思惑入り乱れる遊園地取材(デート?)①
今日は久々によく晴れた天気だ。最近はずっと雨が続いていたから、青空に輝く太陽の陽差しが新鮮に感じる。
清水さんが転校してきて二週間が経過していた。
あの後数日間、僕と清水さんは他の部活の取材を回り、最終的に清水さんは正式にメディア部へと入部することになった。
彼女は誰に対しても人当たりがよく、メディア部の他の一年生部員ともすぐに打ち解けていた。
美少女転校生のコミュニケーション能力の高さには驚かされる。ひょっとしたら、有紀よりも人と打ち解けるのが早いんじゃないかな。
ちなみに彼女からのアプローチは転校初日から相変わらず続いており、僕はそれを日々のらりくらりとかわしているつもりだ。
有紀も最近はよく僕と清水さんが一緒にいると、どこからともなく間に入ってくるようになった。二人とも表面上は仲良さげに見えるのだけど、時折不穏な空気が流れることもあるのでちょっと心配になることがある。
「おはよう、文春」
「あ、おはよう。有紀」
教室へ入り席に着くと有紀が話しかけてきた。
「……清水さんとは最近どうなの?」
「どうなのって。今日も放課後は部室で一緒に取材した内容を記事にまとめるけど」
「そうじゃなくて――」
と言いかけたところで、有紀は何か思いとどまったような表情で。
「いや、とくになにもないならいいや。文春ってそういうやつだもんね」
「なんだよ、そういうやつって」
「なんでもない。気にしないで」
「そう言われると気になるんだけど」
「気にしなくていいから! ったく、あたしの気も知らないで……」
有紀はそう言うと、自分の席へと戻っていった。
彼女が何を言おうとしたのかはよくわからないけど……そんなことを気にする前に、僕は僕でやらなきゃいけないことがある。
「……よし、こんな感じかな?」
掲載する記事のフレームはあらかたできたし、あとはどこに取材内容をバランスよく配置していくかだな。このあたりの作業は時間かかるし、放課後に部室でやっていこう。
「……はあ。みんな、おはよう。朝から陽差しが眩しくて先生は鬱です」
外の晴れやかな天気とは対照的に、曇天な陰気に包まれた姫川先生が教室に入り朝のHRが始まる。
それからの時間はあっという間だった。
今日は心なしか、いつもより授業が進んでいくのを早く感じる。
気付けば昼休みの時間となり、清水さんはいつものように事あるごとに僕へ話しかけ、それに有紀が入ってきて、今度は流星が後ろからからかってくる。
何気ないありふれた日常の風景が過ぎてゆく。
放課後になると、僕たちはそれぞれの部活へと足を運んだ。
部室に入ると、すでに清水さんと瑠璃川さんが待っていた。どうやら僕の方が一足遅かったみたいだ。
「ごめん、ちょっと遅くなった」
「大丈夫だよー! 私もさっき来たところだから!」
「私も今着いたばかりですっ」
そんな会話を交わしつつ、僕達はそれぞれの作業に取りかかる。
各々、作業が一段落ついたところで部室の扉が開いた。
「おっつー。みんな調子はどうよ?」
入ってきたのはメディア部二年の副部長、横島希紗先輩だ。僕を漫研に売った張本人だ。
「あ、先輩。いたんですね」
「最近、蒼君は冷たいなー。まだ私が漫研で蒼君のBL同人誌作ったこと怒ってんの?」
「怒るに決まってるでしょう!」
横島先輩は「まあまあ。これでも食べて落ち着けって」と言いながら、駅前のちょっと高めのシュークリームを僕たちに配った。
まあ? 僕がこんな高いシュークリームで先輩の行いを許すわけなんてないけど? 今回は部室の空気を悪くするといけないから、甘んじて受け入れるとしようかな?
「――で、今日はみんなどんくらい進んだ?」
「私はもう少しかかりそうですっ」
「お? いつも作業の早い瑠璃川ちゃんが遅れてるなんて珍しいね?」
「ちょっと取材の交渉に時間がかかってしまいしてっ。来週中には提出間に合うと思いますっ」
「おっけー。まっ、瑠璃川ちゃんのやつはそんな急ぎじゃないから、焦らなくて大丈夫だからね~」
「ありがとうございますっ」
「先輩、僕はもうすぐ終わるところです」
「おっけ。ついでに蒼は漫研からのアンケ提出を催促しといてね」
「えぇ」
「露骨に嫌そうだね」
こればっかりは態度に出てしまうのも無理はない。催促ってつまり……漫研部に直接行かないといけないわけでしょ? 絶対に嫌だ!
