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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第二章:獄焔剣
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第75話:剥ぎ取りの現実

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 流石に素材が足りないし、技術力やレベルさえも足りていない卦韻では義肢など作れはしない。


 それに元来、義肢装具士は国家資格を取ってでないと無資格で作業は出来ない、卦韻の場合だと魔導具士という“相応のスキルを持っているだけで資格を貰える特権”、これで魔導具であるなら如何なる制約も受けないからこそ造る事が出来る。


 これもスキルという概念が現れてより附与された特権であり、スキル無しの人間が羨望と嫉妬に狂うくらいには特別性が酷い。


 然しながら、日本では一六年前から一〇年前までの六年間のやらかしが有った為に、それで諸外国に可成り後れを取っていたのを新政権が、何とかして法案を通したのである。


 何しろ、前政権が要らない事をやらかしてくれたお陰様で、新法案を突貫工事で採択したのだ。


 税金に関しても採択した為にか、冒険者達からは煙たがられていた。


 それに関しては魔物大氾濫により復興支援をしなければならず、早急なる財源確保の為にも必要不可欠な法案だったからに他ならない。


 間違っても私腹を肥やしてたり、海外にばら撒いたりなんて莫迦らしい真似はしていなかった。


「取り敢えず、下位の素材なんかで実験はしないとイケないよな」


 スケルトンとグリーンスライムは今の初心者ダンジョンにも顕れる、ならばソイツらからドロップを狙うというのもアリなのであろう。


「卦韻、手に入ればそちらに連絡を入れる事にするからな」


「そうしてくれると助かるよ、有り難う父さん」


 卦韻は慎吾に礼を伝えて朝御飯に有り付いた。


 フレンチトーストにかぶり付き、珈琲によって胃へと流し込む。


「卦韻、義肢を造るに当たって魔法の力が必要なら私に言ってくれれば、私も協力をしていくわ」


「うん、母さんも有り難う」


 朝餉も終えたので、二階に置かれたアイテムバッグを取りに戻った。


 バックパックとして背中に背負って外出する、卦韻も漸く初心者ダンジョンの最下層まで降りたという、一つの小目標を達成をしている。


 とはいえ、再び第ニ五階層に降りればボスと闘えるのだから、問題無く配信も出来るであろう。


「行ってきま~す!」


「行ってらっしゃい」


「頑張ってね」


 慎吾も理央も優しい顔で、外へと出掛ける卦韻を見送った。


 玄関を出るといつもの通り、微笑みを浮かべて美衣奈が待っている。


「おはよう、ケイン」


「おはよう、美衣奈」


 美衣奈の腰には卦韻の背中に背負われたバックパックと同じアイテムポーチが装着されていて、服装は勿論だけどローブとケープでは無くちょっと丈夫なだけで、それは普通の可愛らしい物でしかない。


「ケイン、最下層まで行ってホブゴブリンを斃しちゃった訳だけど、貴方はこれからどうしたい?」


「取り敢えずレベルを上げたいからそうだな……ホブゴブリンの撃破を周回しておきたいかも」


「っ!?」


 卦韻の答えに吃驚した表情で美衣奈が目を見開いたが、何処か納得した顔になるとニコリとふんわりした微笑みを浮かべながらも頷く。


「そうだね、ケインらしいよ」


「うん? 何故に?」


「フフ、行こ卦韻!」


「お、応!」


 美衣奈に手を差し出された卦韻、どぎまぎとしながらも美衣奈の手を取って愛坂学園へと向かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 愛坂学園の裏山に在る初心者用ダンジョンに向かった卦韻と美衣奈、アイテムバッグに入っていた装備品に着替えて準備運動を始める。


 所謂、ラジオ体操だ。


 当たり前だけど、準備運動と整理運動は確りとしておかないと、下手な怪我をしてしまったなら冒険者としての寿命を削り兼ねないから。


「そうだ!」


「うん、何かな?」


「実はスケルトンの骨とスライムのゼリー竜に近い生物の血が要るんだが、初心者ダンジョンではスケルトンとグリーンスライムと出会している。だけど竜に近い魔物の血ってどうしたら手に入るか判らなくてさ」


「う~ん、魔物としてのドラゴンと種族としてのドラゴンって一応は生態的に同じだから、蜥蜴系の魔物の血で流用が出来る筈だよ」


「蜥蜴系?」


「リザードマンなら初心者ダンジョンに顕れるんだし、ドロップに血は狙えないから生きた侭で捕まえて生き血を搾るしか無いと思うよ?」


「マ、マジか……」


 蜥蜴人が竜人と近いのはラノベなんかでもよく見る設定ではあるが、まさか本当に蜥蜴系の魔物が竜との近縁になる魔物として扱えるとは?


