第69話:彼方側と此方側
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第二一階層、此処まで来ればFランクの魔物は出て来なくなり、遂にはEランクの魔物ばかりが顕れてくる様になるし、何ならDランクにも成る魔物も顕れる様になる程だ。
そうなると、単なるゴブリンやらコボルト程度なら最早出て来なくはなるだろうし、ちょっとした武器を持った職業持ちが出現する事に。
「ゴブリンソルジャー!」
粗末な、人間が扱う代物から鑑みれば余りにも粗末な青銅の槍を手に、ソルジャーの職業を拝命したゴブリン数体がペタペタ歩いて来る。
何が違うって、それは全体的なステータス値もそうだけど、槍という攻撃の要を持っている事、そして革製の鎧で身を護っている事だ。
とはいえ、ゴブリンソルジャーなら上層で既に何体も討伐済みであり、卦韻にとっては何程の事も無い相手に過ぎず首チョンパで終わる。
〔うわぁ、首刈り剣士……〕
〔そりゃ態々、防御の高い鎧を斬る必要性って無いわな~〕
リスナー達が戦々恐々としたコメントを流す。
卦韻の剣技はそれなりに洗練されている為か、一刀でゴブリンの首を落とすのも容易い行為だ。
勿論、技に長けた人型系の魔物が顕れてくれば首を一刀ともいかなくなるし、寧ろ下手に狙えば隙を突かれて却って危機に陥り兼ねない。
「そういえば、俺は広い空間が担保されているから普通に剣を振り回してるけど、ダンジョンでは此処より狭苦しい空間が在ったりするか?」
「う~ん、自然の洞窟が魔素溜まりでダンジョン化したんなら有り得るけど、地球に存在しているダンジョンは巨大な魔物も闊歩するからかな? 大概は長槍ですら振り回せる広さは在る筈だよ」
長槍と聴いて思い出すのは、今は北海道に家族旅行の真っ最中であり、彼の地に在る初心者ダンジョンに籠っている筈の幼馴染みの事。
火祭槍太――槍を使う職業は槍士、彼曰く神速の突きというのを目指して日々精進をしている。
単純な肉体だけのぶつかり合いは殆んど互角、槍を使われると勝率が極端に下がるけれどこれに関しては所謂、“三倍段”的に考えれば仕方がないと考えるべきなのだろう。
因みに双子の妹である火祭璃亜は闘士だけど、当然だがフィジカルという意味で幼馴染みの四人中最強で術士だから一番弱い美衣奈は論外であるとして、素手喧嘩で闘り合えば卦韻も槍太も必ず璃亜に敗ける。
理不尽なのは、魔法を扱う美衣奈は兎も角として璃亜が一番射程が短い筈が、戦闘訓練と称した訓練にて木剣や木槍を使っても勝てない事。
女の子という括りの中で力が強い方だったし、疾さもそれなりの速度を出せるのが判っていた。
とはいえ、だからと云ってまさかボロ負けするとは思えなかったくらいで、当時は冒険者なんて考えてもいなかったけど敗けたのは悔しい。
「ケイン、新しいの来たよ!」
「あれは……ビッグタートル!」
巨大なる亀の魔物、その甲羅は中々に強固であり未だに見習いクラスでは歯が立たないだろう。
だからこそ、ビッグタートルが下の階層に居るのは都合が良かった。
「カッチカチに成っちゃえ!」
丹田から魔力を汲み出し、それは魔力回路を通って血流の如く巡らされていき、腕を魔力紋として意味を成し魔法陣が構築されていく。
「吹雪ッ!」
高らかに意味を成す言霊を紡ぐ、それと同時に放たれたのは猛吹雪、ビッグタートルは美衣奈の宣言した通りカッチカチに成った。
オリジナルの亀が元より寒さを苦手な生物である為にか、その弱点も確りと持っているという事なのかも知れないが、これならビッグタートルにもトドメを刺し易い。
「という訳で、瑠亞姉さんの使った魔法だったんだけど」
「瑠亞姉さんが?」
「そ、初心者ダンジョンの上層階で顕れたらしくってね。槍太や璃亜じゃ任せられなかったみたいなんだ」
「因みに、凍った後はメイスでタコ殴りしたみたいだよ」
「瑠亞姉さんって確か、術士だった筈だよな?」
「武器は弓矢、職業は術士なんだけどね。はっきり言って璃亜姉さんって、ちょっと前に色々とあったんだけど、それで魔物討伐が……ね」
「其処ら辺は聴いてないからな」
ニコニコしている美衣奈は再び魔力を収束させると……
「雷嵐!」
徐ろに雷撃を嵐の如く降らせて、ビッグタートルを討ち砕いた。
