第86話:黎明の星
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「ケイン、頼みが有るんだ」
「うん?」
美衣奈は神妙な表情をしながら、卦韻に対して口を開く。
「彼方側に行った際に、彼方の私……ミスティに此方側の事を話さない様にして欲しいんだ」
「な、成程。理解ったよ」
彼方側は遥かな過去、下手に過去を弄くる様な事はしない方が良いだろう、というより話さなかった筈だからこそだと卦韻も確りと頷いた。
美衣奈はきっと此方側の事を教えて貰っていなかったのだろうし、下手な事をして平行世界化を成されてしまうと厄介極まりないからだ。
卦韻としては決して試してみようとは思えない事だった。
「まだ時間は有るけど、これからどうしたい?」
「レベルも二〇に成った事だし、もう少し上げておきたいかも」
「それなら、この春休みの間にレベルを二五くらいにはしとく?」
「確かレベル二〇でギルドランクがFからEへと上がり、五〇に成ったらDに上がれるんだよな」
「そうだね」
とはいえ現在のギルドにレベルを確認する術が無いから、レベルとは自己申告制である為に色々と非常に面倒な手続きを経ないとならない。
だけど今現在のギルドは、既に慎吾が卦韻から渡されたステータスミラー(仮)を使う事により、冒険者のレベルを計れる様に成るであろう。
因みに、自己誇張をしてレベルを盛る莫迦者はどうしても出てくるもので、面倒臭い手続きをしなければならなくなった尤もな理由だった。
今の卦韻には無関係だが、レベルが一〇〇に成ればギルドランクがCに上がるし、二〇〇にまで上がればBに成り、四〇〇で漸くAと成る。
更に六〇〇以上でS、其処から一〇〇刻みによりSSとSSSにランクが上がって往くことに。
これは、レベルが上がれば上がる程に上がり難くなるのが理由だ。
レベルが八〇〇を明らかに越えている慎吾は、トリプルホルダーのSSSランクを拝命していた。
卦韻はレベル二〇にまで上がっているけれど、未だに正式な高校生では無いから飽く迄もFランク相当に過ぎない、きちんと入学をしたならその時点でEランクへの昇格が成される運びと成る。
「そういや、どうしてテラルと地球の融合ってのは行われるんだ? 大邪神王とやらの陰謀か?」
「大邪神王ストルムカイザーとは和解済みだよ。地球とテラルが完全に次元違いな同一の座標軸に存在していただけ、寧ろテリアル様が地球の環境を基に創造った生命体が住まう実験的な黎明の星なんだ」
生命体が住まうのに必要な環境が有ると判っていたから一万年前に、星神テリアルが地球の謂わばコピーを創造って自身の民を住まわせた。
だけど位置までもコピーしてしまったが故に、位相が違いながらも同一座標軸に置いてしまう。
結果、そんな事件が起きてしまったのである。
「銀の騎士と黎明の星……か」
卦韻はボソッと呟く。
「うん?」
「いや、何でも無いさ」
小首を傾げる美衣奈、そんな彼女に対して首を横に振った。
大邪神王との和解、詰まり卦韻がダンジョンを踏破するのに彼女は無関係、そうなると益々以て卦韻には自分が闘う理由がよく理解らない。
「ケインとしてはダンジョン攻略は嫌だった?」
「別に嫌じゃ無いよ。特に今は美衣奈と二人だけでダンジョン探索を出来ているから愉しいしな」
「そ、そう……」
卦韻からは不意討ちみたいな科白を吐かれて、頬を赤らめた美衣奈が明後日の方向を向いた。
「そういや彼方側のミスティが美衣奈の前世ってんなら、ランスとスピアって若しかしてというよりか矢っ張りみたいな感じなのか?」
「御察しの通り、槍太と璃亜の前世に当たるよ。テリアル様が気を利かせて傍に転生をさせてくれたんだ」
「矢っ張りか」
まるで本人の如く瓜二つなのも、或いはテリアルが気を利かせてくれた結果なのかも知れない。
実際に美衣奈とミスティは兎も角として、メイフィリアは其処まで似ている訳でも無さそうだったし。
「それにしても世界融合の果てにバランス調整をしてダンジョン顕現ね、そうなると理解をしていたから星神テリアルは俺や美衣奈達を転生させてまで対処を任せた訳か」
「どちらかと云うと、黎明の星で覚醒しなかったケインを星騎士に覚醒させる為だと思うけどね」
「傍迷惑な話だが、美衣奈はそれで良かったんだよな?」
「うん!」
「なら良いや」
