第71話:義肢
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暫くは固唾を呑んで見守り状態でコメントを流さなかったが、ボスであるホブゴブリンが魔素へと還ったのを確認した瞬間に沸いた。
その沸きっ振りは熱狂的とさえ云えるくらい。
「み、美衣奈……ひょっとしてスキルを使ったんじゃないか?」
「ハハ……よく……判ったね」
喀血こそはしていないけど、余りにも顔色が悪過ぎるのだ。
「レベルに見合わない力は……矢っ張りキツいんだよね……」
卦韻も実感として理解る。
何故ならば、卦韻の使う氣導術も卦韻のレベルに見合わない訳で無いにせよ、どれも本来であればもっと高いレベルで生命力や精神力が高くないとすぐガス欠に成ってしまう。
今も卦韻が膝を付いたのはガス欠なのだから。
「ああ、ゴメンけど……今回の配信は終わりで。Vi ses……」
〔あ、はい〕
〔また次の配信で~〕
〔ゆっくり休んでね〕
リスナー達からの温かなコメントを視ながら、美衣奈は配信用ドローンのスイッチを切った。
「はぁ……」
美衣奈が少し疲労感を感じさせる溜息を吐く。
「大丈夫か?」
「魔法の二重化、自分の力量の二段階上の魔法を扱うよりはマシなんだけどね、今の私のレベルでは流石にちょっとキツかったんだよ」
余りにも疲れ果てて壁を背凭れにしながら座り込む美衣奈、汗を流していて髪の毛も結構びっしょりとしてキラキラと光を反射している。
その姿は少し色っぽい。
「ボスさえ斃してしまえば、ボス部屋は安全領域に成るから……ちょっとだけ休んで行こっか」
「……そうだな」
人間が居るとボス部屋には魔素が何故か集まらないらしく、一種の安全領域としての活用が出来る。
二人は壁に凭れ掛かって疲労感を抜くべく座り込んで、天井を見詰めながら対ホブゴブリン戦に於いての自省をする事で嘆息してしまう。
生命力と精神力と体力の極端に消耗していて、今や歩くのは於ろか立ち上がるのも辛かった。
ふと大剣を見遣るとちょっとした癖に成っていた【真鑑定】を発動、その素材はゴブリンが使っている物よりはマシな混ざり物な鉄製品。
凡そ二〇kgという中々の重量感、長さは三mだというホブゴブリンの身長とも同じ巨大なる剣である。
流石に換金価格までは判らない。
(換金するよりは、素材にした方が良いかも知れないな)
折角だから大剣を素材化をして、新しく別の武具を造る餌にするべきか? とも考えてしまう。
「……ミス……美衣奈」
「ん、なに~?」
「ホブゴブリンの大剣って、換金額は幾らだ?」
「う~ん? 多分、三万円くらいだと思うよ」
「それなりな値段か?」
「そりゃ、曲がり形にもあの悪戯小鬼はCランクだもんね」
「……何か、美衣奈はホブゴブリンに思う処でも有るのか?」
「別に」
「そうか?」
明後日の方角を見遣る辺り、某か有るのかも知れなかった。
一時間くらい休んでいたら体力も氣力……元い気力も結構戻って来たので、ボス部屋に存在していた入口へと戻る専用の転移門で帰る。
アイテムバッグにホブゴブリンの大剣と魔核を仕舞ってあるが、魔装具を造る心算なら少なくともCランクの魔核だけは確実に確保をしないといけないし、大剣は混ざり物ばかりで純度も良くは無いけどスキルで純度は上げられる。
混ざりの部分が無くなれば当然ながら量は減るのだが……
「今日は確か七歌先生だったね」
「じゃあ、普通に美衣奈が換金に行ってくる?」
「そうするよ」
最初にちょっとデレッとしたのが気に食わなかったのか、出来る限り美衣奈が換金に行く様にしているのは卦韻にも理解が出来ていた。
まぁ、先生なのだからいずれ春休みが終われば学園で会える。
特に焦る必要は無いであろう。
「行ってくるよ」
「行ってら~」
ホブゴブリン以外の魔核やドロップアイテムを美衣奈は自身のポーチに容れ、換金所となっている専用の校舎へと向かって歩き出す。
暫く経って、美衣奈は卦韻が待つ校門前まで戻って来た。
「ただいま~」
