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青春の嵐は美少女転校生とともに①

 土曜日の13時頃。

 僕は昨日約束していた集合場所へ一足先に着いていたが、とくにやることもないので有紀が来るまでスマホにダウンロードしたお気に入りの漫画を読み漁っていた。

 漫画を読み進めてすぐのことだった。先ほど有紀から「少し遅れるからてきとーに時間潰してて!」と連絡が入り、この待ち時間をどう過ごすか考えにふけっていた。

 

「……漫画は家でも読めるしなあ。久々に休日外へ出てきたし、ちょっと周りでも散策してみようかな?」

 

 そう思ってあたりを散策し始めた僕は、駅の大通りでアクセサリーのイベントショップが開かれているのを見つけ、暇つぶしがてらに立ち寄ってみた。

 

 アクセサリーなんてあんまり興味ないけど、暇つぶしに見る分にはちょうどいいよね。

 

 テーブルに並べられたアクセサリーは、ハンドメイド雑貨ということでそれぞれ個性のあるデザインのものが多く、動物や食べ物をモチーフにした定番ともいえるかわいらしいものから、惑星や花をイメージして作られた色鮮やかなものまで多種多彩なラインナップだった。

 ぼーっとアクセサリーを見ていると、店員さんと思しき女性が声をかけてきた。

 

「なにか気になるものはありましたか?」

 

「え? あー、そうですね……このリボンのやつとかいいかなって」

 

 突然声をかけられて焦った僕は、ちょうど目についた黄色いリボンに丸い雫のような装飾のついたものを手に取ってしまった。

 

 まさか店員さんに声かけられると思ってなくてとっさに取っちゃったよ!

 

「あ! ふふっ。それは私の娘が作ったもので、リボンに付いている丸いチャームの装飾は、レジン液の中にドライフラワーの小さな花びらを入れたものを雫の形に整えたものなんですよ!」

 

「へー……綺麗な装飾ですね」

 

「そうですよねそうですよね! きーっとお客様にもお似合いになりますよっ」

 

「え、いや、それは……」

 

 外出あるある。僕はこの中性的な見た目のせいで、よく行く先々のお店で女子と間違われるため、いつも店員さんにも女性ものを勧められるんだよね。ここは普通の男子なら「彼女さんにどうですか?」とかって聞かれるのに、僕の場合は自分に似合うんじゃないかと言われるから哀しくなるよ。

 

 最初のうちは否定することも多かったけど、いつしか面倒になって諦めた。とくに男性ものを購入する時なんかは「彼氏さんへのプレゼントですか?」なんて言われて、自分用だからと全力で否定しても照れ隠しとかでも思われているのか、信じてくれないことがほとんどなのでそのうちリアクションをとるのをやめた。これが僕の背負いし(カルマ)か。

 

「よかったら、お買い求めになりませんか?」


「え! えーっと……そうですねぇ」


「私そのアクセサリー、娘が作った中で一番のお気に入りなんですよっ。きっとお客様のような子に受け取ってもらえるのが、娘もいっっっちばん! 喜ぶと思うんですよねっ!」


「そっ、そうですかね……」

 

 自分の娘さんが作ったお気に入りの品を手に取ってくれた客を逃がしたくないのか、ぐいぐいと迫る女性の圧を前に断れない自分がいる。

 

 うーん、どうしようかな。リボンのアクセサリーなんて買っても男の僕には持て余すし……姉ちゃんもこういうのは趣味じゃないって言って使わないだろうし……断るにもこの店員さん圧がすごくて断りづらい!

 他にプレゼントできるような関係の女子の知り合いも僕には――――って、有紀がいるじゃないか! 色も黄色で、有紀のイメージにピッタリじゃないか!

 

「は、はい! 買います! 友達へのプレゼントで!」

 

「ふふっ。照れなくていいんですよ? ご購入ありがとうございますっ。今、()()()()()()ということにして包装の準備しますね!」


「いや、ホントにプレゼント用なんで」

 

 僕の言葉によっぽど嬉しかったのか、店員さんはややスキップ気味でバックヤードに向かっていった。僕が自分用に購入するのをためらって、照れ隠しに友達へのプレゼント用にしてると思ってる点は解せないけど。

 

「ふーっ。ちょうど有紀と一緒に出掛ける予定だったし、たまにはこういうプレゼントくらいしてもいいよね?」

 

 有紀には部活帰りに飲み物をおごりおごられたりすることがよくあるし、たまにはこういう女の子らしいプレゼントをしてみるのも友達としていいと思うよね。

 

「お待たせしましたー! こちら商品になりますっ。お会計はあちらのレジでお願いしますっ」

 

「あ、はい。ありがとございます!」

 

「こちらこそ、ありがとうございますっ」

 

 店員さんが綺麗にラッピング包装された袋を僕に渡してきた。僕はそれを受け取って、軽く会釈すると小走りで少し離れたレジへと向かった。


「ん? うおっ!? 2,800円だと!? 僕の今月のお小遣い4分の1逝ったぞ!?」

 

 レジへ並ぶ前に値段を確認したら思いのほか高くてびっくりしたけど「ま、まあ。たまにだからいいか」と、せっかくラッピングまでしてもらって、買うことも決めたんだからいいかと納得することにした。有紀も喜んでくれるといいな。

 

