりでイルに問いかけたが、キッと鋭い目つきでガンを飛ばされた。

「うへぇ、怒んなよ。絶対ミサは大丈夫だって」

「まあともかくだ、ついこの間の作戦第一地方までのルートは脅威レベルを下げることに成功してるから速度上げて現着できるし、

特に今回の作戦は甲斐さんや第一小隊と一緒なんだ。心配スンナ」

「くそっ、あの夏冬って女、絶対ぶちのめしてやる」

イルは赤く腫れぼった目を擦ると立ち上がり、気を紛らわすためか自前の銃の手入れを始めた。

「やれやれ」

ピピピ、ピピピ、ピピピ

”辰さん。第五地方本部、レイ・ストーンズより電話連絡です”

「繋いでくれ」

「―――ういっス、辰さん。前回に引き続き今回に至るまで暇なしですね。本部の中じゃ一番働いてんじゃないですか?」

レイの声を聴いた途端、ルイが不機嫌そうな声でモニターに向かって叫んだ。

「おいおい、レイさんよ。いま取り込んでいるんだよ、わかる?うら若き双子の姉妹が誘拐され―の、引き裂かれーの」

「ルイうっさい、黙ってて。ストーンズさんごめんね」

イルは即座にルイの会話を遮って、詫びを入れた。

「いいよいいよ~かわいそうにね~俺が全面協力するからね。イルちゃーん、絶対助けようね!おにーさんと約束ぅ」

「チッ、ここぞとばかりにポイント稼ごうとしやがって」

ルイは不貞腐れ、頬杖を突きながらスツールを回しモニターに背を向けた。

「で、結局のところどうだった、調べは付いたん?」

辰はレイに問いかける、もちろん夏冬の件である。

「ええ、逃げる前に尋問してたおかげで本部でようやく確認取れましたよ。

辰さん、ありゃ噂を超えて真っ黒ですよ」

「真っ黒ってどういうことなん?」

そう言いながら辰は今しがた送られた電子書類をタブレットに移し目を通し始めた。

「ゲッ、こりゃあえぐいな・・・」

「でしょう?」

辰の声にレイも賛同した。

「まあ先程甲斐さんにもお伝えしたのですが、結論から言うと夏冬は二重スパイです。

個人データはすべて偽造、大陸側の人間であり第一地方自治体自警団へスパイとして潜り込みます、まずこれが一つ目。

後に同じく大陸側からやってきたであろう自称、僧侶・宗教家のハウス・門戸ら代表と数名と共に・・・

まあ多分全員繋がってるでしょうが第一地方自治体自警団を何らかの方法で内部分裂させた模様。

その後は、痛いほどご理解してるように今度は第一地方自治体自警団の人間として本部に接触します、これが二つ目。

現在は二分化されている第一地方の自警団の”まとも”な方と何とかして連絡を試みています」

「よくもまあそんなベラベラと夏冬はゲロったな?」

「時間のロスは極力避けたいと思ったんでしょう。それに自警団の情報はもうあらかた盗られてますよ、多分ね」

レイはそう言ってため息をつくと、合成コーヒーを口にし始めた。

「あんクソがよ・・・万死に値するな」

辰はイライラしながらタブレットを指でカタカタ鳴らしていた。

「縄文寺本部長は作戦に関しては?」

これからの辰達の作戦を聞いていないレイは興味津々に尋ねた。

「ああ、とりあえず”自警法”に則って見つけ次第・・・”処理”だ」

そう言って辰は鼻を鳴らす。

「ああやっぱりね・・・阿熊と違って人間相手は嫌なんじゃないですか?」

レイはちょっとしみったらしく辰に言った。しかし辰は何ら動じることはなく淡々と口にする。

「人間のほうがまだマシだよ、阿熊は生きて自由意思で動き回る大砲の弾と戦うようなもんだからな。

それにだ、このガンバスの改造も重火器もその他もろもろも、自警団の全ては

元は全部国から”貸し付けられた”ものだ、”与えられた”もんじゃない。

だから武器・兵器の私的流用は即射殺、そしてお国がヤレと言ったら俺ら貧乏人はヤルっきゃない。

やらなきゃ装備は全ボッシュートだ」

「やるせないですね・・・」

辰は不貞腐れた様子で椅子の背もたれにもたれ掛かると頭の後ろで手を組んだ。

「でもまあ、夏冬の奴はミサがやっちまってるかもな?」

「有りゆるなぁ、それ」

意味深な辰とルイの会話にレイは疑問に感じる。

「???、どういうこと?」

ルイはああやっぱりなぁ、といった様子で言った。

「おい、レイ。やっぱお前もミサはおとなしい性格のオペレータでイルは気性の粗いガンマンだと思ってるだろ?」

