表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/30

清水六花の回想~その1~ feat六花

 私立の高校に入学してすぐのことだった。両親の転勤が決まり、私も一緒に転勤先へと引っ越しをすることになったのは。

 

 私の両親は転勤が多く、行く先々で友達を作っては別れての繰り返しが普通の日常となっていた。お別れした友達の中には、今でもメッセージのやり取りをしている子もいるが、ほとんどの子たちとは疎遠になっている。

 

 幼少期からこんな生活を繰り返しているから、一人を除いて、他人に対して友情や恋愛感情なんてものが芽生えるなんてことはほぼない。

 だから別れても全然寂しくなんかない。

 

 だって私は愛想がよくて、明るくて、顔がよくて、スタイルがよくて、誰からも愛されるような模範的な美少女転校生というキャラクターを行く先々で演出することが出来るから!

 だからそんなキャラクターを演じていれば、勝手にその場限りの友達が出来るの! 勝手にみんなが私のことを好きになってくれるの!

 

 でも、私は別にみんなのことは好きでもなんでもないわ。どうせ両親の転勤が決まったら、みんなとはまたお別れするんだから。私は家族の絆が何より大事だから。それに、その場限りの友達に想い馳せることなんて何もないでしょう? みんなが好きなのは()()()()()()なんだから。

 

 お別れまでの間、私はこのキャラクターを演じるの。それが自分の今までの人生で学んだ、私が賢く生きていく方法なんだもの。

 私は今日も元気で愛想よく、明るくて可愛い美少女転校生を演じるわ。

 

 月曜日の朝。

 初めて顔を合わせた担任となる姫川先生はすごく負のオーラが強い女性で、話しをしている時はほとんどの語尾に「鬱です」を付けるような癖のある人物だった。初めて会った時は本当にこの人が担任で大丈夫なのだろうかと不安が頭をよぎった。

 

 姫川先生は私と目線を合わせてくれない。

 陰キャ特有の対人に不慣れなゆえ出る行動なのかなと思ったけど……リアクションを見ていると不慣れっていうよりかは、何か太陽を直視した時に目線を避けるような仕草に感じた。


「――それで……あの……私が軽く説明を済ませますので、『入ってきてください』と言ったら、清水さんは教室に来てくださいね?」


「はい! わかりました!」


「あうっ。まっ、まぶしい! 鬱が濃くなる」


「そんな影が濃くなるみたいに言わなくても……」


 リアクションに困る。


 姫川先生は話し終えると同時に、一目散に教室へと入って行った。廊下で待っている間、教室から先生の低い声が聞こえてくる。

 気のせいかしら。扉の窓ガラス越しに見える先生の顔の陰りが、どんどん濃くなってきているような気がする。陰影が彫刻版画みたいだわ。

 

 さて。この高校でも、美少女転校生としてみんなに好かれるよう頑張るとしようかしら。

 

 私がフェイスアップをして笑顔の準備をしていると、姫川先生が教室から助けを求めるような視線を送ってきた。

 

「……そろそろか。ん~! この学校でも天真爛漫な美少女を演じないとねっ」

 

 そう意気込み、演技のスイッチに切り替えて、姫川先生の「入ってきてください」の言葉と同時に元気よく教室へと入って行く。

 

「おはようございます! 転校してきました清水六花(しみず りつか)です! 両親の転勤の都合で引っ越してきたばかりで、まだこのあたりのことも分からないことだらけなので教えてもらえると嬉しいです! これからの生活よろしくお願いします!」

 

 とびきりの笑顔とともにEカップの胸を少し張り、人差し指を顔の下あたりに持っていきフェイスラインをシャープに見せる。

 これで前列の男どもは、私の可愛さに太陽礼拝をささげるほどハートを掴まれたわね。

 

 しかし、このアプローチはあまり同性受けがよくない。といってもどうせほとんどの人間は私のことを好きになってくれるだろうから、アンチが沸こうが関係ない。負け犬は吠えさせておけばいいんだもの。

 

「前の学校では『りっちゃん』『リツ』って呼ばれてたよ! みんなもよかったら呼んでね!」

 

 はい。前列は成仏したわね。

 

