カニバサミ
インターバルに入り、上地が康太に駆け寄る。
「苦しい戦いだったけど良く取った。学相手にきちんと戦えているよ。気を抜かずにね」
「わかりました。学さんのことです。アレで終わるわけはありません。気を抜かずに堅実にポイントを取っていきます」
1ラウンド目はなんとか取ることが出来たものの気は抜けない。2ラウンド目を取られてしまえば振り出しに戻ってしまう。どうなるか分からない以上、次も全力で取りに行かなければならない。
団体戦の勝敗は、あと一試合勝てば通天高校のが勝利のため、相手も後がない状態だ。
そして2ラウンド目が始まる。
「正直ここまでやるとは思わなかったぜ改めよう」
1ラウンド目とは打って変わった態度に出る学。だが目にはあきらかに1ラウンド目とは違う闘志の色が宿っている。
開始の合図の後いきなりタックルに入る学、それを躱し康太は状態を立て直した。すぐに組み合いに行き、そして今度は康太からタックルに入った。
相手の手を押しのけて、片足タックルを相手の右足に仕掛ける。
片足を取ることに成功するも、学が予想外の展開を起こした。
片足を捉えている康太の腕を極め、体重を完全に預け、状態を崩させたのだ、それからぶら下がるようにして自分の右足を康太の足の後ろに持って行き足をかけて転ばせた。
「なっ!? 」
「嘘だろあんな技実践で使うか!? 」
試合を見ていた紀之と幸隆が同時に声をあげた。
あの技は一度見たことはある。先輩達が遊びのような感覚でどんな技があるかピックアップしていたものだ。
『カニバサミ』先輩達はそう呼んでいた。遊びのようなその技で、実際に康太を追い込んでいる。
倒された康太は、状態を立てなおそうとするも、素早く動いた学に抑えこまれてしまった。
上から覆いかぶさり、仰向けの状態の康太を完全に抑えこみ、フォール。
その試合は、学の勝利で幕を閉じた。