タナトフィリア
町に入りまずは人が集まる場所にいこうかとしたのだが、入った瞬間耳をつんざくほどの騒音が鳴り響く。
更に追い討ちをかけるかのごとく大量の人だかりが目に入ってきた。さっきまでは凍えるほど寒かったはずなのに人が集まることでできた熱気で今度は暑くて仕方なかった。
「やっぱり人が多いですね~」
どうやらこれがいつもらしく、祭りとかではないようだ。
こんな雪原の真っ只中にあるのにこんなに人が集まるのか。すごい、すごいけど……
「これでは話が聞けたもんじゃないな」
人が多いから話が聞けると言うわけではない。これほど盛り上がっているからこちらの話など微塵も聞く気はないだろう。なんか酒臭いし。
「どうしたものか……」
「佐藤さん、私たちがいくべきなのはこちらですよ~」
ミオが指を指した場所は人だかりとは無縁の路地裏であった。ハオルシアに関しては既に移動していた。
「まぁ、犯罪者集団だしそうだよな」
俺はため息をつきながら裏路地に入っていった
それにしてもあのマッシルとか言う男も俺たちの顔を見ても何とも思わなかったのだろうか。手配書の一つや二つはあってもよさげなんだが……
すると壁に貼られていた紙が剥がれ足元に落ちてきた。その紙を拾い見てみると俺の名前が書いてあった。
「あ~なるほど……確かに顔を見ても分からないな」
「どうしたんですか~。あ、その紙佐藤さんの名前が書いてますね~……けど似てませんね」
「全くだ」
ミオと一緒に見ていたハオルシアも頷いた。
指名手配書は確かにあった。なのだが顔が全く似ていない、これでは全くの別人だ。
「でも凄いですね~。犯罪者とは聞いてましたけどこんなのが出回る程とは~」
「なりたくてなった訳ではなんだがな」
俺は似てない指名手配書をくしゃくしゃに丸めたあと近くにあった開きっぱなしのゴミ箱に投げ捨てた。
「ところで路地裏にきたはいいが話が聞けるのか?」
こんなところにいるやつなんて意思疏通が出来ないやつか俺達同様の犯罪者だ。話が通じても何を要求されるか。
「大丈夫ですよ~。実は私の友人が一人いますので~、その人に聞けば分かると思います~」
「なら早速行くとしよう。ハオルシア、その家に入ろうとするな行くぞ」
ハオルシアは俺の注意に舌打ちをしたあと家に入るのをやめ、俺たちの後についてきた。
「ここが、そうなのか」
「そうですよ~」
「冗談だろ」
目の前にある家はもはや家といっていいのかとすら言ってしまいたくなる程に壊れていた。こんなところに人が住めるのかと疑いたくなるほどだ。
「そういう思考に繋がる様なところが私たちには良いんですよ~」
「それも、そうだな」
ここに住んでる奴の考えがわかった俺は、触っただけで砕け散りそうな扉を嫌な音をたたせながら開いた。
扉を開くと玄関等はなく、開放感溢れる大広間になっていた。屋根も穴だらけ壁も穴だらけだから間違いなく開放的な家だ。
そしてその家のど真ん中には死体がひとつだけ転がっていた。
「ミオ、残念だがこの家での用事も無くなったな。それじゃあ聞き込みを始め」
「ターナーさ~ん、起きてくださ~い」
ミオがそういうと、ど真ん中にあった死体は急に痙攣をお越し始めた。
「お前の友人はいきなり痙攣を起こすような奴なのか」
ハオルシアも手にナイフ握り、死体を凝視していた。
「えぇ、私の貴重な友達ですよ~」
そういうと、ミオは自分の持っている荷物からそこそこの大きさで透明なケースを取り出し、ケースを蓋を開けた後自分の前に置いた。すると、死体の口や耳の穴から大きさも色も形もバラバラな様々な種類の虫が這いずり出てきてケースの中に入っていった。
その光景を見て俺はまるで自分の体に虫が這いずってるかのような感覚に陥ってしまい、思わず部屋の隅で吐いてしまった。だがハオルシアは何ともないのかまじまじとケースを見ている。
流石にハオルシアの正気を疑いたくなる。
ちなみにケースの中はある程度余裕があるのか、中で虫がうじゃうじゃしている。これ以上見てるとまた吐きそうなので俺は目線を急いで反らした。
「吐かなくても良いじゃないですか~」
「大体の人はあんな大量の虫が蠢く姿を見たら吐く前に逃げ出すだろうな。逃げなかっただけ誉めてくれ」
俺は口に残る嫌な酸味を取り除く為に、持っていた水を口に含めた後床に吐き捨てた。
「そうですかね~。あ、ターナーさんどうでしたか」
ミオが俺の感想を全く理解しないまま、死体に近より話しかけた。すると死体はゆっくりと立ち上がり、数秒の沈黙の後…
「いい心地だった。次も頼む」
ドスの聞いた声で静かに歓喜していた。
「いいですよ。そうしてくれるとこの子達が住む場所も用意できますし、住みかを荒らした奴も処分出来ますからね~」
処分されたやつが人でなく動物であることを祈る。
「それより、こいつ何で生きてるんだ。確実にあれは死んでいてだろう」
「あれぐらいで死ぬほど軟弱ではない」
目の前の男はそう喋りながらも、みるみると体の喰われている部分や腐敗した部分が再生していた。その光景は先ほどの虫の蠢く姿とそう変わらず気味の悪い物だった。
「彼は死にかけるのが好きなんですよね~」
「痛いのは嫌いだがな」
「あ、紹介し忘れてました~。この人は、私の友人のターナー・ニュプクノスさんです~」
ミオは死体に横に立つと、その死体ーターナーの事を紹介し始めた。
「ターナーさんはですね~、私の様な人にも分け隔てなく接してくれて一緒に遊んでくれるんですよ~。それにですね~、虫の繁殖に必要な栄養を、ターナーさんが自らの体で与えてくれたりするんですよ~」
ミオはニコニコしながら自分の友人の事を話してる横で、ターナーは少し恥ずかしそうにしていた。普通だったらのろけやがってとか思うのだが、流石に今はそんなこと思えない。
このままではいつまでもミオがターナーの話ばかりしてしまいそうだったので、さっさと用事を済ませよう。
「あ~、ターナーさん。実は聞きたいことがあって来たんですけど、話をしてもよろしいですか?」
「ん? 俺にか」
「あ~、そうでしたね~。実はこの街の犯罪者が収容される場所がどこだか知りたいんですよ~。知ってますか~」
「あぁ、そこから脱走してるから分かるぞ。案内しようか?」
脱走してきたのかよ。斜め上の返事だなそれは。
「脱走してきたってことはその収容所は簡単に逃げ出せるのか?」
それならクール達も簡単に逃げ出せそうだ。
「非常に簡単だ。常に高圧電流が流れてる柵を登るだけだ。脱走ついでに肩こりとかも直るぞ」
「まず脱走は無理そうだな」
俺は馬鹿か。こんなやつの脱走方法何かまともな筈ないだろう。
「はぁ、取りあえず場所を教えてくれ。後は自分達で何とかするから」
「そうか、なら当然だが表からは行けないから裏道で行くぞ。少し複雑な道だからはぐれたりするなよ」
「分かった。なら早速案内してくれ」
そして俺たちは、ターナーの案内のもと裏道から刑務所の近くまで案内してもらうのだった。




