独白
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私はね、引き込もりなのよ。なさけない話だけど、私は一人では全く動けない人間なの。『魔王』の能力は私の心身の力を奪ってしまう。納豆で言えば中身は根こそぎ奪われて入れ物にはぬめりしか残っていないようにね……こういう比喩が微妙な事だって知ってる……脳の回転が鈍速になってしまうから……それも私の能力のせい。
《創舎》に来て以来、私は一人では何もできなかった。動けなくなってしまうのよ。ココロもカラダも言うことを聞かない。いいえ、『そっちに行くな』と思う方にだけ行く。
力の入らない骨と肉の塊。億劫に輪を掛けて億劫。このセカイで、いろんなことをしたり、動いたりするなんて考えられない。引き込もりの私はこの世界では蹲らせられる。『お前は動くな』と世界から言われている気がする。実際その力を感じる。空気すらも、三十センチ大の針の集まりに見えたりする。世界からの有無を言わさぬ圧力。小さな小さな、塵や木っ端や小石のように、物を言わずに黙って世界の中でハマっていろ。そう言われている。部屋に居るしかできなくなる。膝を抱えて蹲る事しか。ときどき寝返りを打つくらいのことしか、私には許されてないのよ。
でも、あなたは、私を連れ出してくれたわね。思い詰める方向にむかう気分を反対側に引っ張ってくれ、散らしてくれた。何より、引き込もっていて、能力を定着する努力もしないで《創舎》に居るだけの私を、非難しなかった。それが嬉しかった。本当は努力しないんじゃない。事実は、できないのよ。
あなたの気遣いは、とても嬉しかったわ。あなたが私を連れ出してくれるから、ほどほどの良いストレスになった、心を適切に張り詰められた。まず、がんばれたこと自体も、ひさしぶりだった。《創舎》や[シンジュク]や《本舎》のことを、何も知らないあなたにいちいち説明するのは、私のみすぼらしい自尊心を回復させた。あなたとのコミュニケーションは、不愉快じゃなかった。退屈もしなかった。
こちらに来て以来、自分が引き込もりだったことを、忘れられたのは、初めてだった。
あなたがついていてくれたら……うまく暮らせるかもしれないと思った。ただそれは、能力が身についていればの話。いっときの夢見心地は間もなく終わる。私は能力を定着できなかった。期限が迫っている。《創舎》は去るしかない。今はこれまで。私は月並な、人間にすぎなかった。背伸びして神の姿をちょっとだけ眼にした、人間。なまじ眼にしたばかりに、神の残像に焦がされ、灼けてしまった。
神が人間に掛ける言葉は一つもありはしないのよ。
さようなら、天与。




