第2話・コンプリケーション少年編
少年はまだ夕日が完全に消えかかっていない放課後に廃ビルへと行った。
まだ陽が出ていると言うのにすでに薄暗く深い夜を連想されるようだった。
そんな場所に少年は約束の時より早くに来ていた。
そこは廃ビルではあるがバブル期に建てられていた影響もあってか高層ビルとなっており、かなりの階数があった。
「………ここまでか」
少年は登りきれるだけの階数まで来ていた。
その場所にはまだ彼女は来ていない。そもそも今夜と言っただけで何時に来るかもわからないし何階にいるのかもわからない。もしかしたら入り口で待っているのかもしれない。しかし少年はそんなことはまったくもって知らないと言った表情でその場に座り込む。
そこから見える消えていく夕日は異常に眩しく少年の眼に映し出される。
次第に夕日はその異常なまでの光を隠すようにして水平線上へと消えていく。
たまたま海の近くとゆうこともあってか夕日は限界までその姿を隠さなかった。
夕日が完全に消えると今度は月明かりがその場所を照らす。
夕日とは違いどこか優しく包まれるような気分になる光だ。
その場に聞こえる音は風と下からの小さな騒音と少年の吐息だけ。
彼女はいつまで経ても来ない。もしかしたらもう他の階に来ているのかもしれない。けどこっちから行くのは面倒くさい。向うが気づくまでここにいよう。
そう思っていた少年だったが脳と体はどうやら違う答えを出したようで体が勝手に動き出した。
そしてとってつけたような言い訳を言う。
「ま、仕方ないな。俺から行くか」
すくっと立ち上がり階段を一段一段けだるそうにして下りていく。
1フロアごと丁寧に見ていく少年。そして少年がいた最上階から6階ほど下りた眺めがそこそこにいいとあるフロアに彼女は横になっていた。
少年が、はぁ。とため息をつき彼女に近づくとすやすやと彼女は何の警戒心もなくその場で寝ていた。
「……マジかよ」
少年がそう呟くと彼女がゆっくりと目を覚ました。
「…うー。………あら、もう来ていたのね」
「まぁな」
「そして今から私は犯されるところだったのね」
「そんなことしねぇよ」
「まさか処女を性犯罪者相手で失うことになるなんて一度も想像したことなかったわ」
「いつどこでこの俺が性犯罪者になった」
「今ここでよ。現行犯だわ。今すぐにでも警察と言う名の国家権力の奴隷にでも通報しましょうか?」
「はい、スミマセンでした」
少年は颯爽にその場で土下座をした。やってもいないことで土下座をすることがこんなにも屈辱的でみじめなのはきっと正しいことだと心に言い聞かせながら土下座をする少年。
「……ふふっ。冗談よ。アナタって本当に面白いわね」
「冤罪で捕まるぐらいだったらプライドを捨てるのが得策だろ」
そう土下座をしたまま言う少年のその姿はあまりにも滑稽でシュールだった。
「あら、なかなかに普通な人間らしいことを言うのね?」
「アンタの目には俺は何に見えているんだ」
「そうね、ただの生命体かしら?」
「なんだその不気味なのは」
「さぁ? 知らないわ」
「マジかよ」
「マジも何も知らないんですもの。きっと私の目にはアナタのことはアナタとしてしか映っていない。人間でもないし何者でもない世界中でも歴史上でもたった一人しかいないアナタとしてしか私の目には映っていないわ」
「なんかとてつもなくスケールがデカいな」
「そうでもないわよ」
「そうなのか」
「そうなのよ」
そこで一旦会話が途切れ沈黙が訪れる。
彼女は上半身だけ起こし座っている状態になりその隣に少年が座っていた。状況と場所が違っていれば青春を謳歌する男女にでも見えただろう。しかしここは廃ビルで今日この廃ビルに集まった目的は少年が人の死についてどう思っているかの検証。
「そろそろ本題に入りましょうか」
彼女は横目で少年を見る。
そんな少年はごくりと唾を一滴飲み込む。
「たしか検証だったよな。俺が人の死に対してどう思っているかの」
「あってるわ。覚えていてくれたのね。それなら話が早いわ」
「えっ、……なにやって」
彼女は突然上半身の衣服を脱ぎだし下着一枚になった。
「何って服を脱いだだけよ。アナタが勝手に性的欲求を覚えて股間を勃起させるのは結構なことだけど検証の支障にならないように今のうちに処理しておきなさい。それとも今からしましょうか? 私は全然かまわないわよ」
「お前冗談もほどほどに」
少年が目の前で下着を脱いだ彼女を見て言葉を失ってしまった。
そして少年の股間は一回り以上に膨れ上がっていた。
「冗談じゃないわよ。検証の支障になるならそれぐらいはするってことよ」
彼女は話しながら今度は下半身の衣服と下着を脱ぎ始めた。
「ほら? 興奮するわよね。襲ってきてもいいのよ」
「……はぁ。ごめん。そこまでされるとなんか逆に萎えるわ」
「あら? そうなの残念」
少年は目の前の彼女に対して何らかの恐怖を抱き始めていた。それは己が欲求をも上回るほどに。
「なら、とっとと検証を始めちゃいましょうか」
「だな。で、俺は何をしたらいいんだ?」
「まずは裸になりなさい。そうしないといろいろ後が困るわ」
「……はいよ」
少年はいわれるがままに裸になっていく。
今この場この状況で彼女に少しでも意見をしようものなら確実に何かとてつもないことが起こってしまう。少年はそう思っていた。
「なったぜ。次にどうすればいい」
その言葉を合図に彼女はその場に寝てしまう。
「私とキスをしなさい」
「……はいはい」
少年は彼女へ近づき彼女のその綺麗な唇へと自分の唇をのせていった。
その瞬間、彼女は少年の中に舌を入れ俗に言うディープキスのような激しいキスを始める。
そのキスは長く続いた。しかし少年はある違和感に気付き口ブルをカノジョから離す。
「お前今俺の中に何を入れた」
「何って舌よ」
「そのことじゃねぇ! 確実に何か薬のような物が無理矢理に喉を通って行くのを感じた」
「……アナタって案外敏感なのね」
「だから何を入れたかって聞いているんだ!」
「そう慌てなくても大丈夫よ。確かに流し入れたのは薬よ。けど飲んだからって人体に影響することはないわ。ただ数時間程度意識があやふやになるだけ。後は特にないわ」
「意識があやふやって……っ!?」
瞬間、少年は頭を抱え込む。
彼女はその姿を見て妖艶に寝た状態で笑い言う。
「私を食べなさい」
「そんなことできるわけっ!」
「できるわよ。だってアナタはこれから少しの間、人間じゃなくなるのだから。だから私を食べなさい」
少年は抵抗しつつも体がそれを抗うかのように勝手に動きだし彼女の綺麗な首元に吐息がかかるまで顔を近づける。
「そうよ。それでいいのよ」
彼女のそのささやきは甘くくすぐったく少年の鼓膜へと届いていく。
そして勢いよく首元を食べ始めた。
それから時は戻り少年は意識を取り戻していく事となり現実を知ることとなる。




