第61話 決着の刻
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荒れ果てた城跡に、重く風が吹いている。空は薄く曇り、雲の切れ間からわずかに陽が差す。
──そこに、セフィリアは立っていた。
白銀の髪が戦場の風に舞う。
「セフィリア。お前にまた会えるとはな。戻ってくるのが、ずいぶん遅かったんじゃないのか?」
ロゼルトの声は、どこか甘やかだった。
「もう、諦めたのだと思ったよ」
「……いいや」
セフィリアは静かに首を振った。その声音は弱々しくも、凛としていた。
「私は、ここでお前を討つ。今度こそ、終わらせる」
ロゼルトは目を細めた。
「その覚悟で来たというのか。ふむ。では、お前の正義を私に見せてみろ。──レティシアの娘よ」
次の瞬間、空間が震える。ロゼルトの魔力が解き放たれ、空が歪んだ。
時空を断ち切るような一撃が、一直線にセフィリアへと放たれる。光の槍。重力を圧縮した、禍々しい魔法。
「──くっ!」
セフィリアは腕を振り、空間に魔力の壁を展開する。しかし、すべてを防ぎきるには至らず、爆風が地を裂いた。砕けた地面が舞い上がり、瓦礫が宙に弾ける。
「やはり、足りぬか。力が戻りきっていないのだな」
「そうかもな。でも、それはお前も同じだろう? お前を止めるのに、私の力が足りないとは思わない」
セフィリアの足元が眩いばかりに光る。魔力の奔流。迸る光が大地を這い、周囲の空気が引き裂かれる。
「レク・ヴィア──落ちろ」
彼女が指を下ろした瞬間、天が揺れる。
天が、落ちてくるかのようだった。天から降る光が、地を押し潰すように圧縮する。
ロゼルトの足元に空間が捻れ、地面が音を立てて陥没していく。しかし。
「甘いな」
片手を掲げると、その掌に凍てつく黒が渦を巻く。
「セフィリア、お前の魔法は……あまりに美しい。美しすぎるよ」
ロゼルトは目を細める。その口の端には笑みが浮かんでいた。
闇が一閃し、彼女の術式を真っ向から打ち破る。反動が彼女の身体を弾き、セフィリアは膝をつく。口元から血が滴った。
「……っ、まだだ」
崩れる身体を支えるように、地を握り締める。
ロゼルトは歩み寄る。一歩ずつ、確実に。
「お前のその意志は、実に見事だ。だがそれだけでは、世界を変えることはできない。──私が、世界を創り直すのだ」
セフィリアは答えない。ただ、静かに顔を上げ、彼の姿を睨み返す。
その瞳の奥に宿るのは、諦めでも絶望でもない。誇りだった。
「今度こそ、ここで終わらせてやろう。小娘よ、もう苦しむことはない」
ロゼルトがその手に魔力を収束させる。セフィリアに向けて放つ。全てを飲み込むかのような真っ黒な闇。
彼女はその闇に、今にも覆われる──
その瞬間──風が、割れる。
夜風を裂いて、黒い影が現れる。黒衣の男。淡い色を帯びた視線。
「──ああ、間に合って、しまったか」
リヴェルが、セフィリアとロゼルトの間に降り立った。
リヴェルが手をかざすと、吸収された魔力が空気の奔流となってロゼルトに反射し、ロゼルトは強制転移される。セフィリアは驚いてリヴェルを見た。
彼は言う。
「お前には、やってもらわなければならないことがある。こんなところで死なれては困るんだ」
リヴェルは彼女を見ることもない。
「一度ならず二度もお前に助けられてしまったな」
囁くような声。
「別にお前の望んだことではないだろう」
リヴェルは淡々と答える。
「ロゼルト様のことは転移させただけ。蹴りをつけに行かなくては」
「でも、お前──」
セフィリアは案じるようにリヴェルを見る。
「お前に心配される筋合いはない」
リヴェルはピシャリと跳ね除ける。自らの手で決着をつけなければならない。もう、自分の信念に、迷いはない。
静かに、リュグルスへの転移の扉を出現させる。彼はロゼルトの元へと、ゆっくりと歩む。
リヴェルが扉をくぐると、バタンと、大きな音を立て、後ろで扉が閉じた。




