館内コンビニ 3
そこに、アマネがいた。
……おかしいな。おかしい。動揺を抑え、見る。まぎれもなく、アマネだ。いつもどおり、天使のように微笑し、そこに立っている。アマネとはついさっき別れた。どうやら、私がコンビニに寄っていたために、合流したようだ。しかし、なぜアマネが? コンビニに用があるのか? 神がコンビニなど必要とするものか。必要とするなら、戯れ。そうだ。神は、戯れをやる。ニンゲン並の営みをつまみ食いする。コンビニであろうが、注文と同時に部屋に届く通信店舗であろうが、注文しようと思うと同時に手に入った気持ちを得る《快楽店舗》だろうが、神にはどれでもいい。奴らは便利さなんていう不自由なパラメーターで動いてはいない。気分だけで動く奴らだ。
「どうしたのです? サキちゃん? だいじょうぶ? 顔色が青白……いえ、緑っぽくなっているじゃないですか!」
べたり、泉サキは、地べたにくずおれた。
アマネは駆け寄って来た。頭を撫でてきた。
この掌の感触。たいして大きくないのに、とても厚く、温かく感じる。まるで釈尊の掌。この感触は、妄想ではない。確かに本当のアマネ。……本当か? ……本当に? ……本当の本当に?
「やぁ、アマネか……」
搾り出すように言うのが、私は、せいぜいだった。まいったな。今の姿だけは観られたくなかった。胃の中で消化された料理を取り出して見せるような、このありさまは、アマネにだけは、みせたくなかったな。そっけない顔のまま、居なくなりたかった。
……フフフ。おかしいな。
能力の定着が駄目だったのも。
アマネと別れるのが大失敗なのも。
私は結局、詰めが甘い。
「――――――………。」
私は大きく、息をついた。魂を吐き戻してしまったくらい、息を吐いた。体調は目を瞠る悪さで、声を出せなかった。景色は吐き気に縛られ、意識は霞んで四散している。
私はゆっくり、立った。カラダがふらついた。アマネを押しのける姿勢になってしまった。
何か、言わなければ。でも言えるか? 唇を動かせるか? 今は言葉を選び礼儀を守って喋る体力が無い。
「アマネ」
あなたは悪くない。今のざまを見られた、私の運の無さ。あなたは私の近くに居る人間じゃない。わかるでしょ。わかってくれないと私も困る。
「悲劇を知らないおまえごときが、私に構う資格はない。わかるよね?」
あれ? なんでこんな事を言ってしまっているの? わからないよ。私自身がわからないよ。なんなのよこれ。でも私、神じゃないしなあ。時間、戻せないしな。こんなバカ悲劇は妄想だけでいいって言ってんじゃん。なんで実際に言っちゃってるかな? アマネはフッと手を離した。自分でも無意識に放してしまった様子で、それにハッとしていた。いつも微笑しているアマネが、一瞬無表情になり、目を開けたように見えたくらいだ。けれどもそれは妄想だろう。気付くとやはりちゃんと微笑していた。そうだ妄想。これは妄想だ。物質的妄想に過ぎない。居るように感じる妄想なんだ。私は疲れすぎだ。早く戻ろう。戻って寝落ちよう。この気分の再開を、一時的に中断するために。それは《創舎》の暮らしでの、いちばん幸せなこと。




