清水六花の回想~その2~ feat六花
「あたし、天野有紀。よろしくね、清水さん!」
苗字呼びをわざと強調したかのような言い方ね? 照れているだけかしら。
……いや、この目は違う。照れなど一切ない! まさか!
「……こちらこそ、よろしくお願いします! 天野さん!」
「文春はあたしと幼馴染でよく一緒にいるからさ、清水さんも困ったことがあれば、文春だけじゃなくあたしに頼ってくれてもいいよ! 文春は今部活で忙しい日もあるから」
なるほどそう来たわね! 幼馴染!? 令和のこの世にそんな設定まだ存在しているとでも!? 王道だからこそ存在しているとでもいうの!? それよりこの子、間違いない。私にけん制しているんだわ!
「わーい! ありがとう! じゃあ、天野さんと今日からお友達だね!」
私が蒼君に、いや文春君に好意があるということを勘づいたというの!? なんて野生の勘!
「いいよ!」
この子、幼馴染というアドバンテージで私の前に立ちはだかるつもりね! いいわ、受けて立つわ! 私の方があなたより美少女な分、そのポテンシャルを最大限に活用すれば勝ち筋は見出せるはず!
でもそうね。まずは彼女の外見でも褒めて交流を深めようかしら。
「ところで天野さん、黄色のリボンとその花びらが混じった雫のチャームとっても素敵ね! どこで買ったの?」
「これは週末に、文春と出掛けたときにプレゼントしてもらったんだ!」
決別だわ。私の青春一歩目から波乱万丈だわ。でもここでうろたえてしまってはダメよ。まずは二人の仲を探らなくては。
「へぇ、そうなんだ! なんだか二人はカップルみたいだね?」
私の問いに、彼女は一瞬顔を赤くすると急に慌てた様子で。
「そ、そそそそう見えるかな!? へ、へへへっ」
顔に出るわね、この子。絶対ポーカー下手くそだわ。ババ抜きも弱そう。
「そんな綺麗なアクセサリーをプレゼントするなんてセンス抜群だね! 二人って付き合ってどれくらい経つの?」
「付き合ってどれくらい?」
「ゑ?」
「え?」
顔を赤くしてにやけた様子で照れていたと思ったら、今度は一瞬で真顔になった。
何この子怖いわッ? 南国から北極くらいの急な温度変化じゃないの!?
「あ、え、いや、あたしと文春は、友達で……」
そう必死に言葉を絞りだそうとする彼女の瞳は、徐々に光を失っていく。
……なんだかラブコメの負け幼馴染みたいな子ね。見ていてちょっと応援したくなるようなくらい可哀そうに見えるわ。
「そ、そーなんだ! ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「ぜ、ぜんぜん大丈夫だよ! …………今はまだ」
「今はまだ?」
この子、彼に恋人が出来たらヤンデレヒロインにジョブチェンジしそうね。気を付けなくては。刺されそう。
でも幼馴染と聞いて少し警戒はしていたけど、この感じだとライバルとしては役者不足感が否めないわね。私の恋路を表立って邪魔にしないのであれば、放っておいてもなんとかなりそうね。
「それじゃあ、私は文春君の隣の席に移動するね!」
「あたしもちょうど清水さんの隣になるから一緒に行くよ!」
チッ。よりにもよって席が隣だなんて。これはたぶん邪魔してきそうね。まあ今日のところはまず、この天野さんと文春君がどういう関係なのかを探らないとね。
天野さんと一緒に席へ移動してきた私は、金髪のガラの悪そうな男の子と話している文春君のもとへと足を運んだ。
「おはよう! 文春君! これからよろしくね!」
今日一の美少女スマイルをプレゼントしたわ。私って本当につくづく愛想がいい、愛され美少女ね!
「うん、よろしくね。あれ? 僕の下の名前って知ってた?」
「さっきあたしが教えたのよ」
「あっ、そういうことね」
さっそく私と文春君の間に入ってきたわね、この子。文春君も私の笑顔を見たというのに顔色変えずに返事をしてきたわ。やっぱり他の男子とは違うわね。好き。
「俺のことはー?」
「あ、ごめん。忘れてたわ」
「おい」
文春君の後ろの席にいた金髪の不良が、彼の両肩に手を置いて前に乗り出す。
何それ羨ましいじゃないの。初めて男に生まれてくればよかったと思ったわ。
「清水さん、この金髪は北斗流星っていう、あたしたちの幼馴染よ」
「よろしくな。清水さん」
「うん! よろしくね! でもみんな、私のことはぜんぜん名前呼びでいいんだよ!」
「初対面の相手に名前呼びって、なんか抵抗感あるなーって感じだから……僕は慣れてきたらそう呼ばせてもらうよ」
「フミは考え方が変に堅いよなー。俺は六花で呼ばせてもらうわ」
馴れ馴れしいわねこのパツ金。
「あたしも気が向いたらそうする」
「……お前も素直じゃねーな」
天野さんは私のことを警戒しているようね。
それにしても文春君。近くで見るとよりビジュアルの強さが際立つわ。左目の小さな涙ボクロがえっち!
