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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第3章|王は、ここに在る

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第60話 見つめる者

 リヴェルは、暗がりに一人佇んでいた。

 リュグルス王城、地下。彼の前には古びた石碑がある。いつものように、そっと手を伸ばす。


 ロゼルトに暇を出されて以降、彼は引き寄せられるように、度々この場所を訪れた。そして、眠るセフィリアと、会って以降も。


 何もない世界に、一人座っているセフィリアの姿が、頭から離れない。こぼれ出るような彼女の言葉。別れる間際の、わずかに開放的な表情。


 あの日思わず自分の放った言葉、あれはなんだ?

 自分で自分が分からなかった。自分は、何がしたかったのか。何がしたいのか。


 瞬きをする度に、瑠璃色の光がちらつく気がした。目覚めた彼女は、どうしているだろうか。


 彼はこのところずっと、自分の心の中にあるものを扱いかねていた。

 もう何年も、自分の感情などというものを扱ったことはない。彼にとって、自分の内にあるものも、外にあるものも、感情とは全て他人のもの。観測し、処理すべき対象でしかなかった。



 数日前の謁見の間。ロゼルトは変わらず威厳を持って臣下を見下ろしていた。鋭く光る瞳が全ての者を突き刺す。

 リヴェルは、最後列でその風景を見ていた。


 ウェルリスでは、ついに住民が暴動を起こしたらしい。ウェルリスの住民と、駐留していたリュグルスの兵がぶつかる。戦になる。


 全ては計画通りに進んでいます、と報告するニナの姿をリヴェルは遠目に見る。


「現地にはディオンが。既にロゼルト様をお迎えする準備はできています」

 彼女はそう続けた。


 ロゼルトはもう、ウェルリスに向かっているだろう。そして自らの目的のため、その力で彼の国を手中に収めるつもりだ。

 ロゼルトは必ずやり遂げる。もはや自分など、いなくとも、関係ない。とリヴェルは思う。


 リヴェルがこれまでに戦いの中で回収を続けていた魔力は、かなりの量になっていた。その力を取り込んだロゼルトの魔力は、既に八割ほどは戻っているはずだ、とリヴェルは試算する。


 ──セフィリアは、勝てるだろうか。


 そう考えて彼はぴくりと肩を揺らす。

 俺は、何を考えている?


 俯く彼女の姿が浮かぶ。真っ暗な空間。全ての感情を、堰き止めた場所。空っぽの、世界。


 軽く頭を振ると、ひとつ、ふたつと瞬きをして、改めて古びた石碑に目をやった。


 かちり、と頭の中で何かがはまる音がした気がした。古びた石碑に何かが、見えた気がした。


 これは、なんだ? 今、何が見えた?


 封じられた、魔力の泉(ラクリマ)。全ての魔力の源泉。ここから魔力は生まれ、世界へ巡る。


 石碑は今までと変わらず空っぽだった。幾度となく見つめてきた。何も変わったところはない。

 しかし、見つめる彼は、少し変わっていた。本人にまだ、その変化が掴めていなくとも。


 彼はもう一度見つめる。──彼には魔力が、すなわち人の感情が見える。


(もしかすると、これは──)


 ずっと分からなかったことが、分かるような予感がした。


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