残されたのは、巨大な甲羅と魔核のみである。
「甲羅は一応だけど鎧や盾の素材には成るんだけどね、見た目的には余り格好の良い装備品にはならないんだよね。換金をすれば売却益は取り敢えずそれなりの値段にはなるよ」
まぁ、所詮はDランクの魔物から取れた甲羅であるから、其処まで御高価くは成らないのだけど。
Dランクに過ぎないからそんなに強い訳では無いとはいえ、矢張り武器が足りないと斃すのも難しくなる為に魔法で弱点を突くと殺り易い。
亀なら引っくり返せば? なんて思うかも知れないが、巨大で重たいビッグタートルを転がすのは非常に難しいと云わざるを得なかった。
結局、ビッグタートルを転がすなら魔法を使うしかないであろうから、それなら魔法でちゃっちゃと斃した方が早いという事になる。
「これはおっきいから、ケインが仕舞っといて」
「判った」
大きな甲羅なだけにちょっとばかり重たいが、以前に開発した氣導術を使えば普通に持ち上がる。
詰まり、“帝釈天”というパワーアシスト関係の氣導術を使えば良い。
ヒョイッと持ち上げて、アイテムバッグの中へと容れた。
〔うわ、力こそパワー?〕
〔あんな莫迦デッカイ甲羅を持ち上げたぞ!?〕
〔アレって、確か数十kgくらい有った筈だろ?〕
観れば解る重たさである。
「もうすぐ最下層、そしてゲームをしているんなら判ると思うけど、最下層にはボス部屋が在ってボスを斃さないといけないんだ」
「ボスは?」
「この地だと悪戯小鬼ね」
「えっと?」
初めて聴くとよく解らない名前に思えてしまったけど、小鬼=ゴブリンだと言っていた筈だから、美衣奈はゴブリンの某かと言いたいのだろうか? と卦韻は少し戸惑う。
「リスナーさん、ヘルプ!」
〔た、確か『悪戯好きの妖精』でホブゴブリンって意味が有ったかな?〕
〔確かに東京の初心者ダンジョンはホブゴブリンだったよ〕
温かいリスナー達のお陰で最下層に潜むであろう魔物の正体、それがゴブリン的には一種の上位種っぽいホブゴブリンだと知れた。
(然し何故に悪戯?)
ひょっとしたら、美衣奈はゴブリンにナニか思う処でも有るのかも知れないな……とも思う。
第二四階層に来た時点で二人のレベルは一八と一七にまで上昇、その先に存在しているボス部屋を卦韻と美衣奈は睨み付けていた。
「来ちゃったね、卦韻」
「そうだな……」
重々しい荘厳な雰囲気を醸し出す金属製の扉、実際に数kgは有ると思われるし割りとレベルの高い冒険者でないと、これはきっと開けない。
そう思わせるナニかが、この重そうな金属製の扉にはあった。
「この【15】って数字は?」
「存在力、レベルの数値なんだよ。この数値以下の者は扉を開けない、誰かが開いても部屋に入れないよ。私達はレベルが既に一七以上だから問題無くボス部屋に入れるよ」
レベルが低い人間には開けそうに無いと思ってしまったが、どうやら本当に開けないみたいだ。
〔? あのレリーフって、意味があるモノだったのか?〕
〔初めて知ったぞ〕
よく解らないコメントが流れている事から卦韻は首を傾げる。
「それにしてもケイン、そのレリーフをよく読めたね」
「……え?」
卦韻は美衣奈から言われて、卦韻は頭にクエスチョンマークを浮かべながら再び金属製の扉を見遣ると、自身の目には【15】と読めたけど確かにアラビア数字でも漢数字でも況してやローマ数字でも無く、実際のレリーフは卦韻が見た事の無いモノだったのに気付く。
(いや、これって彼方側の数字じゃないのか?)
卦韻はケイン・ユラナスとして彼方側の文字に多少は堪能だが、実は彼の知識からか初めから読めていたので、違和感に気付けなかった。
(まさか……否、矢っ張り魔法の名称が異なっていたから判らなかったけど、ダンジョンと彼方側の世界は繋がりが有るんじゃないか?)
彼方側の魔法をミスティが使っているのを見ているし聴いてもいるから、美衣奈が扱う魔法との差違から全く判らなかったのである。
レリーフが彼方側の数字という事は間違いなく関係が有る筈、そう考えると美衣奈と槍太と璃亜が彼方側のミスティやランスやスピアと似ていたりするのも、或いは意味が有ったのだろうかと考えるしかない。
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