第89話:銀の騎士の天導法
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ある程度は身体能力を強化が出来ていた筈で、だからこそ後衛である美衣奈は兎も角として卦韻は可成り強くなっているが、ホブゴブリンイレギュラーを斃すのに能力的には足らない、従って未だに低過ぎる。
氣導法は内部エネルギーたる氣力を使う訳で、その氣力と精神力と生命力という総合的なモノ、そして想像力を創造力に換える知性とそれを想智が叶うに足るだけの相当の知力を、使う人間に求め必要とされた。
卦韻の唯一技能【錬成王】とて、だからこそ星神テリアルは刻もうと考えたのだから。
SRスキル【高速思考】が働く。
元々はNスキル【思考】そのものを持ってはいたが、ニューロンを繋ぐシナプスを強化するだけのスキルに過ぎなかったのを、何度も何度も使っていく内にCスキル【速読】と合わさる事により進化、SRスキル【高速思考】に変貌を遂げた。
数秒にて一時間分の思考が叶う。
元々、夢を鑑みれば判るけど思考自体はそれなりの速度を持っているが、【高速思考】は何十倍もの速度で考えを及ぼす事が出来た。
だからこそ、卦韻は今までも氣導法を創ってこれたのだから。
「思考だけは疾風迅雷の如き疾さに成ってるが、肉体の動きには全く反映が成されないからな」
肉体的に速度を反映させるには、更に高いレアリティのスキル――SSR【亜光速化】を以てしなければ成らず、卦韻は其処までには至っていない。
因みに似た様なスキルにSSR【疾風迅雷】というのも有るが、これは思考力の高速化が成される訳では無いから使い熟すのが非常に難しかったけど、スキルを持つ卦韻の父親たる楠葉慎吾は確り使い熟している。
(某か無いか?)
氣導法の創造は想像力。
神々の名前やその一般的な来歴が卦韻の力に成っていく。
とはいえ、既に帝釈天と健御雷神という身体能力を上げる系統は既に創り終えてしまっていた。
単純に肉体の強化が健御雷神で、帝釈天は強化外骨格の様なモノ。
だからこそ同時起動と両立が可能だったのだ。
万が一に二つの同系統たる氣導法を創ったとしても、例えば鋼鉄の鎧と白銀の鎧を一緒に纏えないのと同じ様に、同時発動は不可能だった。
(倶利伽羅を放っても、上手く当たらなかったら意味が無いな)
しかも消耗してしまうのだから、一撃を外したら二度目は無くなる。
一撃必殺は可能だが“倶利伽羅”の消費は激し過ぎるのだ。
それはそうだろう、韋駄天や健御雷神や韋駄天は飽く迄も肉体を氣力を駆け巡らせる技法の為、精神力や氣力や生命力の消費もガリガリ削られていくとはいえ、一気に喪われたりはしない。
倶利伽羅は体内の氣力や生命力を吐き出す為、殆んどの体内エネルギーが喪失してしまう。
それ故に使うのは現状だと一発だけが限界だ。
どうでも良いが卦韻の使う倶利伽羅というのは竜の吐息は、嘗て中興の祖たるアメイジア・セイル・マーレイアが闘った魔竜王が、彼と使っていた竜王の吐息と同じ理論によって成されている。
手から出すか口から吐くかの違いは有るけど。
「くっ!」
思考が加速された故にか、肉体的には揺ったりとした緩慢な動きではあるのだが、当然の事ながらホブゴブリンイレギュラーもゆるゆると動いている様にしか見えないし、何とか水中での動きみたいな状態で卦韻は躱していた。
腕を振り回すだけでもまるっきり暴風が荒れ狂うみたいで、紙一重で躱したのではその嵐の如く風圧によってバランスを崩してしまう。
この僅かな時間の狭間でも思考は続けている、云ってみればそれは同時思考というやつだ。
高速思考と同時思考、一応はこの二つは共存が可能ではあるが、コンピュータ的に二つのタスクを使えばメモリも消費する訳で、卦韻も高速思考をしつつ同時思考をしているから頭が破裂しそうなくらいキツい。
思考しつつ身体を動かすという、それ自体は不可能では無いだろう。
だけれど、今現在の卦韻が遣っている事とは右手で英語をしながら、左手で計算しているみたいなもの。
それでも卦韻はそれを遣る。
何しろ、本人が望んだとは云ってみてもこの闘いに美衣奈を巻き込んだ責任が有るのだから。
人事を尽くして尚も駄目だったなら仕方が無いかもだが、卦韻には未だ考える頭脳も有れば動かせる肉体だって有るのに諦めるなど、ホブゴブリンイレギュラーとの闘いを申し出てくれた美衣奈に対して、それは余りにも申し訳が無かった。
最低限、美衣奈に攻撃の手を伸ばさせない事を守りながら闘う。
「火球ッ!」
元来の火球とは異なる二連撃、ド頭と脛辺りへと同時に放たれた為にホブゴブリンイレギュラーはちょっとした火傷を負う、
精々、沸騰したヤカンに指を触れた程度の火傷だったけど。
「ケギャッ!」
「させるかよっ!」
揮われた拳を魔鋼の小盾によって防ぐものの、その威力は思っていた以上の破壊力だったからかボギッ! 鈍い音共に痛みを感じる。
「ぐぅっ!」
小盾の上から受けたのでなくば、きっと骨折処か粉砕をされていた。
(利き腕じゃ無いのが不幸中の幸いと思うか!)