 にしても、このクラスの過半数はもうすでに私のビジュアルに虜になっているものだと思ったのだけども、意外と手ごわいわね。前列の男子どもは鬼籍に入ったというのに。その後ろの列以降は、ほとんど普通の転校生がきた時のリアクションそのものだわ。

 女子に至っても、とくに私に対して嫌悪感を抱いているような表情は見せない。ただ普通に転校生を迎えている絵面だわ。


 どうなってるのこの高校? ひょっとして私よりもさらに上の次元の美少女がいるってこと? 私は死神も(ホロウ)も超越した存在だと思っていたのに、そのさらに上の次元の存在が目の前に立ちはだかっているとでもいうの!?

 

「それでは、清水さんの席はあそこの空いている席でお願いします。隣に座っている蒼君が面倒見てくれると思うので、遠慮なく頼ってください。私には頼らないでください。眩しすぎて鬱になります」


「はーい!」

 

 姫川先生に促された先へ目を配ると、そこには私より遥か上の次元に立っている美少女が鎮座していた。

 

「補足ですが。顔は女の子にも見えますけど性別は男の子ですよ」

 

「先生、その説明いりますか?」

 

 男の子だったわ!? いや、正確には男の娘なのかしら!?

 いえ、それよりも重要なのはそこじゃなくて……彼が週末に出会った、私の思い描く理想の顔ど真ん中のあの子だったということよ!

 

 え!? すごい! え? まって! 改めて見ると本当に男の子なの? 髪サラサラっだし、肌も白くて、まつげも長いし目も大きい! 薄いピンクの唇も! ああ! すごい柔らかそう! 体格も華奢でもうこれ完全に美少女じゃない! わて興奮してまうわい!

 

「最近校内で流行っている『星駆ける春』という漫画を読んでから、蒼君の性別が分からなくなってしまって」

 

「先生! 僕今日は早退したいです!」

 

 何ですって? その薄い本はぜひとも入手したいわね。私実は、家では漫画やアニメをジャンル分け隔てなく(むさぼ)り喰らう人種なの。その手の話しを聞くとどうしてもコミケ本番当日の血がたぎるわ。絶対に観賞用、布教用、実用で揃えておかなくては!

 

 今までの人生で、男なんて私の魅力に群がるだけのただの羽虫程度にしか思えなかったけど。今この瞬間、私の三次元での好みのタイプが分かった気がするわ。私ってこういう女の子みたいなタイプの子が好きだったのね。

 別に私の恋愛対象が男だからとか、女の子を好きになれないからってわけじゃないの。 ただ今までそういうタイプの子と会ったこともないし、そんな子がいるなんて聞いたこともないから関心を持たなかっただけ。


 でも今この瞬間に、私はこの蒼君という子に恋をしたわ。

 

 だって本当に可愛いんだもの! こんな男の子がいるなんて思うわけないじゃない! これはもう運命ね! 神様ありがとう! 私がこんなにも早く運命の人に巡り合えるなんて! 正直恋人は二次元の『商店街の祓屋(はらいや)』という漫画の押しキャラ天道榊(テンドウサカキ)様しかいないと思っていたわ!

 

 でも! 三次元にもちゃんといたの! 蒼君よ! 蒼君こそが三次元での私の運命の人なんだわ! この梅雨、運命が動き出したんだわ! ああどうしよう~! 胸がキュンキュンしちゃう~。私もう我慢できないっ! 今すぐ蒼君に抱きつきたい! あ、でも待って? いきなり抱きついたら嫌われるかしら。それは嫌ね。ならまずはお友達からよね。そう、友達から始めましょう。そしてゆくゆくは恋人に……ふふ、ふふ、ぐふふふふ。


「うへへっ」

 

 おっと危ない。素が顔に出ちゃうわ。平静を保って席へ移動しないと。第一印象はしくじれないわ。人と会うときは初めの印象が大事だものね。

 

 クラス中が別の話題で盛り上がっている中、私がさっそく蒼君の席へと馳せ参じようとしたところ、少し背の小さなポニーテールの女の子が前に現れた。

 

 まるで私の恋路の行方を阻む、城壁となって立ちはだかるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