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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第3章|王は、ここに在る

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第54話 新月の夜の囁き

「エレニア様、お話が」


「何?」


 ゼドはエレニアに、眠るセフィリアについて伝える。話を聞いたエレニアは目を見開いた。


「セフィが!? 生きているの?」


「はい。様子をご覧いただけますか?」


「ダメよ、私は合わせる顔なんてないわ。もう二度と会わないと、決めたんだから」

 エレニアは首を振る。


「しかし、エレニア様のお力が必要です。意識が、どうしても戻らないのです。どうか治癒術をお試しいただけませんか」


 頑なに拒絶していたエレニアだったが、ゼドの説得に負け、彼女は渋々、セフィリアの元へと向かう。


 部屋に入るエレニアを、ライトが出迎えた。彼女の部屋に入る瞬間、肩が震える。

 セフィリアは、ベッドの上で静かに眠っていた。エレニアは、ゆっくりと、近づく。震える指を、硬く握りしめる。


 目を閉じたセフィリアの顔を正面から見る。エレニアは閉じそうになる目を開き、そっとそのベッドの傍に跪いた。彼女の手に光が宿る。これまで、何度もしてきたように、セフィリアに治癒術を施す。

 しかしエレニアは首を振った。


「……ダメね、魔力が一つも通らない。意識を呼び戻そうにも、完全に閉じられているわ」


 エレニアの魔法は全て、拒絶されるかのようにセフィリアには届かなかった。誰が試しても同じ。どのような干渉も叶わない。彼女に、触れることすらできるものはいなかった。

 ライトは落胆する。


「エレニア様でもダメですか。どうすれば、意識が戻られるのでしょうか。セフィリア様はいつまでこのまま……」


 彼は心から、セフィリアの回復を祈っていた。献身的に看病し、時間の限り彼女のそばに控えている。しかし彼女には、全く目覚める素振りはなかった。

 エレニアは改めて、眠るセフィリアの顔を見る。


「……見たことないような穏やかな顔をしちゃって。あなたは、やっと解放されたのかしら。裏切った私なんかには、触れられたくないって?」


 エレニアはふたりにだけ聞こえるくらいの声で囁く。


「エレニア様、何か、おっしゃいましたか?」


 ライトは不思議そうに尋ねる。


「……いいえ、何もないわ。身体の方は無事のようだから、回復を待つほかないかしらね」


 彼女は静かに、眠るセフィリアを眺め続けていた。


***


 新月の夜。セフィリアの眠る部屋を、エレニアは一人でそっと訪れた。ベッドの隣に腰掛け、顔を見る。彼女は相変わらずじっと眠っている。静かな呼吸の音が部屋に響く。


「セフィ」


 エレニアは、囁くように呼びかける。


「ごめんなさい、私は何も分かっていなかった。分かったつもりになっていただけだった」


 セフィリアは動かない。


「きっとあなたは、こんな私のことも許すんでしょうね」


 エレニアは深いため息をついた。月明かりのない部屋の中に、彼女の囁きだけが満ちている。


「そんな綺麗なあなたのことが、大嫌いだった。でもそんなあなたの美しさが、私は大好きだったのに」


 許されないことをした、そう思っていた。


「自分であなたを裏切っておいて、虫のいい話だけれど、あなたがいないと、やっぱり寂しいわ。もう、戻ってきてはくれないかしら。

──でも、もう一度だけでも、会いたい。あなたの声が聞きたい」


 返事はない。エレニアはセフィリアの手を取る。暖かかった。


「私は、国ために戦うわ。あなたが守ったこの国のために」


 例えセフィリアに許されることがあろうと、自分は自分のことを許せないだろう、と思っていた。

 今は、自分の果たすべき使命を、まっとうするしかない。それだけが、今の彼女にできることだった。

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