第96話:槍太と璃亜の真相
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「美衣奈、訊きたいんだが?」
「何かな?」
唐突な卦韻からの問いに対して、美衣奈は小首を傾げつつ問い返す。
その仕種の可愛らしさと容姿の美麗さに思わず固唾を呑むが、それをひた隠しにしながら自分が感じた疑問を素直に彼女へとぶつけてみた。
「思ったんだけどさ」
「うん」
「槍太と璃亜は彼方側ってか、前世の惑星テラルで生きていた頃。仲間だったランスとスピアの生まれ変わりって事で確定なんだよな?」
「そうだね、前にも話したとは思うんだけど?」
「一応の確認だよ」
火祭槍太と火祭璃亜はランスとスピアの転生体であり、見た目には全く違いが無い上に潜在能力的にも特に変わった所は無い。
彼方側でケイン・ユラナスとしての視点にて、アルヴァン大火山に於けるダンジョン内で明らかに熱さに強かったが、どうやらランスとスピアはそういう性質らしかった。
「前世の槍太と璃亜って、俺達の幼馴染みだったんだから普通に孤児だった筈だよな?」
「正確には大氾濫で私のお父さん、ケインの御両親、それからあの二人の御両親が亡くなってからだね」
「前にさ、槍太が紋章を描いていたんだけどな。それに付いて訊いてみたら、よく判らんと答えてきたんだが、貴族にでも成ったのか?」
「ん~?」
下唇へと右人差し指を添えながら思考に耽り、ニコリとちょっと目の笑わない笑みを浮かべる。
(怖っ!)
美衣奈は視るからに笑顔を魅せている筈なのに余りに怖い、いったい美衣奈の何をしてこれだけ苛立ちを露わにしているかが理解らない。
「余りケインには予備知識を持って欲しくは無いけれど、そうだね……ランスはとある国のお姫様とは恋仲に成ったから、国を取り戻した後に家を継いだのはスピアだったんだ」
「詰まり、ランスはそのお姫様の国に婿入りをしたって事か?」
「そうだよ。まぁ、砂だらけの国だったけどね」
「砂漠の国か」
炎や熱に強いランスなら快適な気候だろうが、少なくともケインからしたら暑くて遣っていられなそう、とても住みたいとは思えなかった。
「一応だけど言えば、そのお姫様もちゃんと転生をしているよ」
「え、マジに?」
「ケインも会ってるよ」
「あれ? ひょっとして一族の中に居る感じ?」
「そうだね」
それが誰かは聴かなかったけど、一族の中に居るのならまた会えるという事なのかも知れない。
「紋章って砂漠の国の?」
「違うよ、ランスとスピアの実家の紋章なんだ。そうでないとランスの魔力に合わないからね」
「紋章とランスの魔力?」
「ランスとスピアの魔力は炎の属性なんだよね、それを受け止めるのに最適化された紋章だからこそ攻撃にも使えるんだ。槍太は未だにその域に達していないから、今はまだ見た事が無いんだけど……いずれはね」
美衣奈が前世で確立した紋章法、特赦な魔法陣を描いて力と成す現在の魔法と似ている技法だ。
「特殊な紋章を魔法陣として構築をしたんだよ。正確にはこれを開発したのは、マーレイア王国中興の三代目国王テンルィー・セイル・マーレイア陛下の妻、メイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイア王妃殿下……だね。詰まり私の前々世だよ」
「それ、結局は美衣奈じゃん!?」
精神的な話には成るが、端から視ればメイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイアとミスティ・ヴィナーシュは別人であり、更にはこの二人と愛坂美衣奈もまた別人なのだから。
美衣奈は自分の机の棚の中から紙を取り出し、それをミニテーブルの上へと置いて見せてきた。
「これは?」
「マーレイア王国の紋章」
「これが……」
「この紋章も魔力やてん……氣力を使えば力を発揮するからね」
「へぇ?」
「けど流す魔力や氣力の調整が案外と難しくて、レベルが低い状態で使おうとすると一気に流し込んでしまうからね。多分だけどケインの天法って言うか、氣導術のアレみたいな感じなのかな?」
「倶利伽羅の事か?」
「うん、そう」
卦韻の倶利伽羅は体内の氣力を大量に放つ為、気合を入れ過ぎて放つとすぐに氣力不足に陥る。
問題となるのは、その気になれば時間さえ掛ければ幾らでも籠められる為にか、下手にレベルが低い侭では体内エネルギーの操作が拙いからだろう、本当に氣力を籠め過ぎてしまい戦闘不能に陥ってしまうのだ。
それは魔法陣の様で魔法陣では無い紋章法も同じ事で、予め魔法陣みたいに籠められる魔力が決められている訳では無い、古式魔法陣であるが故の欠陥を抱えている。
「古式魔法陣?」
「そう。紋章法は先も言った通り、メイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイア王妃が考案をした術式なんだけど、少なくともミスティの時代となるまでの数百年はテラル式の魔導言語による詠唱での術式構築。勿論だけど、魔法が創り出されてから千年は詠唱型だったんだ。抑々にして魔法陣型にしたのって、実はケインのアイデアだったんだよね」
「俺の!?」
魔法に関して卦韻は決して詳しい訳では無い筈なのだが、それでいったい何がどうなって魔法陣のアイデアを伝えたとかになるのか?
