第78話:冷却魔法
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家へと帰り着いた時にははもう、西の空が茜色に成っていた。
今回の探索では割かし時間を喰ってしまったものである。
「じゃあね、ケイン」
「ああ、またな」
美衣奈と別れた家の中に入った卦韻がキッチンを見遣れば、母親たる理央が夕飯を作っているのが見えたので、早速とばかりに話し掛けた。
「母さん、訊きたいんだけど」
「あら? どうしたの、卦韻?」
「ウチだか愛坂だかの系列病院って在るよね?」
「在るわよ~、愛坂総合病院ね」
楠葉家と愛坂家は別々に会社を興している様にも見えて、実際は普通に同族というか親戚筋に当たる為、愛坂でも楠葉でも変わりない。
勿論だけど病院の理事長と学園の理事長は別人であり、愛坂惣元の従兄弟が愛坂総合病院の理事長をしているのが現状となっている。
「冒険者の患者って居るよね?」
「居るわね。ダンジョンで死んでもペッされるだけだけど、その『死んだら』というのがちょっと難しいものよ。結果として、手足を喪ってしまった侭でダンジョンを出る人達も矢っ張り居るのよ。最悪だと腰半分を喪う場合もあるわ」
「そんなに居るんだな」
「義肢を造りたいのよね?」
「まぁね」
医師免状も無ければ義肢装具士の国家資格も持っていないが、愛坂学園の冒険科に所属が決まっている上で最上位の創造系スキル持ちという事もあり、そしてこのスキル持ちは如何なる資格も免除をされる。
無論、医師免状も無いのに患者を診たり手術を行ったりは出来ないし、調剤師では無いのだから調合をした薬を薬局で販売も出来ない。
出来る事とは飽く迄も義肢を造った上で必要としており、その人物が魔導具に身を委ねても構わないという誓約書にサインをした者に治験するという事だったり、調合した薬類も全てを理解した上で使う事を了承した者に使う事のみ。
全ての資格を免除されるけれど、自由気侭にと遣れる訳では無い。
造って、それを誰かに使わせる……このプロセスを行っても違法にはならないというだけだ。
その全てが自己責任には成るし、それを使った人間も自責を以て使えとある意味で放任である。
そうでもないと、ダンジョンからフルポーションが出たのに使えないなんて事態になるから。
「治験の候補者を先ずは募らないといけないわ。でも冒険者には戻れないにせよ、身体の不自由さを補えるなら沢山の応募が有るかもね?」
「それはどうかな? 信用も得てない技術だし、流石に親の欲目が多分に含まれてないかな?」
「フフフ、そうかもね?」
理央がころころと笑う。
「兎に角、ある程度は形にしてくれないかしら? そうしないと流石に応募者を募れないわ」
「うん、了解だよ」
誰かに併せた義肢でなく本当に、誰かが使う物では無い義肢を造って提出する必要があった。
夕餉の前に卦韻は二階の自室に籠るとスキルを起動すると、本人以外には決して見えないモニターやコンソールが空中に浮かんでいる。
この操作盤を叩いたり、或いはモニターを直に触れたりで唯一技能【錬成王】を動かしていき、必要となる素材をスキル側からのリクエストで投入口に放り込んでやった。
人体に必要となる有機物や無機物は雑多に在る訳だが、それらを揃えようと思えば実の処は難しい訳では無い為、ちょっと頼めば両親ならば簡単に入手をしてくれる。
「これで形だけは完成する訳だが、後は義肢を必要とする治験者が見付かれば良いんだけどな」
とはいえ、仮義肢以前の代物を試して貰った上で用感を聴いて、其処から本義肢を造るのか否かを決めて貰うといった手順を要した。
(確か義肢……義足や義手は練習用の物から仮義足や仮義手に替えて、其処から更に本義足や本義手に替えるんだったよな? その手間を省けないかとは思ってるけど」
練習用の義足から仮義足へ、仮義足から本義足へという流れだから、意外と時間が掛かってしまう。
「後はスキルが、ワイヤーフレームで作ったデザインの形通りに仕上げてくれれば良しだよな」
量産に向いた機能、卦韻が細やかな作業をしなくてもスキル任せに出来て、量産ラインも大掛かりな仕掛けが不要ときたものだ。
しかも造った物を仕舞うスペースも在るのだと気付いた為、実は収納性の高いアイテムバッグは卦韻に限れば要らなかったみたいである。
「設定は作り込まにゃならんけど、本当に便利なスキルだわマジに」
簡易義肢の完成には一日も掛からないだろう、実際には数日くらい掛かるみたいだけど卦韻のは造るのがこれだけで、しかも誰かに併せて造る訳では無かったからサイズを測る必要も無い。
当たり前だが、本来の義肢は使う人間に併せて造らねばならないオーダーメイド品、しかも完成して終わりでは無くて練習用の時点でサイズ的な不備が無いか、それらを確りと検証しないといけないので、リハビリの際には担当の義肢装具士が其処ら辺を視て、調整をしていくもの。
だけど卦韻が今現在、造っているのは誰かの為の逸品物などでは無いから特に問題も無かった。
「おっと、そうだ! 彼方側でアルヴァン大火山に入るからには、あんな莫迦みたいに熱くて暑い環境をどうにかしないとイケないよな」
ミスティが使っていたクーラーの魔法を魔導具として造ったならば、何とかあのクソみたいに熱いダンジョンでも探索が出来るであろう。
「母さんか美衣奈に見せて貰うか」
魔核を右手にポンポンと軽く上に投げながら、卦韻は魔導具の形や籠める魔法に思案をした。
指輪では無くペンダントという形にするか? それとも小さなマントにするべきだろうか?