彼方側と此方側を行ったり来たりさせられてはいるが、面倒臭いとはいえど愉しい事には違いが無い。
卦韻は覚悟を決めないとイケないなと美衣奈を見詰めながら考えつつ、聖霊剣や獄焔剣や蓬莱剣という“七王剣”と呼ばれる剣を捜さねばならないと思ったし、槍太や璃亜とも冒険者として動こうと頷いた。
「そういえば床の魔法陣はいったい何なんだ?」
「結界魔法。お母さんにも協力を仰いで設置をしたモノでね、魔法の実験をする為に設置をしておきたいと思ったんだ。ちょい見ていてよ」
美衣奈がいつもの……本当にいつものダンジョンで遣るみたいに、丹田へと魔力を集束させていくと言之葉に乗せて詠唱をを紡いだ。
「――地の底より来たりて流れるモノよ!」
「ミスティが使っていた魔法か」
魔導言語を使った詠唱による魔力の変換が成されていく。
「水流!」
魔力も精神力も最小限に放水を、それはちょっとだけ水がホースから出るかの様に掌から。
本当にチョロチョロと、結界に弾かれているからか床も壁も水で濡れたりしてはいない様だ。
「ミスティの魔法だな」
「そうだね、因みにだけど一〇年以上前までは、この系統の……テラル式とでも云う魔法を使っていたよ」
「詰まり、そういう情報をダンジョンから獲ていたんだな」
「正~解~♪」
ドンドンパフパフ~と何だかBGMでも鳴りそうなくらいには、明るくも元気も良く美衣奈は拍手をしながら、その美麗にして溌剌とした笑顔で言ってくれた。
「まぁ、私も術士な訳だからね~。ダンジョンに入れない時期はこうして練習に励んでいた訳なんだよね」
「へぇ、そうなんだな。俺が素振りをしているみたいなもんか?」
「アハ、そっかもね~」
喜色満面、美衣奈は魔力を収めて再び座った。
「それにしても、矢っ張りミスティの魔法が使えていたんだな」
「そりゃ、転生前の知識は普通に持ってるから。転生後に魔力が無かったり、或いは魔法の扱いが出来ない体質に成っていたなら兎も角ね」
転生をするという事は、魂は兎も角として肉体が全くの別物に変わってしまっている訳だから、術士としての資質が喪われた可能性がある。
まぁ、ミスティと美衣奈は肉体的に殆んど変化していない、それが故に資質も変わらなかった。
何しろ、ケイン・ユラナスとミスティ・ヴィナーシュが婚姻したのだから血筋という意味では、間違いなく卦韻も美衣奈も二人の末裔となるから、美衣奈がミスティとしての資質を受け継いでもおかしくはない。
卦韻もまたミスティの末裔だが、残念ながら魔力を魔法とする才能は魂に刻まれたケインの資質と変わらない為、持ち合わせていなかった。
「ダンジョンが星神テリアルの造った仕組みだったとしたら、あの扉だけじゃなくてひょっとして死なないシステムも彼女が?」
「そうだよ。生体情報が記録されて死んでしまった場合、魂が新生された肉体に戻されるんだよ」
「矢っ張りか」
即ち、星神テリアルら彼方側に存在していなかったシステムを構築、そうして本来は余り闘いには向かない人間を冒険者と出来る様に、そういうダンジョンシステムの幾つかを付与していったのだとか。
「さて……と、じゃあ初心者ダンジョンに行こっかケイン」
「そうだな」
経験値――存在力を獲得するべく二人は動く。
彼方側では存在力が=レベルを指していたが、此方側では少し意味合いを変えてしまっていた。
「装備品はそのバッグの中だよね?」
「ああ、だからすぐにも出れる」
鋼鉄の剣と改修をされたデスコーピオンの甲殻鎧(漆黒)、それに魔鋼製の小盾をバックパックたるアイテムバッグの中に仕舞っている。
ゴブリンパンチャーに壊された事もあったし、多少ながら卦韻は硬度を上げての改修をした。
「自転車で行くのもアリなんだが、さ~て美衣奈はどうするかね?」
「う~ん、準備体操代わりで身体を暖める意味が有るからね~」
「確かに……な」
美衣奈的に、歩いて行くのは自転車より少しでも動かしていき、肉体を暖める為の徒歩らしい。
家から出るとププーッ! というクラクションが鳴り響く。
「ヤッホー、二人共。おはよう」
「「奈々歌先生!?」」
前回のトラクターとは違って普通の車両に乗る溝呂木奈々歌先生が、卦韻と美衣奈に対して車の中から声を掛けて来たのだと云う。
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