第88話:新たなイレギュラー
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鋼鉄の如く重厚な扉が第二五階層の先に存在、漆黒と白銀に彩られた両開きの扉には【15】というレリーフが掘られてる、レベルが一五を下回る人間は決して入れない様にされているのだとか。
星神テリアルが設置したらしい、それにダンジョンの仕組みは矢張り彼女が造ったものだとか。
ズゴゴゴゴッ! 重々しい地擦り音を鳴り響かせ開かれた金属の扉。
卦韻と美衣奈の二人がBOSS部屋へと入ると、通常のゴブリンに比べ巨体なホブゴブリンが……
「って、色が違う!?」
「ヤバッ!」
それは明らかにイレギュラーだと思われる。
「ケイン、今すぐにでもBOSS部屋から出るよ!」
「わ、判ったっ!」
扉が閉まってもいないからには部屋から脱出をする事も可能、泡を喰って二人は回れ右をすると駆け出してBOSS部屋から脱出をした。
第二階層の魔物が第一階層に上がれない様に、BOSS部屋からボスの魔物が部屋から出るという事は通常だと起こり得ない事象である。
そう、大氾濫が起きない限りは。
だからだろうか? イレギュラーなホブゴブリンは追い掛けて来るなんて事も無かったらしい。
「危なかった……」
「確かにな」
色違いのホブゴブリン、元々からのBOSSであったホブゴブリンがランク的にCとなっていたが、このイレギュラーは下手したらBランク。
パーティのバトルだけではない、レイドバトルをするのがボス戦。
Fランクのダンジョンの最奥ボスがCランク、だけどあのホブゴブリンは恐らくBランクは有ると思われるし、下手を打てばこのダンジョンに入るのであろう冒険者達では決して勝てない筈だ。
「困ったな。まさかのイレギュラーなボスとか、これがダンジョン実習だったら完全に事故っていたよ」
「ボスってBOSS部屋から出ないのは良いんだけどね、出現してしまうと斃されない限りは居続けるんだよ。困ったな、実習でBOSS部屋は無しにして貰うしか無いのかな?」
「BOSS部屋って、実習で入る事になるのか?」
「三年生に成ればね。勿論だけどレイドパーティを組んでのボス戦に成るよ。だけど流石にBランクの魔物とは闘えないからね」
三年生にも成ればレベルも二〇を越えているであろうし、頑張ったなら全員がEランクに成っている処かDランクに届く者も普通に出る。
然しながら、Cランクの魔物ならいつも三年生によるレイドパーティが何とか斃していたけど、Bランクともなるとそれすら不可能だろう。
「仕方ない。お父さんやお母さん、慎吾小父様や理央小母様に頼んで斃して貰うしか無いかな?」
「父さん達に……か」
卦韻は思案顔になる。
それは冷や汗を掻きながら決心したかの如く、覚悟をした目をBOSS部屋へと向けて、聖霊剣の柄をグッと固く握り締めると口を開いた。
「美衣奈……」
「うん?」
「俺が闘ってみたいと言ったら反対をするか?」
言われた美衣奈は目を見開いて卦韻をガン見、やれやれとばかりに首を横に振って再び視る。
「何と無く言いそうな気はしたよ。此方側でなら無理も利くけれどさ、それでも死の恐怖と絶望感は変わらないんだよ? 死ねばダンジョンの入口でペッされちゃうしね」
「勿論、判っている。だけど今現在の俺自身ってのを知っておきたい。レベルだけじゃ計れない、物差しの無い実力っていうのを……さ」
レベル二〇でしかない、詰まりはBランク相手では敵う筈は無い。
「一人で行く気?」
「流石に、こんな我侭に美衣奈を巻き込めないだろうからな」
卦韻がそう言った瞬間に、ピクリと美衣奈の眉が吊り上がった。
「怒るよケイン! ケインは覚えていないけど、私とケインは一蓮托生。比翼の鳥にして連理の枝なんだからね! テンとメイだった時からずっとずっと……ね!」
「テンとメイ?」
「前々世のケインと私。テンルィー国王陛下とメイフィリア王妃殿下、この二人の愛称って処」
フワッとした某かが思い浮かぶ、それは自分に似た黒髪黒瞳の少年とピンクブロンドに前髪がグリーンメッシュな少女の姿、仲が良さそうに笑顔を浮かべて手を握っているのは正しく恋人の如くであったと云う。
「今のは……」
きっとそれは、僅かな記憶のフラッシュバックであろう。
