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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第二章:獄焔剣
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第84話:卦韻とケイン

.

 卦韻は朝餉を終えてからすぐ家を出て、美衣奈と合流をするとダンジョンに向かおうかと話をしてはみたのだが、固唾を呑むと口を開く。


「美衣奈、ミスティに付いて教えてくれないか」


「……そっか、そろそろ時期だとは思ってたよ」


 美衣奈は卦韻からの言葉に苦笑いを浮かべながら俯くと、覚悟を決めたかの様な表情になった。


 美衣奈は卦韻を連れて家に戻り、今まで卦韻を頑なに入れた事の無かった自室へと招き入れる。


「一〇年前、俺の部屋に美衣奈を上げて遊んだ事はあったけど、美衣奈の部屋に入った事は無かったよな」


「そうだね」


 室内にはベッドと勉強机、それに明らかに此方の世界で有り得ない地図が壁に掛けられていた。


「この地図は?」


「何と無くでも理解してるよね? 惑星テラルの世界地図だよ」


「これがテラルか」


 卦韻は彼方側の地図は見た事が無かったから、初めて見るから少しばかり感慨に耽ってしまう。


 惑星とは球形だからテラル儀? でないときちんとした形は判らないが、平面図として視てみると中央に巨大な大陸、その周囲に六つの大陸と列島らしき島がまるで六芒星の様に存在している様である。


「さぁ、話そっか」


「あ、ああ」


 白くて小さなテーブルを押し入れから取り出して美衣奈は展開をすると、保温ポットと白いカップを出して二人分の紅茶を淹れてくれた。


 序でに大皿にクッキーを入れて、御茶請けにとテーブルの上に置く。


「座って」


「判った」


 春休みに入ってから起きていた彼方側と此方側の秘密、間違いなく彼女――美衣奈は何かを識っている筈なのだと卦韻は睨んでいた。


 美衣奈はカップの把手を手にすると、瞑目をしながら口を付ける。


 それを見て卦韻も溜息を吐いて紅茶を飲んだ。


「先ず、卦韻はテラルのケイン・ユラナスの家で目を覚ました……って事で間違ってないよね?」


「あ、ああ」


 息を呑みながら頷く。


「惑星テラル。この世界――惑星地球とは違う別の世界に当たるんだけど、星神テリアル様が管理をしているという点では変わらないんだ」


「星神か、聴いてはいるけど。それって地球の神とかテラルの神とも違う感じなのか? はっきり言ってしまうとよく理解(わか)らないんだが……」


 地球には地球で、日本だけでも八百万の神々が名を挙げられる訳だし、それこそ地球全土を以てすれば国毎に複数の神が存在するだろう。


 それに彼方側のテラルでも、主神を含む一二神が挙げられていた。


「星神とは即ちワールドオーダー、惑星の守護者とも云える神々とはまた別の上位の神様だね」


「確か俺が星騎士(ワールドガーディアン)ってのだとは聴いていたけど」


「星とは付くけど、惑星その物じゃなく時空樹と呼ばれる謂わば時空間を巨樹に見立てたモノを、正しく巨樹の枝葉や根子の全てを含めた次元世界の事を云ってるんだよ」


 時空樹とは云ってみれば全ての世界自体を指しており、この時空樹の一つ一つを管理しているのが星神という存在であったと云う。


「これはどうでも良い情報だけど、星神テリアル様には姉神が二柱いてね。星神ガイナスティア様と星神アーシアル様が別の時空樹を管理されているんだよ。その二柱の女神様の許には貴方とは違う星騎士が就任していて、それぞれが“朱き騎士”と“蒼き騎士”と呼ばれている」


「で、俺が“銀の騎士”か。その星騎士ってのは確か、八人居るみたいな事を聴いているけど?」


「そうだね。原初からの星騎士は五名だったらしいんだけど、後に三人ばかり増えたみたいだよ」


「増えるのか?」


「そうみたいだね~」


 更に云えば、八人の星騎士の中でも一番最後の覚醒をしたらしい。


「だからかな? 実はテリアル様もやきもきしていたんだよ」


「やきもき?」


「だって、他の姉妹神や星神の所の星騎士が覚醒をしているのに、自分の所の星騎士が覚醒しないんだから仕方が無いんだけどね」


 時空樹とは、それこそ無限-1もが存在しているモノだ。


 その中に何故か星騎士は元々がたったの五名、これに関しては理由が有るとは美衣奈もテリアルから聴かされていたが、その理由の如何までは知らなかったりする。


「特にガイナスティア様がテリアル様には色々と自慢をしていたみたいで、姉妹喧嘩って程じゃないけど膨れっ面に成っていたんだよ」


 なんというか、まるでそれは……


「そのテリアル様? と美衣奈は会話をした事があるのか?」


 神様と話をしたみたいだ。


「勿論、有るよ」


「有るんかい!」


 美衣奈からの肯定の言葉に、思わず卦韻はツッコミを入れた。


「というより、私がテラルで死んだ後にテリアル様から喚ばれたんだ。元々、私はケインが知ってるミスティとして生まれる前の人生が有ったし、それはケインも同様。そして私はミスティの時から前世……今生の私から視たら前々世の記憶を持っていたから、星騎士覚醒の条件を前世のケインは満たして無かったんだ」


