第97話:手にせよ獄焔剣
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目を覚ました俺は、頭の柔らかな感触に随分と気持ち良さを感じてしまうが、実はこれがランスでした~とかネタに走りそうになる。
それで頭を動かすと……
「んっ!」
艶かしい声が響いた。
「ミスティッ!?」
ガバッ! と頭を上げてみると、思っていた通りで背後を振り返ったら座るミスティの姿が其処に在る。
「わ、わりぃっ!」
「うん、別に良いよ。膝枕をしたのは私の意志なんだしね」
真っ赤な顔で言うミスティ。
暑いからふと周りをみてみれば、其処は間違いなくアルヴァン大火山のダンジョン内であった。
「ファ、ファイヤーオークはどうなったんだ?」
「大丈夫だよ~。ケインのくりから? だったっけかな? アレで胸部が吹き飛んだからね~」
「ス、スピア……」
すぐにミスティに訊いてみたが、何故だかスピアの方が嬉しそうに万歳をしながら答えてくる。
だけど俺は彼方側で美衣奈から聴いた衝撃的な事実に、ソッと腕組み足組みをしながら壁面へと背を預けて瞑目をするランスの方を視た。
『はぁ、仕方が無いか。それならよく聴いてね、スピアーリア・マズルスの前世はアスィルート・マズルス……詰まりはアスなんだよ!』
アスィルート・マズルスはランスとスピアからしなたら先祖、そして二人の前世でもあるんだとか云う。
美衣奈が曰く、アスィルートは本来だとランスとしてのみ転生をする筈だったらしい、だけれど今代のランスィードに転生をする際にお腹の中の子は、双子だった事もあって魂魄が二つに分かたれてしまい、男であるランスと女の子であるスピア、二人として産まれてしまったとか。
だからこそ、アスィルートの転生体がランスとスピアという事態へと陥ってしまったらしい。
半分とはいえ、スピアの前世がまさかの男だったというのには驚いたけど、現在は可愛らしいけど勇ましい女の子なのだし問題は無かろう。
因みに、これは星神テリアルから聴いた事であるらしい。
未だに出逢った事すら無いけど、テリアル様は見た目にランドセルが似合う幼女張りの容姿をしており、二柱の姉――長女の星神ガイナスティアと次女の星神アースティアルとは随分と違うと言っていた。
ガイナスティア様は所謂、ボッキュッボンという正しく女性としての魅力を余す事無く詰め込んだ姿で、アースティアル様はスレンダー美人という感じなのだとか。
それ故にか、テリアル様は自身の容姿にちょっとコンプレックスを懐いており、せめて星神としての仕事には敗けたくないと息巻いていた。
にも拘らず、俺の覚醒が遅れに遅れて結果的に一番最後。
それ処か星騎士の基本は五源将だというのに、他の三人まで番外的に星騎士として目覚めた。
現段階で俺が最後、しかも未覚醒なのだから堪らない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ミスティ、そしてランスとスピアを仲間として無事に斃せたらしく、俺達は遂に抜け道を進む。
「此処が隠し通路なんだな」
「うん、必要だからね」
頷くミスティ。
「ケイン、体力は戻ったか?」
「応。どうやら、Fオークを斃して一晩寝ていたんだろ? 体力も天力も確りと戻っているみたいでさ!」
「そいつぁ、良かったぜ」
安堵をしたのか、ランスが笑顔でホッと胸を撫で下ろす。
口は余り宜しくないランスだが、仲間思いだし心配してくれた様だ。
「ね~、ケイン」
「どうした?」
「ケインってさ、武器が新しくなるんだよね? ボクも新しい武器が欲しい。出来たら頂戴よ♪」
「魔銀も完成しつつあるしな。魔銀製の手甲を造ろうと考えてる」
「ホント? やったね!」
跳び上がるスピア、それなりに育った胸部装甲が揺れ、俺の目を見事に愉しませてくれている。
うん、見応えは有るよな。
「ケ~イ~ン~?」
「おうっふ!」
スピアの魅惑的な胸部装甲に見惚れてしまい、目敏く見咎めたミスティに睨まれてしまった。
ハイエルフの血筋だからだろう、ミスティの胸部装甲は無い訳じゃないんだけど程度の細やかさであり、その為にか璃亜の“ソレ”に対してはちょ~っとコンプレックスらしい。
まぁ、彼方側の美衣奈も胸部装甲は薄いけど。
血筋的にはハイエルフのDNAは混じっているにしても、聴く限りでは万単位に遠い筈なのに同じ様に成るものなのか? とも思えてしまう。
「魔物は出ないのか?」
「此処は魔素が薄いからね」
「魔素……が?」
俺は首を傾げた。
「知っての通り、魔物というのは魔素が凝り固まって魔核が形作られて生まれた存在。魔素が薄ければ当然ながら魔物も生まれないんだよ」
「ああ、成程……」
天零樹の周囲も魔素が薄かったから強い魔物は確かに出なかったな、魔物自体は顕れていたのだけれど。
だけれどそれは、魔素の濃い場所で生まれたのが居ただけであって、此処は大きくて重い岩の扉で塞がれていたからこそ居ないだけなのか?
