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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第二章:獄焔剣
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第73話:アルヴァン大火山

.

 地熱の所為か唯でさえ熱いイグナート大陸だったけど、アルヴァン大火山の山脈内部に存在しているダンジョンの中は可成り熱い。


 入る前から日本なら六月の始めくらいの熱気を孕んでいたものだが、ダンジョン内は真夏日と云わんばかりの熱さ――否、暑さであった。


「あ、暑い……」


「こ、これは……思っていた以上に暑いよねぇ」


 実は何故か暑さには強いランスとスピアだったから平然としてたが、俺とミスティはそんな特性を持たないから入って数分で汗だくに成る。


 これ、手脚の防具が革製だったからまだ良かったけど、これが金属製だったら熱を籠らせてしまってもっと随分酷い事に成ってたんじゃ?


「ケイン、ちょっと魔法を使うよ」


「うん? 魔物はまだ顕れていないみたいなんだが?」


「熱いから魔法で涼むんだ」


「ああ、頼んだ」


 俺同様に汗だくなミスティが魔力を丹田に収束させていき、血流の如く魔力回路を通して身体の中を巡らせると、ミスティは詠唱を始めた。


「巡れ纏え涼やかなる大気よ」


 そして、遂に詠唱から力成す言霊を紡ぎ出す。


涼纏(ルハ・ラハーラ)


 それによりミスティだけで無く、俺やランスやスピアの身体の周囲にも涼やかな風が纏われた。


(クーラーみたいな涼しさだな)


 普通の気温だったら寒く感じたかも知れない、ちょっと強めなクーラーのレベルだからそれだけの涼しさだし、この場でのみの魔法だろう。


「今は良いけど、奥に行けば行く程に暑く成っていくらしいよ」


「そ、そうなのか?」


 それっていったい、最奥ともなればどれだけの暑さなのか?


「出たぜ、ケイン!」


「ラヴァスライム!」


 見るからに熔岩以外の何物でも無いナニかが蠢いていて、確かにスライムと云われてしまったらそうだとしか思えないが、俺が知るスライムというのは色分けによるモノばかりの筈であった。


 グリーンスライムとかブルースライムという、ラヴァスライムなんて魔物は聴いた事も無い。


 兎に角、今は顕れた魔物――ラヴァスライムをを斃さないとな。


 ズルズルと橙色が蠢く様は間違いなくスライムである。


 スラァッと腰に佩いた剣を抜いた俺は巨大なる熔岩っぽいスライム、ソイツは口? っぽい所から熔岩らしき何かしらを吐き出してきた。


「チィッ!」


 それを躱して、俺は剣に氣力を通して斬り付けてやる。


 口? みたいなモノは有っても声帯を持つ訳では無いからか、悲鳴を上げる事も無くてフルフルと何だか揺れて痛みを表している?


「あ!」


 前にグリーンスライムを斬った時の事を思い出してふと刃を視たら、ミスリルだったからか余り劣化はしてないけど矢張り僅かに腐蝕中。


 ミスリルじゃ無なけりゃ熔け切っていたろう、仕方が無いから手拭いで拭うと熔けてボロボロに成ってしまい、視れば刃部分が少し劣化。


 後で【錬成王】を使って修復をしようと思う。


「一応は、ラヴァスライムを殺せたみたいだな」


 取り敢えずではあるけど、ラヴァスライムの核の部位は潰せてたみたいで魔核のみ残っていた。


「またラヴァスライム!」


「三匹も出たよ!」


 ミスティとスピアが叫ぶ。


「ケインの剣は腐蝕したんだろ? 俺らで殺るから下がってろ!」


「わ、判った」


 ミスティは氷結魔法を、ランスは態々古い鉄の槍を使って核を貫き、スピアに至っては拳の風圧を応用して核の部位を叩き潰していた。


(成程……ミスティのは美衣奈と同じ対処方法だったとして、ランスとスピアは流石って処なんだろうな)


 ラヴァスライムの魔核を拾った、四個の魔核が実はDランクの物だというから驚きだったけど、こいつをアイテムバッグの中へと放り込む。


「この大火山には割かし独自の魔物が出るんだ。ラヴァスライムはDランク、このダンジョン内では比較的に弱い部類に入るんだよ」


「へぇ……」


 矢っ張りスライムだから弱いのかも知れない。


 実際に、スライムは直に叩こうとすれば武器が腐蝕してしまうけど、斃すという意味で云うなら核さえ潰せば良いのだから弱かった。


 何処ぞのゲームの敵魔物だと雑魚中の雑魚だったりするし、上位の奴でも無い限りは大した脅威にも成らない程度だったんだけどな。


「ふぅ、運動したからか少しだけ汗を掻いたな」


「そうだね。熱に強いランスとスピアは兎も角、私達は何の準備もしないで入るべきじゃ無かったかも」


 クーラーみたいな涼しさの中に居たとしても、激しく動けば少しは暑く感じてしまうものかね?


