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小さな椅子  作者: 珉砥
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  そしてこの度、お気に入りのアパートから泣く泣く引越してきた棚端は赴任の挨拶に来て早々に井川柊磨の洗礼を受けたところだった。

  澄ちゃんの時もそうだが、新卒の教員に対して初めての担任で普通学級にダウン症がいたり、知的障害児がいることを事前に告知しないのは問題ではないのか?そもそも、新任にそんなややこしい状況の担任をさせることは問題ではないのか?

  さすがの棚端でもそこには疑問に感じたが、元より長く続ける意思が全くないので問題提起する気も起きなかった。本当にそんな程度のことはどうでもよかった。教室運営について悩むこともなかったし、どうこうしていこうという教育理念も持ち合わせていなかった。

  棚端は大学在学中の教育実習の際にも全くやる気がなく、ほかの実習生に注意を受けることも少なくなかった。

  実習を始めてみて、国立大学の附属小学校はほとんど国立大学の教育学部の学生の教育実習のためにあるようなものだと棚端は実感した。担任の先生に教わるより教育実習生の授業を受ける方が多い。なにしろ1クラスの実習生は4人セットだ。教わる児童もかわいそうである。

  そんな4人の中で最も不真面目だったのが棚端翔だった。他の3人は授業の計画を立てるにも、担当教師の授業を児童と共に受ける際も少なくともメモを取ったり真剣に聞いている様子を見せたが、棚端はほとんど腑抜けたような出で立ちで臨んでいた。筆記用具すら持ってなかったので、必要な時は児童から拝借していた。

  棚端がそこまでいい加減なのには1つ理由がある。というのも、なぜか子供受けが良かったのだ。それは本人にも全く理由がわからない。棚端にだけ明らかに子供が寄ってきた。しかも棚端は他の実習生とは違い、男子を邪険にして、可愛い女子にだけ構っていたにも関わらずだ。

  このような態度で子供受けが良い理由はなかなか見いだせないが、事実なので仕方がなかった。

  棚端は男子が寄ってくるとあからさまに逃げた。すると男子は面白がって追う。これを棚端は必死で逃げるので男子たちは余計に面白がり色々な作戦を立てて棚端に近づき、からかったりイタズラをした。棚端はその度にムキになって嫌がったり怒ったりした。それがおかしくて男子たちは喜んだ。

  棚端は気に入っている女子の1人に「猫踏んじゃった」を教えてもらった。その子は、先生弾ける?と聞かれて否定した棚端に黒鍵で弾く方法を数日にわたって教えてくれた。教室内に設置されたオルガンで棚端は事ある毎に弾いてすぐに弾けるようになった。棚端の実習生としての成果はそれくらいだ。

  あとは別の気に入った女子に天然パーマの伸びた髪の毛をくしゃくしゃにされることを日課にしていたくらいか。

  他の3人の実習生は何も語らなかったが、棚端に児童が集まることに何か思いはあっただろう。実習最後の日に担当の教官の教員が

  「棚端は今まで見た中で5本の指に入るよ」

  と言われた。この教官がこれまで何人の学生を見たのかは分からないが、褒められたことは間違いないようで、さすがの棚端も少し驚いた。何を評価されたかと考えれば、子供受けしか思いつかず、本人の実力でも努力でもない。あえて言えば不可抗力だった。

  要するに棚端翔は理由は不明だが生来の特徴として子供受けが良いのであって、本人の努力や意思が働いての結果では決してないということである。

  とにかく態度が不遜なため、人は近寄ってくるが離れていく。というより、棚端から遠ざかるか、遠ざけるようにする。そのため変人というレッテルを貼られがちではあった。友人は少なくはないが、棚端が必要とする人間はかなり限定的で、気にいった人間としか話そうとしなかった。

  親戚関係でも母方は棚端の下に6人のいとこがいたが、会うとみな棚端のそばに寄ってきていた。棚端には人を惹きつける何かが備わっているのかもしれないが、本人はそれが面倒くさく極めて人を邪険に扱っていた。

  そんな、やる気はないが、子供受けがなぜか良いという、何ら保証もない頼りない唯一教員向きな特性のみを武器に、残り半年の小学校の教師生活を棚端翔は再び始めることとなった。

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