「ひょっとして、記憶を保持した侭の転生か?」


「正解だよ♪」


 ケイン・ユラナスは前世の記憶を保持してはいなかった為、残念ながら星騎士に成れる素養を持ちながら未覚醒に終わってしまったのだ。


「人間……ううん、全ての生命の魂は何度も生と死の輪廻を繰り返す事で研かれ、徐々にではあるけど確実に昇華をされていくんだよ」


「そういうものか」


 美衣奈が曰く、昇華をされていく毎にその魂は高次化が成されていき、複雑な生命体への生誕も可能と成っていくのだとか、始まりの生命から少しずつ進化をしていく様に魂も進化をして行き、最終的には神化をするのが魂の真なる目的だと。


「抑々だけど、ケインが星騎士なのは初めから決められていたんだよ。これもテリアル様から聴かされたんだけどね、ケインの魂は普通より強度が高い高次体らしいんだ」


「高次体? 詰まり、人間というか生命体の魂の行き着く先は高次精神生命体って事になるのか」


「そうだね、そしてケインは初めからそんな存在だったみたい。他の四人の星騎士達もそうみたいだよ」


「うん? じゃあ、それ以外の三人ってのは違うのか?」


 他の四人+卦韻の合計五人が同じだったとしたならば、それ以外の三人はまた別だったという話になるのではなかろうか? と考える。


「卦韻達以外の三人は、普通の人間が進化をしたみたいだね。斯く云う、私自身もそうなんだけどさぁ。よく判らないけれど、テリアル様はケイン達の事を“五源将”……と、そんな風に呼んでいたよ」


「五源将って、随分と大仰な……」


 四天王とか一二神将など、神様界隈ではよく在る呼び方だったけど、現実に呼ばれてしまうのは丸っきり中二病でも患っている様である。


 だからこそ、卦韻は大粒の汗を流しながら聴いていた。


「まぁ、私もそう思うよ」


 釣られて苦笑いの美衣奈。


 死んで転生をするだけでも魂とは研かれるものだし、単純生命体から少しずつ研かれた魂が今の人間という複雑怪奇な生命体に駆け上がったのは間違い無いけれど、楠葉卦韻とは最初からある程度でも高次の生命体だったのかも知れない。


「ケインが今のケインに成る前のケインに成る前のケインが……」


「待て待て、ケインがゲシュタルト崩壊を起こしとるぞ!?」


「ああ、ごめんね。私はミスティの前の記憶が有るからさ、ケインとして認識しないとついね?」


 珍しく、てへぺろなんてお茶目を魅せる美衣奈は可愛らしく思えたけど、前々世は於ろか前世の記憶すら定かでは無い卦韻からしたら、ちょっとばかり気になった事がある。


「それで気になったんだが……」


「うん?」


「俺の前世がケイン・ユラナス君だったってのは理解した。その更に前世の確か……テンルィー・セイル・マーレイアっつったっけ? 彼と美衣奈の前々世でえっと……」


「メイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイアね」


「そのメイフィリア・ヴィナーシュ・マーレイアって女性(ヒト)は、詰まり……アレだよ……ああ……」


「テンとは結婚したし、その子孫としてケインが居るからには子供だって勿論、産んでいるよ」


「うっ! 此方が訊き難かった事をあっさりと」


 卦韻も男の子、美衣奈みたいな前世や前々世の記憶が有る訳じゃ無いから、精神的な老成なんてしている筈も無くて女の子……しかも幼馴染みに訊ねるには恥ずかしい。


 それに、ケイン・ユラナス君とも()()()()()()だった筈なのだ。


 しかもそれは記憶が無いだけで、卦韻本人らしいから余計に恥ずかしく成ってしまう。


 羞恥心から卦韻は、頬を朱に染めながら明後日の方向を見詰めつつ、ふと思った事を訊いてみる。


「そういや、俺の他の星騎士ってどんなんだ?」


「私が知る訳無いじゃない」


「そりゃ、そうか」


「テリアル様から、称号と名前くらいなら聴いてるけどね」


「いや、知ってるんかい!」


 美衣奈から聴いたまさかの事実、其処へ芸人の如くキレの鋭いツッコミを極める卦韻であったと云う。



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