確かに二人の姿が見えたけれど、恐らく卦韻の――というかテンルィーの視点から見えていたのだろう。
「若しかして思い出した?」
「一瞬だけ、多分だけど俺と美衣奈ってかメイフィリア?」
「……そっか」
何処かしら嬉しそうな薄い笑み、それが魅力的に見えてしまった。
「兎に角だよ、ケインが行くのなら私も行くんだからね!」
「はぁ、判ったよ」
卦韻は左腰に佩いている聖霊剣クリスタリオンを抜剣し、美衣奈も普段から特に使っている訳でも無い腰の後ろに差した杖を手にBOSS部屋へと駆け出し、イレギュラーなホブゴブリンに立ち向かう。
緑色だった通常のホブゴブリンとは異なって、その肌の色は灰色をしていて更なる巨体である。
ゲームだったら小ボス戦か何かのBGMが鳴り響くであろうが、当たり前だけどこの戦闘では特にBGMが鳴る事などは決して無く戦闘開始。
最早、ダンジョンの最奥であるからには次を考える必要性など無い、だから卦韻は全力全開にてその全てを引き出して闘う事が出来る。
「身体強化!」
身体強化の魔法を自らに掛けた美衣奈、卦韻もそれを背後に感じながら氣力を練り上げてやり、健御雷神と帝釈天を同時に展開した。
彼方側で云う天力を使う天導力、此方側に於ける氣力と氣導力と称される力を、卦韻は遠慮無く揮う。
当然ながら体力も生命力も精神力もガリガリと削られていくが、これはボス戦だからこの後の事は考えなくても特に問題は無かった。
卦韻は引き上げられた身体能力、更にはまるで強化外骨格の如く力、それにより精神力が切れたりしない限りは普段の――レベル二〇としての力を遥かに凌駕する攻撃力や防御力や素早さを以て闘う事も出来る。
灰色のイレギュラーホブゴブリンの肌は硬く、鋼鉄とまでは云わないまでも並大抵の攻撃力では刃が立たない、聖霊剣クリスタリオンは神秘金属ではあるけど、七王剣として七分割された時点でゲーム的な攻撃力に換算すると七分の一程度だ。
仮に神剣クリスタリオン本来の攻撃力が一四〇だったとしたら、二〇にしか成らないというのだからそれも当然の流れであろう。
取り敢えず、実際の攻撃力は倍くらいあるのだけれども。
「かった!」
ガキィィンッ! 当たり前だけど肌が硬いだけではなく、筋肉も厚くて柔軟で刃が通り難くて、骨もく金属みたいで非常に硬かった。
更には巨体で盛り上がる程の筋肉は大地を抉る程のパワー、それはBランクと云うだけの体躯は単なる膨れ上がった筋肉による攻撃力だけでは決して無く、何とその巨体に似合わぬ疾さもある。
勿論、飽く迄も巨体にしてはではあるけれど。
「はぁぁぁっ!」
まったく刃が立たない訳では無かったみたいだけれど、断ち斬るという程のダメージを与えてはいない。
「氷槍ッ!」
鋭い氷の槍が放たれてホブゴブリンイレギュラーに突き刺さるけど、余りにも浅い刺さり具合であるが故に大したダメージに成らなかった。
「痛みを感じて無さそうだね」
「刃のダメージも小さいな」
何とか躱して攻撃を放っても剃刀で肌を切った程度、ホブゴブリンイレギュラーは血を流しているけど薄皮一枚のダメージでしかない。
「タフ云々の問題じゃ無いね」
「痛いは痛いんだろうけど」
所謂、ダメージが一とか良くても三くらいだろうか。
「首を刎ねるのも難しいな」
「矢っ張り無理だね、こうなったら無理をしてでも魔法をぶっ放すしか無いかな?」
「それは駄目だ!」
再び駆け出す卦韻。
美衣奈が無理をするという意味、それは彼方側で遣っていた事だったから卦韻も理解している。
彼女の唯一技能【魔導妃】の幾つか持っている複合スキルの一つ、それにより本来使えるモノより二段階上の魔法を扱えるけど、その為には生命力を消耗をしてしまう上に無理な消耗を強いられてしまうが故に、内臓にダメージを受けてしまうから喀血さえするのだから。
そんなのはもう見たく無い。
はっきり云って美衣奈が殺されるのを視るくらいならば、前にのめり込むくらいに出てでもいの一番で死んで遣る心算の卦韻。
問題は現在の卦韻の切札が果たして何処まで通じるか? 抑々にして敵に当たらなければどうにも成らないだろうし。
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