第1話
とあるビル群の奥にある雑貨ビルの4階にあるドア
そのドアにはカタカナで“コロシヤ”と書かれた紙が乱雑に貼ってある
そのドアを開けて中に入るといつものように少年と女性がいる
「ヤバい。……これ完全に熱でたっぽい」
「大丈夫でしょ。喋れてるんだし」
「この状態でしゃべれなかったらそれ本気で死を覚悟するやつだからね。今、ここにいられないからね」
「はいはい。病人は喋らず安静してる」
「………お前がしゃべらせてるんだろうが」
少年は先日の夜中に行った湖観光が仇になったらしく今、熱にかかりでこに熱冷まし用の冷却シートにマスクをして年代物のちゃんちゃんこを着てソファーに毛布を2枚ほどかけ寝ている。
「運び屋の奴次あったら金をせしめてやる」
「そう言えばこの状態でお客さん来たらどうしよっか?」
「いや、お前が応待しろよ」
「あ、そっか」
女性はパソコンのキーボードをかたかたと音をたてながらかなりの速度でタイピングをしている。一体何をそこまでする必要があるのだろうか。
「まぁ、不安が残るからアイツを呼んどいた」
「アイツって、商人? 運び屋?」
「うんにゃ、あいつだ」
少年がそう言うと女性がタイピングをやめ少し青ざめた顔で振り返る。
「……マジで?」
「マジです」
「……あ、私、シニタガリに行ってくる用事があったんだ」
「おい、病人をおいてくなよ」
「じゃあね」
「おい、マジか」
女性はあわてた様子でパソコンの電源を落とし部屋から出ていく。
「……マジで行っちゃったよ」
部屋には病人の少年1人。
急に1人になると、特に病気にかかっている時はそうなのだが妙に寂しくなってくる。
「早く来ないかなー」
少年がそうぽつりと言ううとドアが勢いよくバタンッ! と開く。
そしてどこからともなく女の声が聞こえてくる。
「あなたに呼ばれて馳せ参じ! いつでもどこでも自殺サポート! 不安・危険・遅延がモットーの自殺サポートステーション“エイミン”です!」
横ピースをして決めポーズ完了の女はその場になぜかしばらくただ立っていた。
綺麗に整ったロングの黒髪に程よい胸のふくらみそれにスタイルは普通。ピンクのカーディガンに上に1枚羽織り下はデニムと言ったこれまた普通な恰好。なのにテンションは妙に高く異常である。
「あっれー? 何でお出迎えがないのかな? それでも正常な常識を持つ人間様がすることかなー? って、こんな仕事してるのに正常でもないか!」
エイミンはその場で1人で勝手に盛り上がっている。
そして無理をして起き上がった少年がドアまで出迎える。
「お願い。静かにして」
「おー! 見た目は童貞、中身はヤリチンのコロシヤ! って、どうしたのその恰好」
「お願い。本当に静かにして」
「ツッコミがないだと!?」
「だから静かにしてって」
ここまで少年が弱気でしかもおされている状況を初めて見る。
エイミンはそこまですごいと言うことである。
「まぁ、まぁ。それであの子は?」
「お前が来るって知ったとたん病人をおいて逃げたよ」
「ありゃー、そりゃドンマイ」
エイミンを部屋の中に連れて行きつつ話していると無駄に体力を使うのか少年の顔が疲弊しきってきていた。
「もう、だめだ。俺は寝てるから。もし客が来たら適当に座らせて受け問いて。名目上はコロシヤで、けど取り分はエイミンでいいから」
「おっけー! じゃあお休みー」
「おう」
少年はソファーに横になりそのまま瞼を閉じ眠り始める。
「……さてと。起こさないように静かにしとこーっと」
エイミンが机の椅子に座ってクルクル回っているとドアからノック音が聞こえてきた。
「早速お客さんかな? 繁盛してるねー」
エイミンがドアへ着き開けるとそこには年端もいかないであろうスーツを着たサラリーマンがいた。
「おー、こんな平日の昼間からリーマンが客ですか。さぁ、中に入って」
「あ、はい」
エイミンはリーマンを部屋の中へ案内する。
「じゃ、ここに座って」
リーマンは机の椅子に座り視界の端に移るソファーで寝ている少年をちらちらとみている。
「あ、あいつのことは気にしないでね」
「は、はい。それで」
「あ、そうだった。あなたはここがどんなところか知って来たの?」
「はい。……自殺を手伝ってくれるところですよね」
「正解。じゃ、早速だけど死にたい理由教えて」
エイミンがリーマンの横の椅子に座りにこっと笑いながら訪ねる。
「はい」
リーマンは平凡だ。
その見た目からもわかる通りそこら辺にいる有象無象の1人にしか過ぎない。
しかしそんな彼も社会人になり状況が一変する。
彼は運悪くブラック企業に入社してしまう。周りからは一流企業ともてはやされている企業だ。
1つ何かミスをすれば1週間のタダ働きに無駄に先輩風を吹かせてくる上司たちに何もしない責任者。残業は当たり前。どんなに重傷で休もうが無断欠勤になる理不尽に忌引きといって休もうとしても休ませてくれない。そんな一流企業。
そしてリーマンは平凡であるがゆえにストレスの許容も平凡である。
そんなところにいればストレスの許容範囲を軽く超える。
それから毎日が辛くなり今に至る。
「と、言うことです」
リーマンは自嘲気味に笑い話した。
そんなリーマンを馬鹿にするように見下すようにエイミンは見ていた。
「つまんない理由。まぁ、いいや。ここまで来た勇気だけでも褒めようか。それにここまで来たらもう逃げられないしね」
「……え? そんな言い方は」
「はいはい。君みたいなストレスを抱える人はいっぱいいるの。まぁ、そんなことはどうでもいいとして」
エイミンはしらっと言って机の上に置いてあった電卓を取り計算をしていた。
「よし。じゃあ、1週間後までに5000千万持ってきて。どんな借金をしても」
そういってリーマンに電卓をみせる。
「え? ちょっと待ってください! いくらなんでもこんな額を無理ですよ。それにあなたの言い方」
リーマンが言っている途中でエイミンが割って入る。
「うっさいね。まったく自分がどれだけゴミなのかわかっているのかな? それでよく人間やれてきたよね」
「そんな言い方。もう、この話は無しに」
リーマンがそう言いかけた時エイミンがリーマンの首元をつかみくいっと自分に寄せリーマンの耳元で静かに言う。
「甘ったれるなよ。逃げられないって言ったでしょ」
「………」
リーマンは恐怖のあまりに声がでなくなっている。
「わかったら早くここから出て行って金をかき集めてくる。そして1週間後またここに来る」
そう言ってエイミンは無造作にリーマンを突き放す。
突き放されたリーマンはすぐに部屋から出ていた。
「じゃーねー。1週間後待ってるよー」
エイミンはにこにこと右手を振りながらリーマンの後姿を送っていた。
そして完全に見えなくなるとソファーに寝ている少年を見て無表情になって言う。
「今回は私のやり方でやらせてもらうからね」




