抱擁
勝った幸隆は試合を応援していた海生に駆け寄っていた。
「海生! お前のおかげで勝てたよありがとな!」
抱き締めてくる幸隆に、海生はハニカんだ様子で答える。
「大袈裟だよ幸隆……おめでとう」
恥ずかしがりながらもそれに応じ、抱き締め返す海生。
その後も肩を組みながら笑いあって話す二人。幸隆の方は二年生に勝てたことがよほど嬉しかったらしい。
かなりセンスがあるとは言ってもまだレスリングをはじめて三ヶ月。
上級生に勝つのは難しい。それは個人競技において自分一人で戦わないといけない、自分自身の力のみで相手に勝たないといけないという理由からだろう。
だからこそこの勝利は価値があった。
「待って待って……尊いよ優香。あの二人尊いよ」
「ちょっと私受け止めきれないくらいやばいよ美優……ごめんちょっと私トイレ行ってくるね」
何故か興奮した様子のままトイレに行く優香。
一人残った美優はその後もしばらく幸隆と海生の様子を見守っていた。
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一年生に負けた。これにはかなりショックを受けた。
新人離れした一年生で、かなりの実力を持っていた選手だったがそれでも一年生だ。
彼からは、どうしても勝ちたい。この勝負を何がなんでも勝ち取るという気迫が伝わってきた。
どうしてそこまで部活に気持ちをかけられる。
どうしてそこまで一生懸命になれる。
そしてどうしてこんなに……自分は悔しくなっている。
レスリングを辞めようとしていたのではないのか?
レスリングに情熱をかけられなくなっていたのではないのか?
「どうしてこんなに悔しいんだ。くそっ! こんな気持ちのままレスリングを辞められるか」
男子トイレの個室の壁をなぐり呟いた當間忍は、レスリングを続ける事を決意し思いを新たにする。
「山本幸隆……今度当たったら絶対に負けない」
そう吐き捨て男子トイレを後にした。
「偶然とはいえ良いことを聞けた。幸隆はここでもまた一人男の心に火をつけたか……もう私の興奮が治まらないよ。はぁはぁ」
何故か男子トイレの隣の個室から出てきた優香は呟いた。




