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13/30

漫研部にはご注意を③

 僕と清水さんは、アンケート用紙を渡しにテニス部へと向かっていた。ここでは取材はしないので良い用事もすぐに終わる。漫研部の後がここで良かった。

 今日はもう早く帰って枕を涙で濡らしたい。


「なかなか楽しいところだったよね!」

 

「そうかな。僕はすごく疲れたよ。しばらくは漫研部に行かなくてもいいかな。というか近寄りたくない」

 

「私はまた来たいな!」


(だって例の本を手に入れていないんだもの。いくらでもお金は出すから紙媒体の実物が欲しい。軍資金は問題ないわ)


「次からは僕と一緒じゃなくても大丈夫そうだよね? 堂島先輩と仲良くなってたし」


「えー、でも文春君と一緒だともっと楽しいよ? 一緒に行かない?」


「行かないよ!? 僕が行ったらあの人たちに餌を与えるようなもんだよ!」


「いいじゃーん」


「いぐない!!」


 僕と正反対にはしゃぐ清水さんを見て肩を落とす。

 

「そうだ! 私ってまだ文春君と連絡先の交換していなかったよね?」

 

 スマホをカバンから取り出すとQRコードが表示された画面を差し出してきた。

 

LEIN(レイン)! やってるよね? 交換しよ!」

 

「うん、いいよ」

 

「ありがと! これからもいっぱいお話しできるね!」

 

「あははっ、お手柔らかに頼むね?」


「ホシハルの話しする?」


「それはNGで!」

 

 連絡先を交換したあと、僕たちは今日最後の目的地であるテニス部の元へと向かった。テニス部の用事は漫研部と違ってスムーズに進行することができた。やっぱり普通の人が一番だな。


 でもテニス部部長の人が僕の顔を見るなり「わっ、わたしあの本のファンで……サインください!」と赤面しながら言ってきた時は、こんな見ず知らずの先輩にまで渡ってるのかよ、と生きた心地がしなかったけど。

 

 取材を終えた後、僕たちはそれぞれ別れを告げて家路についた。

 

 僕は家に帰るとすぐに自室へと引きこもった。学校の取材で精神的にも肉体的にも疲れてしまったので、今日はもう何もしたくない。

 ベッドへ横になり、スマホをいじっていると、ふと清水さんからメッセージが届いていることに気づいた。

 

『今日は取材に付き合ってくれてありがと! 明日もよろしくね!』

 

『こちらこそ、今日はありがとう。また明日ね』

 

 僕はそう返信してスマホを枕元に置いた。そしてそのまま目を瞑る。

 仮眠を少しとってからご飯とお風呂にしよう。

 

 明日からも忙しい一日になりそうだ。

 いつもと違った非日常的な一日から解放された僕は、しばしの眠りへとついた。

 

  ◇   ◇   ◇


 ――その一方で、文春の今日一日の疲労の原因となった本人はというと、帰宅して早々ベッドに顔をうずめて悶々としたように体をくねらせていた。

 

「さいっっっっっこ――――の一日だったわ! こんなに充実した学校生活を送ったことはかつてないわね!」

 

 文春君ったらところどころで私をエスコートしてくれるんだもの! 扉を開ける時だってまず最初に私を通してくれるし! 紳士だわ! イケメンだわ! 男の娘だわ!

 

「ふふふっ、文春君。これだけ今日一日でも積極的にアプローチをしたんだもの。きっと少なからず私があなたに対して好意を寄せていることに気付いたはずだわ! ラブコメの鈍感主人公じゃなければ! 待ってなさい。きっと私があなたを攻略してみせるから」

 

 愉悦な笑みに「ふふふふふふ」と込み上げる衝動を抑える(かたわ)らで、ふと六花は我に返ったように今朝の有紀のことを思い出す。

 

 私ほどではないにしてもあれだけ可愛い幼馴染がいて、しかもデートした上にアクセサリーなんてプレゼントするような仲にも関わらず付き合っていないなんてね。

 まあ、天野さんの方は十中八九で文春君に片思いしているのは明らかでしょうけど。彼自身は、彼女のことをただの女友達としてしか認識していないのかしら?

 

「文春君の()()()気になるわね」

 

 どちらにしても天野さんはあまり積極的にアプローチをしている節は見られなかったから、私にとっての脅威にはなり得ないでしょうけど。でも幼馴染というステータス自体は、漫画やアニメでは大きなアドバンテージとなるもの。決して油断は出来ないわ。

 

「スーハ――スーハ――」

 

 六花は文春と有紀の関係性に疑念を抱きつつ、今日一日文春の近くにいたことによって、制服にわずかについた彼の残り香を鼻にくぐらせているのであった。

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