 或いは真夏日を越える熱気だからこそなのか。


「アルヴァン大火山は大火山らしい独自進化した魔物が出るんだよ。橙粘液っていう感じかな?」


「そうなんだな」


 此方側の言語で、日本語的な言い回しが出てきた辺り、矢っ張りミスティと美衣奈が重なるな。


 魔法の違いは何なんだろうか?


 先のラヴァスライムを斃した凍結魔法にしても詠唱してのモノ、彼方側で美衣奈や母さんみたいな術士が使っていた魔法とは違う。


 彼方側では魔力を使った魔導紋を構築してて、更に魔導紋を使って魔法陣を生成する事によってあらゆる魔法を構成、それに“意味を成す言霊”を以て現世へと現象として顕現させる――らしいのだけど?


「ラヴァラビット!」


 スピアが叫んで見遣れば、毛皮の代わりに熔岩を纏っている兎の魔物が跳び跳ねながら顕れた。


 数匹のラヴァラビットは凶暴で、普通のホーンラビットに比べると可成りアクティブに迫る。


「ひょっとして、あれを剣で斬ったら刃が駄目に成るんじゃ?」


「正解だよ」


 ミスティが頷きながら魔法陣を形成していく。


氷塊(ラハ・ヴェル)!」


 見た目からして判っていたけど、明らかに凍結魔法が弱点みたいだ。


(凍結……か)


 俺は天力を滾らせて思考を巡らせると想像力を創造力に転換、集中力を全力全開にして精神力と生命力を消費しながら天導術を構築した。


 その名前は……


闇淤加美(くらおかみ)!」


 谷底の水源たる暗闇に潜む謂わば水司る龍神、一応は雪や氷を司る龍神という側面もある。


 俺の髪の毛から爪先まで全身がまるで氷の如く冷たく成ってしまい、それによって手にしていた剣も氷の塊の様な色で真っ白に。


「うりゃっ!」


 斬り裂くとラヴァラビットは凍結してしまう。


「は? 天導術ってあんな事も出来んのかよ?」


「遣ったんだから出来るんじゃないのかな?」


 ラヴァラビットを斃しながら会話を成立させるランスとスピア。


 ダンジョンの奥から石棍棒を振り回すゴブリンらしき魔物が顕れたけど、恐らく先程のラヴァラビットを追い掛けてきたのだと思われる。


 コイツもラヴァラビットと同じく凶暴な性質みたいで、ソッコー襲い掛かって来たから此方としても直ぐに対処をしてやった。


「グギャッ!?」


 首を掻き斬ってやれば即死する。


 剣の刃を視ると血が熔岩の様な熱を持っているのが判るが、天導術である“闇淤加美”が刃を護ってくれていたみたいであり、ミスリルの刃が熔けたり欠けたりはしていない。


「もう少し下に降りるとDランクばかりが顕れる様になるけど、そうなるとCランクの魔物もちょっとずつ顕れる事になる筈なんだ」


「Cランク……バトルウルフみたいな奴だよな」


 彼方側に出たゴブリンパンチャーのイレギュラーもCランクだったけど、あれはBランクにも近い上澄みとも云うべき魔物だった。


 Cランクくらいまでなら何とか斃せなくもない魔物だが、Bランクにもなると最早レベルが五〇にも足らない冒険者では斃せなくなるとか。


 俺が曲がり形にもCランクと闘えていたのは、氣力を知らぬ内に身体能力の向上に使っているかららしいが、流石にBランクは難しい。


 抑々、ダンジョン戦闘というのは必ず余裕を持って行うのが鉄則で、ギリギリで闘うのはダンジョンでは完全にアウトだと云えるだろう。


 RPGでもそうだ、一回の戦闘毎にHPやMPを減らしていては、最後まではダンジョンを闘い抜けない。


「天導術を序盤から使わされたんじゃ駄目だな。生命力や精神力をガリガリと削られてしまう」


 かといって、存在力=レベルをゲームみたいに上げるのは難しいから困ってしまう。


「一旦、外に出よっか」


「……そうだな、そうしよう」


 取り敢えずは、武器が腐蝕しない様な処置をしないといけないのと、暑さをどうにかしたい処だ。


 俺達は這う這うの体で、ダンジョンの外へ脱出をする事になった。


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