第52話 悔恨
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奥庭に繋がる小道。そこにゼドは立っていた。
壁に手をつき、奥庭の方向をじっと見つめていた。動かない背中に、背後から声がかかる。
「探したよ、こんなところにいたのか」
「ああ、ハルカ」
「どうした? 考え事か?」
ゼドは言い淀む。ずっと考えていた。
「……私たちは、セフィリア様に多くを背負わせ過ぎたのではないか? ──まだほんの子供だったのに」
「……今さらそんなことを言うな、あの時はそうするほかなかった。国のためには、それが最善だった。そう判断しただろう?」
「そうだな、しかし、やはり我々は甘えすぎていたのだ。
……セフィリア様が、あまりに強いから。もっと、我々が守って差し上げるべきだった」
ゼドは悔やんでいた。自らの弱さが招いたことだ。
十一年前、レティシアを失ったあの日。そしてその後も、セフィリアは目を見張る力を見せた。
まだ幼い彼女が女王位を継ぐことに異を唱えるものはすぐにいなくなった。
彼女の力があれば、国を守ることができる。安心だ、と。そして彼女はその期待に一度も背くことなく応え続けた。
いつしかそれは、当たり前の光景となる。もはや国の誰ひとりとして、セフィリア自身のことなど見ていなかった。
「お前は良くやっていた。ずっと支えてきたじゃないか」
ゼドの脳裏には、まだ幼い頃、自分が魔法を教えた少女の姿が浮かんでいた。自分をまっすぐ見上げる、笑顔。
彼女はあんなにも、国の、国民のことを考え、尽くし続けてくれていたというのに。
「でも俺は、あの子に、国のために死ねと言ったんだぞ!」
ゼドは拳を握りしめる。
「そうは言っていないだろう」
ハルカは静かに否定する。
「同じようなものだ。それと分かっていて止めなかったんだから。そうすべきだと、思ってしまったんだ」
ゼドは項垂れる。
「そうかもしれない。でも我々は今できることをすべきではないか? エレニア様を、全力で支えよう」
「そうだな、……そうだな」
ゼドは自分に言い聞かせるように頷いた。
もしもう一度やり直せるならば、許されるならば、次こそは――
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王都の街では、住民たちが噂している。
「戦いはなくなったけれど、暮らしはちっとも楽にならない」
「あんなところにリュグルスの軍隊にいられたら、落ち着いていられないわ。恐ろしい……。あいつら、いつまでいるのかしら」
リュグルスの兵が、ついに王都の近くにも滞在するようになっていた。
もちろん戦闘にはならない。しかし、武装した敵軍がすぐ近くに控えている、という状況はとても落ち着いていられるものではなかった。
つい先日まで戦をしていた相手。リュグルス人への印象は、最悪の状態でもあった。
彼らはため息をつく。
「……セフィリア様は、すぐに追い払ってくれたよな」
小声でそう言う。
「それはそうだけど……」
「こんなところまでリュグルスの奴らが入ってくることなんてなかった」
彼らは、白銀の光を思い出す。
今は、あの頃よりもマシだろうか?