帝釈天で鎧とは別に見えざる鎧、オーバーアーマーみたいな物を鎧っているから低ダメージで済んだが、Bランクは本当に別物レベルだ。
(倶利伽羅さえ当てられれば、イレギュラーとはいえホブゴブリンだ。吹っ飛ばして殺せそうな気もする)
ドラゴンでもあるまいし、幾ら何でも吹き飛ぶと思いたい。
「ケイン! 右に避けて!」
その声に従って右へ跳んだ。
「極冷竜巻ッ!」
足下から魔法陣が顕れて-二〇〇℃にも及ぶであろう冷気が竜巻いて放たれ、その竜巻く冷気を受けたホブゴブリンイレギュラーは凍結。
「ゴフッ!」
「美っ!」
「早く撃ちなさい!」
ピシリ……
凍結時間は極短い、既に凍結されていた部位に罅が入っている。
「死ね、倶利伽羅っ!」
両腕を上下に合わせて螺旋状の氣力が放たれ、ホブゴブリンイレギュラーのド頭が吹き飛んだ。
惑星テラルへと存在した竜人族、十大竜王族のみが扱う竜王吐息の如く破壊力を最大限にまで引き上げる氣導法、それが卦韻の倶利伽羅だ。
ド頭を無くしたホブゴブリンイレギュラーは、流石に即死したらしく力を喪い、仰向けに倒れてしまう。
卦韻は疲労に膝を付く、そして喀血をしてしまう美衣奈。
「み、美衣奈……大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
結局は【魔導妃】スキルを使わせてしまった、美衣奈の口元から流している赤い液体に胸が痛んでしまう、両親や愛坂家の小父さん達に任せれば良かったものを、我侭を通した結果が今の美衣奈の現状である。
「記憶が無いから仕方がないけど、ケインは未熟なんだもん。私も記憶は有るけど精神的には少女の侭なんだよ。御互い未熟者同士だよね」
美衣奈は口元の血をハンカチで拭いつつ笑顔を浮かべた。
「その、ごめん」
「謝らないで良いよ、ケインの思いは理解しているからさ。それにケインの為だったからね」
「美衣奈……」
美衣奈は下手をしたら前世処か前々世に引き摺られ、卦韻を通して前世のケイン・ユラナスか前々世のテンルィー・セイル・マーレイアを視ているのでは? とか邪推すらもしてしまった程。
だけど矢張りというか違う。
美衣奈は飽く迄もミスティでもメイフィリアでも無く、一人の愛坂美衣奈として他ならない楠葉卦韻の為に動いてくれていたのがよく判る。
美衣奈はゆっくりと立ち上がると、ゆるりと歩み寄ってきて魔力を集め魔導紋を構築していく。
そして魔法陣を形成した。
「治療」
魔力の光が治療魔法と成って卦韻の肉体に浸透していき、骨折をしていた部位を繋げてくれる。
「応急措置は良し、後はデアポーションで全快してくれる?」
「ああ、判った」
背中から降ろしたアイテムバッグの口を開き、その中からデアポーションの瓶を取り出して口に煽る。
折れた骨は治療魔法で確りと繋がっていたし、デアポーションで全身の痛みや傷も治療された。
「美衣奈も飲むと良い。値段的には大した物じゃないからな」
「うん、ありがと」
美衣奈は卦韻から渡されたデアポーションを飲んで傷を治した。
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