第3話
そこは深い夜の林の中。
モデルと少年と商人と運び屋がそこにいる。
湖の畔から離れ側にある林の中。
葉が風によって揺れ独特の音と雰囲気を作り出す。
「本当に今すぐ死ねる方法があるんですか?」
「今すぐって訳じゃないけど、今から死ぬ準備って言うか? なんといえばいいのやら」
そう言って少年は商人と運び屋に視線を送るもわざとらしくそらされてしまう。
「………うーむ。百聞は一見にしかずだな。もう見てもらった方が早い」
少年はがさごそとズボンのポッケを漁り、中から一つのカッターを取り出した。
なぜこの時、少年のポッケにカッターが入っていたかは謎ではある。
「それってカッターですねよね。一体それをどうやって」
「モデルをやっているのに流行りを知らんのかね? 一部の若者に大人気のリストカットですよ」
「え? リストカットは知ってますけど……でもリストカットって体を傷つけて気持ちを落ち着かせるものじゃ」
「リストカットは本来、自殺の用法で精神状態安定を期待するものじゃないしストレス発散とか全然できないし。そりゃ、あのネットの百科事典には自傷行為って書いてあるけど最近じゃ主に自殺の方が主流なんだぜ。………多分」
少年はカッターの刃を出し入れしながらそんなことを言うと刃をしまった状態でモデルにぽいっと投げ渡す。
「ちょっ、アブ!?」
「それで手首でも切ればゆっくりと死んでくぜ。それか首元を掻っ切ってもいいかもな。まぁ、そうしたらリストカットではないけど」
モデルは少年から投げ渡されたごく普通のカッターを見つめつばを飲み込む。
「怖いのなら時間はかかるが楽な死に方をするが、さっきも言ったが今この場所でできる一番早い自殺方法はこれしかない。どうする?」
「どうするってそんなの……もうコレしかないじゃないっすか」
モデルはカッターの刃を出しながら何かに取りつかれたように不気味に笑った。
それを見て少年、運び屋、商人は何かを察しこくっと目を合わせうなずいた。
「じゃ、決まりだな。俺たちはここいらでこの場から離れるから自分の好きなタイミングではじめなよ」
「じゃーねー!」
「………またな。今度会うときはあの世でな」
そう言って3人は林から出て行った。
その場にはもうモデル1人しかいない。
「……はぁ、まさかこんな死に方をするなんてな」
モデルはカッターを見つめながら自嘲気味に笑うと深呼吸を一回。
「よし、死のう。ぐだぐだしてたって仕方がないし」
そう言ってモデルは利き手とは別の左手にカッターを持ちそっと右手首に刃を添える。
「……ふぅ。さよならみんな」
ずちゃっ! 生々しい音がその場に響き渡る。
「くっっっっっっっっっっっっっっ!!」
言葉にならない激痛がモデルを襲う。しかしモデルは今度は肉を抉り取るように切りつける。
「はっ……くっ」
モデルの右腕首からどくどくと血が溢れ流れ出てくる。
モデルはそんな右手首を見ながら今度は首の左側に刃を移動させる。
不規則な呼吸と流れる汗と震える左手。
その総てを理解し自分が今どのような状態であるかわかりきったモデルは首を切りつける。
「っぎっっ……」
手首を切った時とは比べ物にならない血があふれ出てきた。
まるで噴水のように。
そしてモデルは次第に意識が遠くなっていき血の池と化したその場へ倒れこむ。
ゆっくりと狭く暗くなっていく視界と自分の弱弱しいその息づかいは次第に聞こえてなってくる。
そして息が聞こえなくなった後に視界もまた暗く広くなっていった。