卦韻はクーラー魔法の魔導具はマントにするのを考えた場合、魔核はマント留めとして造るのが良いかも知れないなと考えてしまう。
イグナート大陸は何処もかしこも夏の如く環境だから、常にクーラー魔法の魔導具を装着しておきたいし今の内に設計だけはしないとだ。
ペンダントというかネックレスでスピアに渡してしまったし、矢張りマントを造るのが良さそうだと考えてスキルでデザインを書いていく。
下手に凝ったデザインにしても仕方がないし、簡易なデザインで造るべきだとデザインをした。
多少の時間は掛かったけど完成。
「よっしゃ、出来た!」
素材は揃っている。
「素材にはスパイダーの糸、魔銀、それにEランクの魔核だな」
魔銀は魔鋼より魔力通りが良い、だから魔導具に使うのにぴったりとハマる素材であったと云う。
竹繊維でも良いが彼方側には竹が無かったら困るから、普通に彼方側にも存在しているであろうスパイダーの糸の方が向いていそうだった。
「さて、降りるか」
自室とする部屋を出ると、卦韻は階段を降りてリビングに入ってすぐにキッチンを見遣る。
何だかいつも居る気がする母親である理央が、これまたいつもの通りに夕餉を作っていた。
「母さん、ちょっと魔法を見せて貰いたいんだ」
「あら、また魔導具を?」
「ちょっとね」
「それで、どんな魔法を?」
濡れていた手をタオルで拭きながら訊いてくる理央、四十路を迎えているとは思えないくらいに女性としての魅力を醸し出している。
息子の立場ながらも一瞬だがドキッとしてしまうのは、男としては仕方がない事なのだろうか?
魔力という、高い根源的なエネルギーの一つを喚起させたが故にか、肉体的には四十路とは思えない若々しさを保っているのが原因だった。
事実、卦韻と理央が並んでいると知らない人間からは姉弟にすら見られてしまう程だったから。
「身体を涼しく保てる魔法。一応は“涼纏”っていう魔法は知っているんだけどさ、夏場である程度の温度管理が出来そうな魔法だと嬉しい」
「ふむ? ルハ・ラハーラとは随分と古い言い回しの魔法ね? 一〇年くらい前からその辺りのは駆逐されている筈なんだけど、ソレをいったい誰から見せて貰ったのかしら?」
矢張りと云うべきか、卦韻が彼方側の魔法を伝えると理央は、それを昔の魔法であると断言。
即ち、現在の魔法が広まる前までは彼方側と同じ遣り方、同じ“力成す言霊”を使っていたのだ。
そして今までにもそんな気はしていたのだが、恐らく美衣奈こそがそれらを行ってきた張本人。
僅か六年間でしかなかったけど、一度は広まっていたモノを駆逐して新たに広めてしまうとは、美衣奈の手腕は六歳と考え難いものらしい。
理央は美衣奈も行っている魔力を丹田に収束、魔導紋を構築して魔法陣の形成をさせていく。
「冷却!」
理央は“力成す言霊”と共に魔法が完成させる。
「昔の“涼纏”は単純に冷やすだけでしかないわ。だけれどこの、“冷却”は術者の思い次第で下げる温度を変えられるのよ。卦韻の要望通りにね」
正しく単なる冷却機ではなくて、クーラーと呼べるものだった。
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