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暗殺者の逃避行5 「殺したことならあるさ」

 俺が出した二つ目の条件に、赤い髪の男――グレンは反応に困っていた。


「俺が言うのもなんだが、お前とアイツは仮にも一時的に友好的だったんだろ? そんなに簡単に殺そうとしていいのか?」


 本当にどの口が言ってんだか。


「俺とナユタは仲間じゃないし、最初に俺達を売ったのはナユタの方だ」


「売った?」


「あいつはギルドの外で話をしようと言って俺達を外に連れ出した。ギルドは人で賑わっているからあまり聞かれたくないというのは理解できるが、自分の立場と話の内容からしてギルド内の方が安全かつ落ち着いて話ができる。協会が管理しする施設内での死闘を禁ずると言う規約がある以上、追手もギルド内で下手な行動に出られないからな」


 腕に自信ありの荒ぶれ者達が集う冒険者と言う職業上そこに規則は絶対だ。

 冒険者規約という自由奔放な冒険者の意思を尊重しつつも取り締めるための絶対的な法の一つに、協会管理下の施設内における死闘を禁ずるものがある。

 

 協会が管理するのはギルドだけではなく、武具屋に宿舎、病院など様々だ。

 冒険者なら安価でサービスを受けられる反面、武具屋に売っているものも宿舎の部屋も医者の技術も大したものではない。


 その施設内で喧嘩程度なら問題ないが、武器を取った殺し合いは厳禁。

 外部から襲撃者が来れば全員で排除することでギルドの治安を保っている。


 つまり追われている身にとって、ギルド程安全な場所はない。


「それにおたくのボスである塾長の宝具。その効果が切れてナユタの居場所は完全に見失っていたはず。それなのに襲って来たどころか花屋に偽装する為のワゴンや【傷】とかいう集団を動員するという準備。それはおたくらがナユタの居場所を把握していたということ。これを偶然と見るなら俺は相当不運だ」


「確かに俺たちは裏切り者があの場所に現れるという情報を得て準備をした。確証はなかったから人選は限られたがな。だが、なぜアイツが自分の居場所を漏らす必要があるんだ?」


「それは俺を巻き込む為。おたくらが俺とナユタに接点があると思わせることが目的だ。その思惑通り、おたくらは俺にも襲ってきたしな」


 だが仮に俺の考えが正しいとしたらとある疑問が浮き出る。

 ま、それについては後々本人に聞いてみるか。


「それで俺の条件は飲めるのか?」


「ああいいぜ。獄塾が望むのは木箱の中身の回収と裏切り者の死。その結論が揺るがない限り誰がどうしようが構いはしない。ただ期限は明後日の日没だ。それ以上は待てない」


「了解。これで交渉成立だな」


「だが、お前にアイツを殺せるのか? 今回は闇ギルドではなく同志。冒険者という肩書きなしで人を殺すってのは生半可な覚悟じゃ精神を壊すぞ」


「…………」


 ふと、エルドラードの研究所にいた頃を思い出した。 

 何だか懐かしい声が聞こえた気がして、俺は思わず笑ってしまった。


「殺したことならあるさ。何人もな」


 俺の返しにグレンも笑う。


「いい顔だ。俺を失望させるなよ」


 グレンはそう言い残してその場を去った。

 交代するように店員がやってきた。

 数分前まで腹が減っていたのに、今はあまり食欲がわかない。


 さっきまで不機嫌だったのに料理が届いた瞬間美味しそうに食っているココアが羨ましい。




 ◆◆◆




「無事だったか」


「おたくなぁ……人に面倒事押し付けて逃げてんじゃねぇよ」


 ナユタの表情からして心配していることは本心だろうが、こうなったのは誰のせいだ。

 おそらく、こうしている間も獄塾の連中が見張っているはず。

 下手な言動は出来ない。


「まあいいいや。おたくのせいで俺まで獄塾に目を点けられた。こうなったら一蓮托生だ。これからおたくも俺達と一緒にいてもらう。お互いの状況が把握できるようにと互いを守れるように宿舎も同じだ。いいな?」


