大嶺護
タックルに入ろうとする匠の肩を両手で受け止め、自身もバックステップする。
1ラウンド目と同じ鉄は踏まない。要は力で強引に体をねじ込もうとしてくるわけだから、手で押さえるだけでなく自分自身の体も後ろに引けば良いわけだ。
1ラウンド目はあそこまで強引に押してくるとは思っていなかったため不意を突かれたが、解ってしまえば対策は容易い。
タックルに入ろうとした姿勢のまま安定しない体勢で押さえ込まれた匠は、さすがに体に力が入れられず締め上げられている。
「そのままポイントを貰おうかや」
締め上げた状態のまま全体重をかけて落とす。
たまらず膝をつく匠。だが攻撃はここからだ。
そのまま体を右にひねり回転させて2ポイント先取。
バックに付き1ポイント、更にそこから矢継ぎ早にローリングを決めて2ポイント。あっという間に5ポイントを取った。
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「まずいよ。このままだとテクニカルフォールになっちゃう」
控えのベンチに座っていた優香が呟く。
1ラウンドは優勢だったはずの匠。何故か1ラウンド目から様子がおかしい。一ヶ月と少ししか一緒に練習をしていないが、もっと色んな技を使って戦うタイプだという印象を海生は持っていた。
この試合、大嶺護おおみね まもるを相手にした時から少し落ち着きがなくなっているように見える。
ちなみにテクニカルフォールではポイント勝ち、10ポイントの差がついた時点で試合が終了してしまう。
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グラウンドで体の状態を90度にそらして3ポイント。
これで合計8ポイント。あと2ポイント取られてしまえばテクニカルフォールが決まってしまう。
ここで勝負を終わらせるとばかりに護は、
最期のローリングをしようと体を回転させた。その時、匠が雄叫びをあげた。
「おぉおおおおおおおおおおおお」
ちょうど回転が上に来たところで腹のあたりで組まれていたクラッチを強引に外し、上から覆い被さる形で護の上半身を機転に回り込み押さえ込みにかかった。
右手は首の後ろ、左手は脇の下に回し相手を上四方固めで押さえ込む。
ガッチリと固められた護は逃げ出すことが出来ず、フォール。
ポイント差をど返しした匠のフォール勝ちでこの試合は幕を閉じた。