「じゃあ、この中では私が一番だね!」
清水さんがそう言い、前日に僕と瑠璃川さんと三人で取材した内容をまとめたノートを横島先輩に渡す。
先輩は「ほうほう」と呟きながら、それに目を通して。
「いやー、でもあんたらこの短期間でよくここまでまとめたよね。これ掲示までまだ一週間あるでしょ?」
「そうですねっ。この高校の全部活インタビューなんて、最初はそんなに長くならないかなって思ってたんですけど。意外とやることがいっぱいありましたし」
横島先輩の言葉に瑠璃川さんが答える。
「いろんな部活の取材したり、そのメモまとめたり、インタビュー内容考えたりでやること多かったよね!」
「はいっ。ですが、清水さんが入部したおかげで作業も進んで、なんとか無事に終わったのでよかったです!」
「えへへっ! どいたま~」
確かにここ二週間は濃密だったと思う。僕自身は別の意味でってこともあるけど。
「まあでも、これであとは出来上がった文章と写真とかを配置していくだけだし、みんな引き続き頑張ってね!」
横島先輩がそう言うと、それにつられて他のみんなも「はーい」と声を重ねて返事をした。
「あ、ところで先輩。真宵君の方はどうです?」
もう一人の部員である、真宵寛太君は僕たちと同じ一年生の男子だ。
たしか彼は病み上がりの後復帰して、今は欠員が出てる放送周りの担当をしていたはず。最近見かけないからちょっと気になってたんだよね。
「真宵君は私と一緒に放送の方をやってくれているよ。あっちはあっちで夏休み明けに控えてる学校行事の打ち合わせとかも兼ねてるから、今は手が空いてないみたいね」
「みたいねって、他人事ですよね」
「うん。全部押し付けてきたから」
「先輩はいつも何をしてるんですか?」
「おいおい。乙女にそんなこと訊くなんてセクハラだぞ?」
「ホント何してんの?」
こういう人が将来会社で部下に仕事を押し付けるパワハラ上司になるのだと思う。
「そうそう! そんなことよりみんなに今週末行ってきてほしい取材があってさ!」
「なんですか? 週末ってことは土日ですよね? うちの部活って土日は休みじゃ……」
「休日出勤ってことで!」
横島先輩は鞄からチケットを三枚取り出し、僕たちの前に突き出して見せた。そのチケットは僕もよく知っているものだった。
「これ、羊山メリーランドのチケット! 夏休み前に地元の遊園地の紹介記事を書いたらどうかって、先生に渡されたんだよ! 私と一緒に行く予定だった友達が急に予定入ったみたいでさ……よかったら代わりに行ってきて! てか行け!」
横島先輩から強引に渡されたのは、地元民なら誰もが知る遊園地のチケットだった。てかもう強制参加じゃないか。
「メリーランド? 遊園地?」
「そういえば清水ちゃんはこっちに転校してきたばかりで行ったことないんだっけ? ちょうどいいから、蒼君と瑠璃川ちゃんの三人で一緒に行ってきなよ! もちろん蒼君は強制ね」
「なんで僕だけ強制なんですか……」
「だって、蒼君はどうせ暇でしょ? だから一緒に行ってあげて!」
「余計なお世話ですよ! 僕だって予定くらい…………ありますけど?」
「なんで疑問形なの? 無いんだから行ってきて」
「は、はい」
半ば強引に行くことになったけど、肝心の二人はどうだろう。
「私も今週末は家の手伝いがないので大丈夫ですよっ」
「私も行きたい! 遊園地なんてしばらく行ってないし、すっごく楽しみ!」
「そんな大きい遊園地ではないよ?」
二人とも行く気マンマンですね。
「じゃあ、週末は三人で楽しんできてよ!」
「楽しむっていっても取材でしょう?」
「そんな真面目に考えなくていいって! 取材なんて二の次で普通に遊園地を楽しんできなさい」
そう言い残し、横島先輩は意気揚々と部室を出て行った。
まったく勝手な先輩だな。ぶっちゃけ行くのが面倒だから、僕たちに押し付けただけなのでは?
横島先輩が出て行くと今度は瑠璃川さんが口を開いた。
「それでは週末、日曜日がいいですかね? 駅前に集合して地下鉄から向かいましょうか?」
「そうだね。その方が清水さんにとってもよさそうだし。清水さんもそれで問題ない?」
「問題ないよ! じゃあ駅前についたら連絡するね!」
「うん。ステグラ前にみんなで集合だね」
「わかりましたっ」
「おっけー!」
僕たちは週末に遊園地へ取材、もとい遊びに行く約束をした。
最近はイベント続きでゆっくり休めないことが多いなぁ。………………はあ。
心の中で深くため息をつく僕と対称に、二人は楽しそうに遊園地の話に花を咲かせていた。
◇ ◇ ◇
――文春たちが再び作業に戻ると、部室の前をたまたま通りかかっていた有紀は、扉の窓ガラス越しにわなわなと口を震わせていた。
有紀は遊園地のくだりから、部室の中で交わされていた会話を盗み聞きしていたのだ。
「これはゆゆしき事態ね。まさか、文春と清水さんが遊園地デートに行くなんて……あたしはどうすれば」
有紀はジャージのポケットからスマホを取り出すと、一目散に流星へと週末の予定について連絡をしていた。
「これ以上、あの女に好き勝手されないように監視しなきゃ!」
そんな有紀が盗み聞きしているとはつゆ知らず、六花は週末の予定に喜びを隠せないでいた。
(キタ――――――――ッ! このチャンス逃さまいて!)
ここ二週間ほどメディア部の面々と一緒の時間を過ごしてきたが、自分以外の女性が文春に好意を寄せいているような素振りはとくに見られなかった。
そして六花は考える。これすなわち明日の遊園地取材に瑠璃川翠が一緒に同行しようとも、彼女は文春を異性として意識していないので実質自分と文春のデートになるんじゃないかと…………。
男性経験皆無の六花は、とりあえずスマホでデートの必勝法をググっているのであった。
(『遊園地 デート 処女 卒業方法』っと。ぐっふっふっふ、ここで王手をかけるのよ清水六花。事前準備は入念にしないとだわ)
そして、水面下でそんなやり取りが行われていると知らない文春と翠は、週末の取材の段取りを考えつつ目の前の作業に集中するのであった。




