第83話:治験
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目を覚ました卦韻は掛け布団を撥ね飛ばすと、即効で唯一技能たる【錬成王】を起動してやってアーカイブを選択、その中には彼方側にて造った“練習用の義肢”が存在しているのを確認する。
「よっしゃぁぁぁっ!」
周りに迷惑を掛けるくらいに大声を上げて叫ぶとタップ、【錬成王】内の素材倉庫と紐付けられて必要な素材が使用されて魔導具を製作。
更には、卦韻のレベルが二〇にまで上がっていた事から精神力が高まっていた事も有ったけど、スキルを使い捲ってスキルのレベルが上がってた事により、消費する魔力や精神力が一〇%くらい軽減が成される。
それに製作速度も約五%程度は上がっていた。
一時間くらい経っただろうか? 卦韻は製作が成されていた魔導具――“練習用義肢”が完成。
大きさとしては、某・小肉君の足っぽいナニかであったと云う。
尚、左右は関係が無くてどちらにも適用がされるモノだ。
形状が左に着ければ左脚、右に着ければ右脚に変化をする様になるし、いずれは手脚のどちらに装着をしても適応がされる様にしたい。
「これを父さんに託そう」
愛坂総合病院には冒険者であった入院患者も居る事だろうし、そんな患者の中で治験に協力をしたいという人間も居る筈だし、その誰かしらに使って貰う予定になっていた。
卦韻は自室を出ると階下へと降りてリビングへと入って、いつもの通りにソファーに座りながら新聞を読んでいる父親の慎吾を見遣る。
「父さん母さん、おはよう」
「おう、おはよう卦韻」
「フフ、おはよう」
息子の口から紡がれた朝の挨拶に返してくれる両親、二人は御機嫌な様子ではあったけど何故か母親である理央は艶々としている気がした。
「一応は義肢の内、練習用の義足が完成をした。愛坂総合病院で誰か患者に試してみて欲しい」
「っ! 出来たのか?」
「飽く迄も低い品質の素材で造っただけだから、練習用と銘打つしかない程度の代物なんだけど」
義肢というのは練習用と仮義肢と本義肢が存在しており、練習用はリハビリで使用する事と調整する事を前提に造られる義肢だ。
調整とは身体に併せる行為で、脚だったり腕だったりの太さや長さに併せて微調整をしていく。
調整も終えて、リハビリも熟したら退院に向けて仮義肢を着けての動きになり、そして退院後までも使っていって本義肢に換える訳だ。
卦韻が造った物は、品質が低い事も有って練習用と称していた。
「脚っぽいナニかだな」
「脚っぽいナニかね」
慎吾と理央は、卦韻がテーブルに置いた小さな脚っぽいナニかを見て苦笑いを浮かべてしまう。
「それを断端にくっ付けた状態で魔力を流して、当人の魔力なりを使う事で馴染ませると変形をするから、それで脚に合着をする様に成るよ」
「マジかよ」
「本当にそんな感じに成るのね」
感触的にはゴムっぽい樹脂っぽいものであり、然し触れてみればクッションみたいな柔らかさ。
人間の肌には遠いが、義足としてはそれなりの物に成りそうだ。
「まだまだ人工物感が拭えないし、触っても温もり一つ感じない。当たり前だけど感触を得る何て事も無い、本当に俺自身の練習用だよ」
卦韻の練習用であり、治験をする患者の練習用にも成る物だ。
「一個だけって事はどうすれば良いものかな?」
「一基しか無い訳だから早い者に、いの一番に名乗りを上げた患者に使えば良いと思うけどね」
「そうなるのか」
はっきり云うと取り敢えず一つだけしか造っていない為に、治験に参加が出来るのは一人だけでしかない訳で、だから実験台になる事を認めて手を挙げた人間に渡すべきだ。
本来なら安い義足でも五〇万円は掛かってしまうけど、一応は保険的な彼是で一割くらいで済むとはいえ、それでも一般的には高価い物。
当然、魔導具である義足は数百万円くらい当たり前に掛かるし、それだけに凄まじいまでの高性能な物として造られているのは間違いない。
「よし、そうしよう」
卦韻からの言い分に頷いた慎吾、義足を手にして愛坂総合病院へと向かうべく家を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