「私に異議を唱える資格はない。ジャックはどこの宿に身を置いているんだ?」


「協会の宿だ。もし今大層な所で寝泊まりしているならかなりグレードは落ちるが我慢してくれ」


「雨風が凌げて布団があり風呂と厠は別で八畳ほどの広さで周りが煩くもなく近くの店で生活に困らない買い物が出来ればそれ以上は望まないから大丈夫だ」


「既に結構望んでいると思うけど……ま、その条件なら問題ないだろう」


「では荷物をまとめてこよう」


 別れた後、俺とココアは宿舎に戻った。

 ナユタの足なら例え襲われても逃げ切るだろうし、取引した以上獄塾の連中も一週間は監視だけに留めるはず。


 俺達の借りている宿。

 一階は共有スペースのロビーと風呂(男女別)、二階は部屋が並びそれぞれにトイレがついている。

 部屋は全部で六部屋、安価だが借りているのは俺達だけ。

 部屋にはベッドや棚といったものはない空き室のようなもの。

 布団という大層なものではないが布くらいは貸してもらえる。


「お待たせした」


 ロビーでくつろぐ俺に声をかける荷物をまとめてきたナユタ。

 

「すでに部屋は手配している。二階の右手側一番奥だ」


 俺は部屋の鍵をナユタに投げた。

 受け取ったナユタはとりあえず荷物を部屋に置いてロビーに戻ってきた。


「そういえばココアはどこへ?」


「風呂入ってる。お前も疲れただろうし行って来たらどうだ?」


「……そうだな。すまないが見張りをお願い出来るか?」


「構わないぜ。周囲は俺が見張っておくからゆっくりしてこい」


 ナユタは支度をして風呂場に向かった。

 ロビーに居てもココアの大騒ぎする声が微かに聞こえる。

 その反応的に、ナユタは脱衣所で服を脱いで浴場に入った。


「……よし」


 俺も脱衣所に向かう。

 女風呂の暖簾をくぐり、ロビーよりハッキリとココア達の声が聞こえる脱衣所に足を踏み入れた。

 

 俺はナユタの衣服を漁る。

 罪悪感と背徳感に苛まれながら、俺はナユタの衣服を漁った。

 

 一度だけ見せてくれた宝具の憑りついた木箱、手に取って四方から観察してみる。

 もとはただの木箱で、宝具が憑りつくことで金庫に変わると言ってたけど、見た目は最初からこんなものだったと思えるくらい自然にダイヤルが埋め込まれている。


 他には匕首(ひしゅ)に、金の入った巾着があるだけで、これと言ってロックを解除するヒントになりえるものはないな。


 後で部屋の方も――――殺気ッ!?


 俺は肌を突き刺すような気配に思わず振り返った。


「貴様、そこで何をしている」


 俺のすぐ後ろで、濡れた肌を晒しているにも関わらず恥ずかしがるより眉を寄せて軽蔑の眼差しを向けているナユタがいた。

 彼女の姿を見た瞬間、俺の意識は虚界に至る。

 身長は百七十、長い足と高い腰、濡れて艶の増した長髪、白い肌はよく見たら傷跡が所々に残り、鍛え抜かれているが女性らしい身体つきをしている。

 上から八十八、五十六、八十四といったところか。結構デカいな。

 刀を振るっているだけあって逞しい手をしているが、長い指と綺麗な爪が美しさをしっかりと残している。

 姿勢も良く、骨格の造形も素晴らしい。特に鎖骨はマジで唆る。

 左脇腹と右太ももに宝具の契約印。


 表情以外は絵画にして後世に残したくなるほど麗しい容姿をしている。


「なにやら怪しげな気配があると思えば、まさか貴様が不貞を働くとはな」


 【傷】に追われている時でもしていなかった鋭い眼光。


「待て、冷静になれ。ギルド管理下の施設では死闘が禁止されて――」


「問題ない。死闘ではなく死罪だ――――天誅!」

「ぐぶえっ!?」


 虚界によって視界に映る時間が遅くなっているが、俺の肉体的な反応速度ではナユタの回し蹴りを回避することが出来なかった。


 だが得たものの対価にしてはまだ意識が飛ぶ程度の一撃で良かった。

 魔眼()で刻んだこの記憶はしっかりと保管しておこう。


 