ビジュアルだけで判断するなら、きっと彼は押しに弱いタイプの草食男子よ。漫画やアニメのヒロインにもこういうキャラいたし。だったら私がぐいぐいアプローチをかけていけば、彼が私のことを好きになってくれる可能性も高いはず!
「ねえねえ、みんなっていつもどんな話ししているの? 私転校してきたばかりで何も分からないから色々教えてほしいな!」
まずは情報収集が先ね。
「どんなって言われてもなぁ。くだらない話しばっかだよなあ。でも最近だとフミが入ってるメディア部の取材関係の話しとかが多いかな? コイツうちの高校のいろんな部活に取材行ってるから」
「二人とも違う部だし、『期待の新人』枠だから取材する手間が省けて楽なんだよね」
「……メディア部?」
「新聞部と放送部が一緒になった部活だよ。僕はそこで今、校内新聞の取材を主に担当しているんだ」
「へえ! 面白そうだね!」
よしそこに入部しよう。正直取材なんて興味ないし、早く家に帰って漫画やアニメに興じたいところではあるけども。今は文春君との親密度を上げることの方が最優先だわ。こう見えて私ペ〇ソナで学園生活の何たるかを鍛えてるのよ?
「あ、天野さん。バレー部顧問の猿渡先生が呼んでましたので、体育館までお願いします。連絡遅れてごめんなさい。自分が無能すぎて鬱になります」
「……チッ、こんなときに……わかりました! 今行きます!」
今舌打ちしたわねこの子。
「ひっ……生徒が怖くて鬱ぅ~」
彼女の豹変ぶりに先生が恐れおののいているわ。
「文春! 余計なことしないでよ!」
「え? 余計なことってなにが?」
「いーから! あーもう! じゃあ、あたし行ってくるから! 流星あとよろしく!」
「あいよー」
その場を名残惜しそうに彼女は教室をあとにした。
よしこれで邪魔者が消えたわ。心置きなく文春君と親密になれるわね。
「メディア部って面白そう! 私も取材してみたいなー!」
「いろんな人と関われて面白いところもあるけど……変な人も多いよ?」
「それはそれで楽しそう! ……ネタになって」
「ねた?」
「あん? 寿司ネタか?」
「違うよパツ金!」
「パツ金って俺のことか?」
パツ金が邪魔だけど、関係を構築するチャンスだわ。天野さんがいないうちに、文春君からいろいろと聞き出しましょうか。
「取材ってことは、この学校のこととかいろいろ知れるってことでしょ? それなら私転校してきたばかりだし、ピッタリの部活だと思うの!」
「たしかに。でも本当にうちの部でいいの? 他にもいろいろ部活あるけど」
「六花は中学の時とか何部に入ってたんだ?」
「私は両親の転勤が多かったから、部活とかには所属してなかったな~」
何気安く私のこと呼び捨てにしてるのよ、このヤンキー崩れ。あ、私が名前で呼んでいいって言ったんだわ。
「それは大変だったよな。でも部活への入部希望ってことは、今後は転勤の予定がないってことか?」
「そうなの! 今回は卒業までは転勤ないかもって話だから部活に入ろうと思って!」
「なんだかすごく大変な生活を送っているんだね」
「そんなことないよ! 行く先々でいろんな人と仲良くなれて楽しいし!」
「ザ・陽キャって感じだな。キララちゃんがいつもより暗くなるわけだ」
「うん。光と影だよね」
「姫川先生ってミスディレクションとか使うの?」
「先生はミス・ノー・ディレクションだから」
「それ何も出来ないってことじゃ……」
文春君と会話出来てる! それに私を心配してくれている! 嬉しいわ! 今日は文春君との初トーク記念日ね!
「それにしても部活の件だけど、いきなり入部ってのも……他にいろいろと部活もあるし、よかったら今日の放課後に取材で校内を回るから一緒に見学してみる? できればメモとか手伝ってくれると嬉しいんだよね。今日、僕一人しか活動できる人いなくてさ」
「ぜんぜん行くよ!」
早くも二人きりの時間! 運命だわ! ドュフフフっ。
「……あー、フミ。お前さ、このこと有紀には黙っといたほういいかもだぞ」
「え? なんで?」
「いや、その、な。あー、なんでもねえや」
「流星ってたまによくわかんないこと言うよね? 今日はとくに多いけど」
「心配してんだよ」
「ほーん」
何やら二人でコソコソと話しているわね。あんなに顔を近づけて、あのパツ金なんて羨ましいことを。そこを譲ってほしいものね。
「それじゃあ清水さん。放課後はよろしくね」
「うん! よろしく!」
文春君の微笑みに立ち眩みしそうだわ。
それに今日の放課後は取材で校内のあちこちを回るのよね。そこでも彼と仲良くなるために、この学校のことをよく知っておかないとね。女性関係とか他にないか。
「……有紀。これは厄介なことになりそうだぞ」
後ろで独り言を呟くパツ金をよそに、私は隣の顔面つよつよ天使様の周りの空気を静かに吸引した。
放課後が待ち遠しいわね。この匂い、ちょっと高めの柔軟剤かしら。フローラル!