愛坂総合病院は昔から存在している病院だが、割りと最近になって移転をしていて随分と建物も大きく建造しており、地下二階~最大限にまでなると一二階にも達する大病院として、確固たる地位を築いている。
「恭二」
「慎吾さん」
慎吾が声を掛けたのは愛坂恭二、愛坂玲也からしたなら弟に当たり、愛坂総合病院に於いて院長を務めてるから義足を見せるのに丁度良い。
「これを見て貰えるか?」
「うん? 小肉君の脚ですか?」
「違うからな!?」
自分も似た感想を懐いたからか、苦笑いを浮かべてしまう慎吾。
「これは我が息子が造った魔導具の義足なんだ。それで恭二君に頼みたい事が有るが良いかな?」
「構いませんが」
ジーッと見詰める先に件の義足、矢張りというか医師としては医療関連の魔導具に興味津々であるらしくて、恭二院長は魔導具の特許や権利関連や優先度の高さを確りと把握をしているからこそであろう。
「これの実験に手を挙げてくれる患者さんを募りたいんだ。先着一名、治験に協力をしてくれるなら礼金は出せないが、この魔導具を進呈するし、卦韻がもっと義足の品質を上げた物を開発が出来たなら随時、取り換えるという契約で頼みたい」
「成程ね、礼金の代わりが魔導具の義足という事ですか」
数を出せない魔導具であるからにはこんな品質の低い物でも数百万円、完成品ともなればきっと数千万円にも及ぶ事に成るであろうから。
治験はそれなりに高額な負担軽減費が支払われるが、魔導具と引き換えにならソレが端金にも思える。
まぁ、通院の一日が一万~三万円程度だけど。
「それじゃ、取り敢えずは募集をしてみますね」
「ああ、頼んだ」
恭二は冒険者の中で脚を喪った患者を集めて、実験用の魔導具たる義足を使いたい者を募った。
危険は無いし、寧ろお金が無くても義足を使えるのなら、それはきっとラッキーな事であった。
仮に魔導具の義肢の方も保険が効いたとして、それでも一割の支払いが有るから数千万円を越えるならば数百万、Aランク以上な高位の冒険者なら支払えるだろうが、Bランクより下だとしたら流石にキツい。
まぁ、金持ちなスポンサーでも付いているのであれば別だが……
愛坂恭二院長は早速とばかりに義足を持って動くべく院長室を出て、冒険者達が集められている病棟へと向かって歩いていき、それを見た慎吾もそれに付いて行く。
冒険者専用病棟の中に在っても、取り分け脚を喪ってしまった冒険者に看護師達を通じて通達を出して貰い、その通達の後に治験の了承をすると返事をした患者の一番早かった者が対象となる。
手を挙げたのは数十人から入院している冒険者の中で脚を喪った一八人、そして先着順である事からいの一番に手を挙げた栗色で長髪の女性が選ばれる事に成って、恭二院長は彼女を処置室へと連れていった。
「君は、Cランク冒険者の瀬尾燐佳さんだったかな? 年齢は二〇歳」
「は、はい」
ダンジョンアタックを敢行して、強力な魔物と出会ってしまった彼女は左脚を潰されてしまい、その結果として左の膝から下を喪ったのだ。
「慎吾さん、断端にくっ付けて魔力を流せば良いのでしたね?」
「ああ、卦韻から聴いていた通りならそれで問題無い筈だ」
「判りました」
恭二院長は燐佳女史の左脚の断端を確り拭いてしまい、その見た目からして小肉君の足にしか見えないソレを断端へと押し付けてみる。
更に魔力を流してやった。
とはいえ、恭二院長の魔力は飽く迄も呼び水に過ぎない。
それにより燐佳女史の魔力が引き摺りだされ、彼女の魔力が義足へと廻って全体の魔力回路に行き渡り、変形して完全に彼女の脚に成る。
「こ、これは……」
まるで本物の左脚、触れても脚に感触は無いけど誰かに視られたとしても、誰からも義足であるとは思われないだろうと思えるくらいに。
「立ってみて貰えるかい?」
「は、はい」
ゆっくりと立ち上がる燐佳女史、足腰が多少なりとも弱く成ってしまっている訳だが、それでも何とか確りと立ち上がる事が出来ていた。
「フゥ……」
それを見た慎吾は不備が無いかを調べている、どうやら大丈夫っぽいのを確かめられて安堵をする。
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