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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第二章:獄焔剣
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第67話:慎吾との対話

.

「よく知る天井だ……」


 卦韻は目を覚ましてゆっくり閉じられた瞼を開くと何だか御約束的な科白、それのちょっとしたアンチテーゼというか逆張りな科白を呟く。


「デアポーション……か」


 ミスティからの提案から決めたのが独語に当たる“Der”、英語で云う処の“The”に相当する単語。


 彼方側、そして此方側にも同じ魔導薬である処のポーションという名前のアイテム、それが故にプチポーション、ポーション、ハイポーション、エクスポーション、フルポーションが存在する。


 然しながら、ハイポーションとエクスポーションの間には可成り回復力には隔たりが有った。


 プチポーションは謂わば擦り傷なんかを治すという程度、ポーションならそれなりの傷を癒せる程度の回復力、そしてハイポーションであるならそこそこのダメージは治る筈。


 エクスポーションは骨折などもきちんと填め込めば治せるし、仮に手足が千切れてしまっていたとしても、千切れた手足さえ残っていれば再び繋ぐ事も不可能では無い。


 フルポーションならば仮令、完全に四肢を喪っても生えてくる程。


 卦韻はポーションの作り方は把握しているし、それを以てデアポーションに作り換えられる。


 ポーション自体は三〇〇〇円で買える代物で、それを四個なら一万二〇〇〇円程度の出費。


 これにFランクの魔格で数百円、一万二五〇〇円の出費で数千万円のエクスポーションに匹敵をする回復力を持った、そんなまるで夢でも視ているかの如くポーションを量産が可能となるのだ。


 問題となるのは飽く迄も卦韻の唯一技能たる【錬成王】在ってこそ、他の【錬金術】や【錬成術】による再現性が無いという事である。


 詰まり、目下の処で卦韻が遣るべき事というのは父親である楠葉慎吾にも造れる様に、技術的な落とし込みを行うという作業にあった。


 正直、面倒臭いとも云える。


 だけど、スキルとして【錬成王】という創造系を獲ているとはいえど卦韻の本業というのは剣士、剣を振り回してこそが本領発揮なのだ。


 ポーションばかりを造っては居られなかった。


「はぁ……」


 余り考え込んでも居られないし、今日こそは初心者ダンジョンの踏破をしたいという欲だってあるのだ。


「降りるか」


 腹が減ってるし朝餉を摂ろうか、そう考えたらググ~ッという腹の虫がタイムリーに鳴き始める。


「今は食欲を満たさないとだな」


 階下に降りてリビングに入ると、珈琲を飲みながら新聞を読む父親の姿、そしてキッチンで朝食を作っている母親の姿が目に付いた。


「おはよう、父さんに母さん」


「ああ、おはよう」


「おはよう、卦韻」


 朝から夫婦仲は睦まじいみたいで微笑ましい、いちゃつかれたら勿論だがイラッとするけれど。


「父さん」


「何だ?」


 話すなら今だろう。


「これを」


「これは……ポーション?」


「デアポーション。エクスポーション程じゃ無いけど、ハイポーションよりは効き目が強いよ」


「何!?」


 テーブルに置かれた薬瓶を手に、舐め回すかの様に見詰めると、更には卦韻の方を見遣って再び薬瓶を見遣って、二度三度とガン見をした。


「本当なのか?」


「何なら、試して見せようか?」


「た、試すって云うのは……まさか自刃でもする気なのか?」


「エクスポーション程じゃ無いんだろうけどね、効果としては切断された四肢を繋ぐ事も出来る」


「っ!? 其処までか!」


「俺のSSRスキル【真鑑定】でちゃんと調べてあるからさ」


「確かに俺のSRスキル【鑑定】で視ればっと……本当だな。[四肢の欠損も繋ぐ]と記されている」


 どの程度の回復力かまでは慎吾の【鑑定】には載ってないが、[酷くない限り四肢欠損も繋ぐ]と書かれている事から効果は抜群みたいだ。


「これも、卦韻の【錬成王】による品物に成るのか?」


「だから、このデアポーションは俺にしか造れないんだ。目下はこれの改善が必須事項なんだよ」


「詰まり最低限でも【錬成術】で、最大限でなら【調合術】でも――錬成や錬金や調合が叶う様にという、そういう事をするっていうのか?」


 【錬金術】の下位互換がRスキル【調合術】、調合という名が示す通り魔導薬を造るだけでしかないが、それでもポーション系なら造れる。


 とはいえ、決して魔導薬だけでは無いのも事実だけど。


「卦韻も色々と道具を開発しているみたいだな、困るのは最上位URスキル頼りだから俺達に再現性が無い点か。まぁ、それは俺達のスキルであっても大して変わらんかも知れないけどな」