「お帰り、美衣奈」
パーティの資金としてお金を貯金しておいて、残りは卦韻と美衣奈で綺麗に折半をしておく。
未だに残る疲労感を引き摺りながら二人で家へと帰る。
「そういや、レベルアップして一八に成ったんだよな。美衣奈は?」
「実際トドメを刺したのがケインだったからね、残念ながら私が獲ていた存在力……経験値じゃ足りていなかったんだよ。だから私は、もう少しだけ魔物を殺さなきゃレベルアップは出来ないんだよね~」
「そうだったのか。だったら次は、美衣奈がトドメを刺すのに集中した方が良さそうだな」
「だね~」
トドメを刺さずとも、パーティとして闘って勝利を収めれば少なからず存在力=経験値を取り込める。
だけど、トドメを刺した時に比べれば矢張り少ないのが現状だ。
「次の魔導具は何が良いかね?」
ステータスミラー(仮)とアイテムバッグは造ってしまったし、他に何か欲しい物が出来たら造るという形にするのが良いのかも知れない。
デアポーションも有るし。
魔導薬であるデアポーションはエクスポーション程では無いが、回復力がハイポーションをずっと越える上にコストパフォーマンスも最高。
フルポーションみたいに生えては来ないけど、欠損もある程度であれば繋ぐ事が可能だった。
(そういえば……だけど果たして可能なのか? 出来たとして諸々の問題点が出てきそうだな)
卦韻の脳裏に浮かんだのは冒険者をしていて、その四肢を喪ってしまった人々の事である。
特に彼方側では普通に生命を落としてしまう、それを鑑みれば必要不可欠な魔導具だと云えた。
問題は今現在の卦韻では恐らく完璧には造り上げられない事、それから必要となる素材が全く足りてはいないという根本的な問題点も有る。
そう、魔導具としての義肢を造り出す為には。
「ケイン、どうしたの?」
「うん、何でも無いさ」
美衣奈が訝しい表情で訊ねて来たのを卦韻は首を横に振り、特に何も無いと答えて再び思考の渦へと没頭して、スキルで必要な物を調べる。
必要不可欠な物を調べてみると、矢張りというべきなのか蛋白質系の某かは要るみたいだった。
それに魔核のランクも流石に低い物では足りていない。
義肢は“義肢装具士”が造る手足などを喪ってしまった者の、欠損した部位の代わりとなる人工的な手足の事を指しており、冒険者が魔物との闘いで肉体の一部を喪失するのは有り得る事だから、造れる様になれば負担をある程度和らげられる。
尤も、義肢とは完全なオーダーメイドだから、卦韻だけが造れてもそれはそれで困る事に成るだろう。
とはいえ、普通の義肢でさえ数十万円~数百万円という高価な代物、だけど保険で大概は約一割の負担で済むから、コレに関しては人が集まってくるかも知れない。
まぁ、魔導具の義肢が患者の一割負担で済むかは判らないけど。
家に帰り着くと卦韻と美衣奈はその場で別れ、足早に家へと入って自室の在る二階に上がった。
自室の本棚に入ってる本を開く、それは医療関連の書籍で義肢に関する事も書かれていたから、それをパラパラと確り頭に容れる様に読む。
医療関連の書籍は趣味で買った物だったけど、まさか本当に読み込む事になると思わなかった。
義肢の事だけでは無く、医療全体に関わってくる事も書かれているから為に成ると聴いている。
「ふむ、矢っ張り基礎知識が有るのと無いのとでスキルから受ける情報の精度が違うよな」
何しろ、書籍を読む前よりもずっと精度の高い情報が獲られていたし、必要な素材なども判ってきた。
「少なくとも、今現在の俺が素材を揃えるっていうのは難しそうだな。仮に父さんや母さんに頼んで採ってきて貰ったとしても、今のレベルだと扱いきれない……魔核も含めて」
義肢とは自在に動かせる万能な物では無いけど、卦韻のスキルを用いれば正しく生体義肢を完成させる事が出来そう、だけどその為に必要となるのは最低限でBランクの魔核であったのだと云う。
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