 卦韻は吃驚するしかない。


「魔物って実はねぇ、殺さなければ引っ剥がす(ひっぺがす)事とかも出来るんだよ。ドロップアイテムより性能は低くはなるんだけど……ねぇ?」


「そうなのか?」


「未だ慎吾さんと理央さん――小父様と小母様やお父さんとお母さんくらいにしか話してないし、その流れで四人の御仲間や御弟子さんくらいしか知らないと思うんだけどさ」


「詰まり効力こそ低くなるにせよ、ドロップアイテムを獲られるって事なのか?」


「寧ろ、ドロップしないモノだって獲られるよ」


「それが竜血……か?」


 美衣奈が恭しく頷いた。


 ダンジョンが顕れてより約一六年が経つけど、冒険者に興味を示さなかった卦韻でも知る事が出来た上辺だけの情報は於ろか、現実に活動をしている冒険者ですら知らない情報が出てきている。


「まぁ、魔物の彼是(あれこれ)に関して云うと剥ぎ取りをしようとはしていたみたいだよ? どっかのゲームみたいな感じに。だけど死んだら魔素に還るから即諦めたんだよね」


「そりゃ、そうだな」


 魔物は魔素に還る、それは魔物を斃して直ぐに判ってしまった現実から、某・魔物狩人みたいな剥ぎ取りが不可能だと判断されたのだ。


 美衣奈は慎吾と理央に、父親である玲也と母親の扇歌を通して剥ぎ取りの仕方に付いて教える。


 その遣り方というのが殺さず生け捕りにした上で生きた侭、剥ぎ取るのが必須の事項であったという。


「取り敢えず、グリーンスライムで剥ぎ取ってみようか?」


「そうだな。配信はどうする?」


「止めとこ、配信で剥ぎ取り方を教えたくない」


「そうなのか?」


「うん……」


 美衣奈が何故か沈んだ様子で『教えたくない』と言う、それがちょっと気になってしまった卦韻は首を傾げてしまいながらも歩く。


「なぁ、何か教えたくない理由って有るのか?」


「ハァ……有るんだよ」


「それは?」


 美衣奈はその美しい顔の表情を歪めながら口を開いた。


「先ずグロいんだよ」


「グロい……」


 確かにドロップアイテムが落ちただけだったら魔物は魔素化しているが、生きている状態で短剣をザクッと刺して……というのはちょっとばかり配信が出来ない、血が噴き出して内臓を取り出してとか確実にBANされるだろう。


 現実ではゲームと違い可成りグロいからだが、それだけなら未だ料理を鑑みれば許容範囲内と云えよう、魚の三枚おろしとかを頭落としなどを視れば解るのでは無かろうか?


 だからといって、ゴブリンなど人型の魔物の首を落としたり、内臓を引き抜いたりするのが果たして配信に耐え得るかと云われれば否だ。


「まぁ、それは建前みたいなものなんだけどね」


「建前?」


「危ないんだよ」


「え?」


「ゲームなんかでは普通は死んだ魔物を剥ぎ取りするよね?」


「そ、そうだな……」


「生きた侭って事は詰まり、刃を入れたりしたら暴れ回るんだ。場合によっては大事故に繋がる。それだけならいざ知らず、その上で元気な魔物を呼び込まれる恐れが有るからね~」


「ああ、冒険者の死亡率が跳ね上がりそうだな」


 未熟な冒険者が下手に生きた魔物を剥ぎ取ろうとして死亡、熟練の冒険者も矢張り同じ事をしようとして死亡など、ダンジョンは平等に死神の鎌を冒険者へと運ぶ。


「死んでも入口に素っ裸でペッされるだけで命は喪わない、喪われるのは持ち物と存在力と尊厳であって一番大事な命だけは無くならない。一般に流布されている事だし、間違ってもいないんだ」


 だけどそれが時に誇りすら喪わせる事もある。


 事実として、如何にも人間らしい事件も起きているから美衣奈の心配とて絵空事とは云えない。


 殺しても死なない……だから殺人罪には当たらないと莫迦を考えた冒険者が、憎い人間をダンジョンに連れ込んで殺害した判例も有った。


 それだけでも胸糞悪いが、中には情報が入口にセーブされるからと男の冒険者モドキが女性を連れ込んで暴行、殺害して入口にペッさせる事により暴行した証拠を隠蔽したなんてのも有るのだ。


 それを美衣奈から聴かされて頭を抱えてしまう卦韻、暴行の事を話す時の彼女の様子からしたら確実に気に病んでいるのが判るから。


 尚、この二つの事件は犯人が捕まった事により解決済み。


 気に入らない奴に痛い目を見せられるだとか、気に入った女を好きに出来るなんて事に味を占めた人間が、何度も同じ事をやらかすから現行犯で“水晶戦記”パーティが取り押さえて、警察へと引き渡してしまっていたからである。


 それは即ち、一種の自警団みたいなものだった。



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