さっぱり理解らなかった。
「ま、いずれ……ね」
「そうなんだ。それがいつの事かは教えて貰えないのか?」
「時間的矛盾が起きちゃうからね、それはダ~メだ……よ♪」
ウインクしながら右人差し指をチッチッチと、美衣奈は横に二度三度と振りつつも嗜めてくる。
「それもそうか」
納得して卦韻も頷いた。
タイムパラドックスが危険なのは一般教養からも知っているし、自分が実は非常に危うい綱渡りな状態なのも理解をしなければならない。
だからこそ美衣奈から訊こうと、多くを知ろうとは思わないのだ。
ふと見遣ると、美衣奈が紅茶の御代わりをカップに注いでくれる。
というよりは、恐らく自分の序でに淹れてくれたのだろう。
「はい、御代わりね」
それはプレーンクッキー。
「御茶請けか」
美衣奈は御飯や御菓子を作るのが得意だけに、自作のクッキーを御茶請けとして出してくれた。
「ふむ……」
一枚を皿から摘まんで食べる。
さらっと舌の上で溶けて噛み味も柔らかく甘いそれは、卦韻の味の好みとは違っていても充分に美味しいと感じていて我知らず微笑んだ。
それを見て、美衣奈は優しそうな笑みを浮かべている。
「ケインは取り敢えずマーレイア王国の紋章だけは覚えとくと良いね、そうすれば紋章法も扱える様に成るから割りと便利なんだよ?」
「魔力で魔導紋の構成をするって訳じゃなくて、魔力を流し込むだけだから可能って訳なんだな」
「槍太は魔力で無理繰り形作るんだけど……ね」
「そういえば、槍太が紋章を知っているのか?」
「薄くなってる前世の記憶に在ったみたいだね、ちょっとだけどランスやスピアとしての記憶が有るみたいでね、だからか魂も少し昇華されているんだよ。とはいえ、スピアは兎も角としてランスは前々世の記憶も僅かに有るみたいだからねぇ」
その美衣奈の言葉に、卦韻は思わず目を見開いてしまう。
「どういう事だ?」
「ランスはテンルィー・セイル・マーレイア陛下やメイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイア王妃の仲間、アスィルート・マズルスの生まれ変わりだったみたいだからね」
「それって判るもんなのか?」
アスィルート・マズルスの名前を聴いた途端、卦韻の脳裏を過ったのは“一六個の天零晶”を集めた記憶、それは大邪神王の影とも云うべき存在と闘った時のモノでもあり、その天零晶は神剣クリスタリオンのバワーアップにも使われていた筈。
そんな古世代神器は存外とテラルの地上に存在しており、水晶の剣及び盾と鎧と兜もそれに当たる物だ。
「嘗て俺だったテンと、美衣奈だったメイ、ランスだったアス……か」
「アスの事も思い出した?」
「取り敢えず、ランスの前世の名前と天零晶の事くらいは」
「それは良かったよ、少しでも色々と思い出して欲しいから」
前世の夫に固執してはいないが、それでも前世のミスティとしてはケインの、前々世のメイフィリアとしてはテンルィーの事を、今生で思い出して欲しいと思うのは仕方が無事ではあるだろう。
「そういえば……」
「うん?」
「スピアも、前々世で仲間だったりしたのか?」
スピア……延いては火祭璃亜はランス延いては火祭槍太の双子の兄妹、ならば前世と同様に前々世でも関わりが深かったのでは無いのか?
卦韻はそう考えていた。
「ああ、スピア……ね。う~んと、スピア……スピアね~」
然しながら美衣奈は何故か明後日の方向を向いてしまい、すっごく言い難そうな重々しい口調でポリポリと右頬を掻いてチラチラ視てくる。
「何だ? 若しかすると四人目の仲間だった奴とかなのか?」
「ううん、シン――シンリーの生まれ変わりって訳じゃないんだ」
「ふむ、だとしたら?」
「聴きたい?」
「あ、ああ……」
妙に勿体振る美衣奈に不信感を覚えてしまう。
「はぁ、仕方が無いか。それならよく聴いてね、スピアーリア・マズルスの前世はアスィルート・マズルス……詰まりはアスなんだよ!」
なんだよ! がエコーしているみたいに聴こえてくる真相だった。
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