俺達は魔物は出ない、只単に暑いだけの道を進んで行き、下へ下へとどんどんと降りていった。
「ケイン、この先に行けば獄焔剣が有る筈だよ。其処へはケインだけで行ってくれないかな?」
「わ、判った」
ミスティに言われた通りに、俺は一人で獄炎剣の在るであろう場所にまで降りる事にした。
滅茶苦茶に暑い、既に冷却マントの熱気遮断を通り抜けて最早、暑いというよりも肌を焼く熱さだよな。
獄焔剣という名前の通りで、剣の力が周囲に凄まじいまでの影響を与えているのかも知れない。
「くっ、汗が凄いな。火傷しながら熱中症にでも罹ってしまい兼ねないぞ? 本当に参ったよな」
一人で行けってのはこういう事だったんだな、確かにこの暑さはランスやスピアは兎も角としてミスティにはキツい、それに獄焔剣は俺の剣なんだからミスティを一人だけ残すのも違うだろう。
「ヤバい熱さだろ、これ!」
下手をすると燦々と太陽が耀く真っ昼間の砂漠のど真ん中の熱気より暑い、死んでしまうんじゃないのか? なんて思えるくらいだよな。
暫く水を飲みながら歩いていると新たな岩の扉が見付かる。
「この先か……」
扉に手を置くと、ゴゴゴゴゴッと鈍い轟音を鳴り響かせて開いた。
「あれが獄焔剣レヴィアートか」
紅の刃を持ち、中央には茜色をした宝玉が填め込まれており、まるで太陽が凝縮されているかの様だ。
俺がソッと右手を差し出すと……
「うっ!? 熱っ!」
その熱気だけで右人差し指と中指を火傷した。
「聖霊剣だと、特に何にも無かったんだけどな。否、七王剣の基礎となる剣だからこそ何も起きず、すんなりと手に入ったのかも知れないな」
固唾を呑んだ俺は覚悟を決め右手を突っ込む。
「がっっ! 嗚呼あああっ!」
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ!?
近付くだけ近付いたら、その熱気を受けて焼かれてしまう俺の手。
爛れていく俺の皮膚だが、この後に治療魔法で治せば良いんだしな。
「熱くて痛い、それでもっ!」
一応、氣力を用いての障壁を張っているけど、それでもこれだけの熱気に焼かれてしまうのか。
長々と焼かれていたら、いい加減で皮膚は於ろか肉や骨まで焼き尽くされそうだし、さっさと獄焔剣を抜いてしまうに限るんだろう……な!
力を籠めて引き抜くと、漸く岩から剣身が抜けてくれた。
すると光が放たれて獄焔剣が聖霊剣の中へと、鍔の部分に填まる宝玉へと吸い込まれてしまう。
これでゲームのRPGで云うなら、攻撃力が二〇から攻撃力が四〇にまで上がった感じなのだろうけれど、その特性も受け継がれている筈。
見た目は変わらず聖霊剣の侭で、これをどうしたら獄焔剣の力へ換えられるのかが判らないな。
「ミスティに聴きゃ良いか……ぐっ! 安心したら痛みが!」
すぐにもアイテムバッグからデアポーションを取り出すと、おれは焼け焦げた右腕へと掛けた。
すると、まるで時間が遡るかの如くで見る見る修復されていく。
「デアポーション、実際に使ってみると凄いもんだよな」
しかもコイツは、安いポーションを数本と魔核のみで造れるから、対費用効果は充分に過ぎる。
「さて、戻るか」
元の来た道を戻っていくと三人が待っていた。
はっきり云ってしまえば魔物も居なかったから単に歩くだけで、だから特に俺は闘うなんて事も無い侭、疲労感を感じながら上がるのみだ。
「お帰り、ケイン」
「戻ったか」
「獄焔剣は手に入った?」
ミスティが、ランスが、そしてスピアが笑顔を浮かべて出迎えてくれるのがとても嬉しくて……
「ただいま、獄焔剣は入手したさ」
俺はそんな三人に、手を振りながら応えるのであったのだと云う。
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