「おい、気性の粗いとはなんだ!それに女にガン”マン”っておかしいやろがい」

思わずイルが突っ込みを入れる。

「え、だってそうでしょ。いつもの調子じゃ・・・」

その反応を見てルイがケラケラ笑ってたので辰が代わりに答えを出した。

「本来はなぁ”逆なんだよ”。逆」

「逆だって?」

レイは予想外の答えに思わずコーヒーをこぼしそうになった。

「ミサはな、イルのために優しく振る舞い、イルに強くなってもらうために大人しくしてるんだよ」

レイは笑うのをやめ、急に真面目になって真っすぐした瞳でレイに言った。

いつもそうならいいのだが。

「もう十年以上になるのか、あの二人が此処に来てから・・・」



時は大戦の最中。

阿熊と呼ばれる生物が表れてまだ間もないころであった。

ここはとある市立小学校。

現在は避難所として人でごった返し、辺りは怒号や喧騒、鳴き声や叫び声が飛び交っていた。

大人たちはみなモノを運んだり、負傷者を抱えたり、暴れまわったり、急に叫びだしたりしている。

「ううっ、おかあさん、おとうさん。おかあさん、おとうさん。うわーん!」

その時6歳であったイルは泣きながら空を仰ぎ見ていた。

「イル、泣かないで」

イルのすぐ隣にいたミサはイルの手をぎゅっと握りしめ、辺りを呆然と眺めながら、先程のことを思い出していた。

彼女たちは空襲警報を聞き家族で避難する矢先であったが二人が家を出た途端、

家に黒い物体が落下してきて大きな火柱が上がった。

そこで二人が聞いたのは爆発音と同時に聞こえた両親の声ならざる声。

今でもその光景は脳裏に焼き付き、音は耳から離れない。

事態を飲み込めず、両親の突然の死に泣きじゃくるイルの手を引っ張りまだ通い始めて間もない小学校に来たのだ。

「どうしようね、これから」

「ううっ、うわーん、うわーん」

力無く泣くイルの頭を撫でながら、ミサも疲れ果てた様子少しべそをかいていた。

遊具の片隅で二人でしゃがみ込み、地面を眺めていると突然足が表れた。

ふと顔を上げると大柄な男がいる。

ミサは怖くて条件反射のように立ち上がった。

「ふたりとも、どうしたの。おとうさん、おかあさんは?」

「もう、いないの。おじさんだれ?スタッフさん?」

ミサは目の前の男に尋ねた。

「そ、そうだよ。スタッフだよっ。このままここにいてちゃ危ないから建物に避難しようねっ」

男はそう言うと半ば強引にミサの手を掴むと引っ張って歩き出した。

「い、痛いよっ」

男はミサの言うことも何ら気にすることもなく力強く歩き出す。

心なしか息が荒く、目も子供が見ても血走っているように見える。

「そうだっ、避難する前にトイレ行こう、トイレッ!」

そういって男は二人を連れいそいそと校舎の片隅へと移動した。


「・・・・・・おじさん、ここ、トイレないよ?」

ミサは男に問いかけると、男はしゃがみ込みミサをまっすぐ見据えてこう答えた。

「トイレ壊れているからここでしちゃおうっ。さっ、パンツ脱いで」

「えっ・・・なんで」

男は鼻息荒く興奮気味だった。子供でも分かる、こいつは変態だと。超が付くほどの。

そしてミサはハッとして急に辺りを見渡した。

辺りに人はほとんどおらず、居るのも生きているのか死んでいるのかわからない人が数名

包帯グルグル巻きで壁にもたれ掛かってただけだった。

ミサは私たちは襲われると直感する。

「うえーん、うえーん」

イルはまだずっと泣いていた、もう声だけで涙も流れ出てこない。

「ぅもーん、しょうがないなぁ。脱がしてあげるよぅ」

男はそう言うとイルの股に顔を近づけスカートの中に手を入れ下着を掴み、引きずりおろそうとした。

その刹那、男の腕がガッチリと掴まれる。

まだ幼く、か細い腕からは想像もつかないような力で掴まれ、男の腕は血管が浮き上がり、

可憐な手の指の爪が腕の肉に食い込んだ。

「イテェ!」

思わず男は顔を上げると、目を見開いて歯をむき出しにしたミサの顔が間近にあった。

「ひっ!」

男は思わず声を漏らす。

そして男の目をまっすぐ見据えたまま顔を覗き込むようにして、ミサの小さな唇が動き出す。

「死ねよ」

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