「それでも父さんのスキルで造れる物の一部は、他のスキル持ちでも製作が可能なんだろう?」


「まぁな」


 慎吾の【錬成術】で造れる一部の魔導具や魔装具は、下位互換である【錬金術】でも造れる様に落とし込まれており、卦韻の製作が飽く迄も自身の【錬成王】を頼りに造っているのとはまた訳が違うのだ。


「因みに素材はどうなっている?」


「ポーション×四とFランクの魔核を一個だけを使っているよ」


「な、何だその偉く安上がりな素材の値段は!?」


 普通はとても信じられない素材、だけど卦韻のスキルは唯一技能と云われるだけあって神懸かった性能、安上がりな素材から高性能で高品質となる魔導具や魔装具や魔導薬や、更には魔鉱石すらも造れてしまう。


 問題と成るのは、()()()()()()()()()()()という事である。


 卦韻本人も理解をしている“再現性が無い”というのも、詰まる話がそういう事であると云う。


 抑々、本来ならポーションを四本と魔核だけでハイポーションよりも上位な魔導薬になど成らないもの、URスキルによる特殊な造り方でこそ可能となっているのだとか。


「取り敢えず、俺の【鑑定】で確りと示されている以上は本物って訳だな。それで? 卦韻はこのデアポーションとやらをどうしたい?」


「出来れば父さんにも造れる様に成って欲しい、だけどそれが難しいのも理解している心算だよ」


「ふむ、そうか……」


 プライドも有るが、出来もしない事を出来るなどとは言わない。


 慎吾は嘘を吐くのが大嫌いだったからである。


「卦韻の事だから色々とまた新しくポーションを造るかも知れんしな、デアポーションの量産が出来ないかを確かめていきたい。サンプルとして幾つかを此方にも貰えないか?」


「まぁ、構わない。取り敢えずは使う分を二個と実験用の物と予備用とで四個を父さんに渡しておくよ」


「手数は欲しいが、確かに下手に多くを渡すなんて出来ないな」


 父親が息子の造った物を転売するなんて考えていないし、父親たる慎吾も息子からの信用と信頼を盾に好き勝手をしようなんて考えない。


 だけれど、此方側ではハイポーションより上のレシピは解明されてはおらず、造れる職業スキル持ちも其処まで多いとは云えない状況。


 エクスポーションには届かない物だとはいえ、少なくともハイポーションより回復する効果が上であり、しかも卦韻が自身の唯一技能で造るのであるのならば、僅かなコストでの製造すらも可能と成っている。


 同業他社の企業が、大人しく黙っている筈も無いのだ。


 とはいえ、楠葉慎吾の企業は一ニ年前に起業をした冒険者業界という意味では老舗に当たるし、何よりも親会社に成るのは卦韻の祖父が経営をしている訳で楠葉煉鵬が社長であり、曾祖父が会長を務める【KUSUHA総合商社(株)】だからちょっかいを掛けてくる莫迦者も居なかろう。


 子会社の名は【魔工師楠葉】だ。


 尚、【AISAKA】も謂わば同業他社だけど社長同士が仲の良い幼馴染み、だからこそ下手に衝突をするよりは手をガッチリと組んでいる。


「今、既に造っているのを四個渡しておくから」


 卦韻はアイテムバッグから先程出した一本に加えて三本を取り出し、慎吾の前のテーブルの上にコトリという軽い音と共に置いた。


 スキルで造ると瓶も一緒に製造されるから楽といえば楽、だからこそ卦韻も慎吾も他のスキル持ち達にしてもスキルを使っているのだから。


 Rスキル【調合術】、SRスキル【錬金術】、SSRスキル【錬成術】、URスキル【錬成王】という創造系のスキルは活用されていた。


「正直に言えば助かるな。上位のダンジョンともなれば、最早ハイポーションでは回復を仕切れなくてな。かと言ってエクスポーションは余りにもコスパが宜しくない。造り易くて安上がりにして回復量もハイポーションを遥かに凌ぐ。正しく俺達が求めていた物だったんだよ!」


「そりゃ、良かった」


 ファザコンでは無いけど、卦韻は父親が好きなので喜んでくれるなら嬉しいものだと素直に思える。


 スキルの導き? みたいなナニかに従っただけではあるが、良かったのだと改めてそう思えた。



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