 お会計を済ませたタイミングでちょうど有紀から「遅れてゴメン! 駅に着いたよ!」と連絡が入ったので、僕は急いで集合場所へと走る。

 週末午後の駅中はたくさんの人で賑わっていて、喧騒の中を僕はまるで海中の魚群をかき分けるなだらかな水流のように走り抜けていった。

 

「有紀! お待たせ!」

 

 駅の入口付近でスマホを(いじ)りながら待っている有紀に声をかけると、彼女は顔を上げて僕を見る。

 

「あれ? 文春の方が先に来ていたと思ったんだけど。てかその袋どうしたの? 何か買ってきたの?」


「ん。ちょっとね」


「また漫画とか小説でしょ? ……でも、そのわりには丁寧にラッピングされてるわね」

 

 有紀は頭に疑問符を浮かべて、まじまじと僕が持つ袋に注目している。

 

 それにしても有紀の私服姿なんて久しぶりだな。最近はお互いに学生服かジャージ姿で会うことが多かったから、なんだか変に緊張感を覚えてしまう。

 昔は僕と一緒でスポーティな動きやすいタイプの服しか着ていないイメージだったけど、今日は女の子って感じの格好で薄緑の半そでブラウスに合わせて、珍しく白のロングスカートを穿いていた。いつもショートパンツが多い印象だったせいか、そんな装いにすごく新鮮味を感じる。


「気になる?」


「気になるっちゃ気になるわね」


「ふっふっふ! さっき向こうの方で買ったんだけどさ」


「なになに?」

 

「はい! これ有紀にプレゼント!」

 

「え? あたしに?!」

 

 驚いた表情を見せる有紀は、僕から渡された袋を手に取ると「ここで開けてもいい!?」と返してきたので「いいよ!」と袋を開けるよう促した。そして彼女が袋を開ける光景を僕は不安げに見守る。

 アクセサリーなんて今までプレゼントしたことないから、喜んでくれるかちょっと心配だな。

 

「――! 黄色のリボンだ! 雫のチャームも綺麗! ……うれしいっ」

 

 いつもは少年みたいに勝ち気で溢れた表情をする彼女がポニーテールを弾ませて、今日はとても女の子らしい柔らかな笑みを(こぼ)す。

 昔からずっと当たり前のように一緒にいるのに、なぜか僕はその表情に少し胸を締め付けられるような感覚を覚えた。

 

「向こうでアクセサリーショップやっててさ。ちょうど手に取ったリボンのアクセサリーが有紀に似合うかなと思って……たまにはこういうのプレゼントしてみようかなって買ったんだ」


「文春、ありがとう! あたし今人生で一番嬉しいよ!」


「それは大げさだって」


「ううん! 大げさじゃない……」


 有紀のはにかんだ笑みを前に胸の内がくすぐったくなる。

 彼女の喜んだ顔を見れたんだから、お小遣い4分の1を使った甲斐があったよね。

 

「……ねえ? 今、このリボンで髪を結びなおしてみてもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

 有紀はそう言ってポニーテールをほどくと僕が買った黄色のリボンで髪を結びなおし、花開いた笑顔で僕の顔を見上げる。

 静かに揺れるポニーテールには、有紀の活気なイメージに合った黄色のリボンがよく映えて、鮮やかな花びらに彩られた雫のチャームが彼女の嬉しさを代弁するみたいに飛沫(しぶき)を上げるように(りん)と輝いて見えた。

 

「文春っ、ほんっとうにありがとうっ! ね? どう? あたしに似合ってるかな?」

 

「似合ってるよ! かわいい!」

 

「なっ!?」

 

 僕は心から思った素直な感想を述べると、有紀は顔を真っ赤にして。

 

「あんた何言ってんの!?」

 

「何って……有紀が普通にかわいく見えたから、かわいいって言ったんだけど」

 

「不意にそういうこと言わないでよ! そういうのはもっとこう! ロマンチックな雰囲気の時とかにさ!」


「『かわいい』って言うのにロマンチックいらんくない?」


「あんたの場合は必要なの!」


「えー。なんでよ?」


「なんでもなの!」

 

 女子に「かわいい」って言うのにいちいちロマンチックはいならなくないか? だって女子ってみんな何でもかんでも「かわいい」って言うでしょ? ※文春くんの偏見です。

 今日の有紀はいつもと違って普通の女の子っぽい反応ばかりするなあ。

 

「ったく。時々、文春ってさ――無自覚に期待させるようなことするよね?」

 

 有紀が何か小さく呟いたが、周囲の雑音が大きいせいかよく聞き取れなった。

 

「ん? 今なんか言った?」

 

「なんでもないですよーっだ」

 

 彼女が「べーっ」と舌を出す。

 何か機嫌を損ねるようなことでも言っちゃったのかな。

 

 ふと僕は先ほど新鮮に感じた、いつもと雰囲気の違う格好をしている有紀に足先から頭の先まで視線をくぐらせた。

 

「な、なに?」

 

「なんか今日の有紀いつもと違うなって思って。スカートも動くのにジャマって言って選ばないのに」

 

「……っ! 高校に入ったら新しいジャンルの服着てみたいって言ったでしょ!」


「え。じゃあ今着てるのが()()なんだよね? だとしたら、今日僕が一緒に服見に行く必要なくない?」


「もっと違うジャンルも見てみたいの! わかったら服見に行くよ! ほら!」


「は~い」

 

 そう言うと、有紀はさっさとアパレル系のお店が立ち並ぶ駅上階に向かって歩き出した。

 女の子の考えることはよく分からないな。

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