 とまあトラブルはあったが、ナユタが追われている身でよかった。

 周りに言いふらされてたら社会的に死ぬ。


「もう少し上を頼む……あ〜なかなかなものだな。冒険者なぞ辞め按摩(あんま)に転職したらどうだ?」


「まー将来の選択の一つにしておく」


 俺は裸を()た謝罪も兼ねて宿のロビーでナユタの全身をほぐしていた。

 最初に提案した時は変態に体を預けるなど出来るかともう一発蹴りを入れられたが、説得を重ねて今に至る。

 指圧術はティーゼルに受けたものを真似たものだが、二年間何度も受けた癒しの記憶はしっかりと宮殿に保管されているから再現度は高い。


「なんか良さそうです! ココアにもやってほしいです!」


 羨ましそうにするココアを無視し、背中を揉み解しながら俺はナユタに声を掛ける。


「なぁ一つ確認したいんだけど」


「どうした?」


「おたくは獄塾に復讐とかって考えてんの? ほら、一応大事な人を殺されてるわけだし」


 踏み込んでいい質問か分からないが、ナユタの獄塾に対する考えは重要だ。

 俺の質問にナユタは冷静に返してきた。


「そんなものは考えていない。薄情だと思うかもしれないが、アラヤの死は自分自身で選んだ運命。もし誰かを恨まなければならないのなら、それはあの日、毒を受けアラヤが禁忌を犯すきっかけを作ったこの私だ。アラヤが託してくれた命を見当違いな八つ当たりで捨ててしまってはあの世で合わせる顔がない」


「……ならよかった。暴走して勝手なことされたら困るからな」


 まー【傷】に追われた時も冷静だったし、復讐とかは本当に考えてなさそうだ。

 

「それでこれからどうするつもりだ? 獄塾とはいえ世界中を捜索することはできないが、それでも私達がこの街にいることがわかった以上、隣国まで捜索の手は回っていると思った方がいい。その捜索網さえ越えればとりあえずは安心だ。だがいかにしてその網を越えるかが問題でもある」


 冷静な分析ありがたいけど原因おたくだからね。

 そんなツッコミをグッと抑え込んで、俺は計画を説明した。


「俺達の最終目的地は東の『サギッタ』。そこまでは少し遠回りして南の大国『アクエリアス』を経由する。ルート的にはなるべくアネクメネを通る感じで」


「なるほどな。街中はともかく、アネクメネならこちらに地の利があるというわけか」


「そゆこと。それに『アクエリアス』なら協会の施設も多いから物資調達と休息が同時に出来る」


「最終目的地が『サギッタ』とのことだが、そこになにかあるのか? 『アクエリアス』と同様の理由ならもう少し大きい国の方が良いと思うのだが?」


「まーそれはこっちの事情だから気にしないでくれ。アネクメネにはおたくの実力を確認する意味もあるんだけど、上級ってことなら魔物相手でも戦えるって解釈していいんだよな?」


「御眼鏡に適うか分からないが、一定の期待はしてもらって構わない。隠れ蓑だったパーティーに付き合って手にした上級という身分だが、実力に見合わない者に称号を与えるほど協会の連中も盲目していないはずだ」


「それもそうだな。時間は惜しいが色々用意しなくちゃいけないから明日の昼出発する。言っておくけど基本的にアネクメネを移動する以上野宿は覚悟しておけよ」


「それも問題ない。暗殺業というのは意外にも耐え忍ぶものでな、一ヶ月近く待機することも珍しくない。まー私の場合、三日目に入った瞬間乗り込んで護衛ごと始末していたが……」


「耐えても忍んでもないじゃねーか。理知的に見えて意外に短気なのな」


 だが、ナユタの短気は決断力や行動力があると言い換えることもできる。

 上手くコントロールできるといいんだが。


「……むむむ、うがああああ!! ココアを無視するなです!! ガブッ!!」

「痛っだぁッ!?」


 限界が来ていたココアが俺に噛み付いてきた。


 ……この二人の手綱握るの無理ゲーじゃね?


お読み頂きありがとうございます。

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