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銀の騎士と黎明の星  作者: 月乃杜
第二章:獄焔剣
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第66話:契約書

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 そろそろ宿屋に行って一休みをしようという話に成って、俺達は自身の借りている部屋へと戻ると早速という事で防具の強化を行い始める。


 俺のユニークスキル【錬成王】を展開させて、スキルの内部に仕舞われている通常の鋼を玉鋼に錬成すると、新たにデザインを描いていきながら同時に玉鋼を“魔鋼化”させる為の魔力を通した。


 正確に云うなら既に魔鋼化に関しては遣っているけど、其処はソレという事で兎にも角にも作業しないといつまで経っても終わらんよっと。


 そんな俺を不思議なナニかを視ているかの如くなランス、矢っ張りというか恥ずかしいものが有るから、見詰めないで欲しかったりするな。


 とはいえ、TPOは弁えて態々話し掛けて来ないというのは助かるし、ランスなりに気を利かせてはくれているのであろうとは思っている。


 こういう処は、槍太にも通じてるから困ってしまうんだよな。


 キリの良い所までは造りたいが、現状では玉鋼を魔鋼にする為の魔力籠めがメインなんだよ。


 詰まりは現状だと、俺が特に遣る事は無かったりするんだ。


 とはいえ、破壊活動より創造する活動の方が良いと感じているし、俺のユニークスキルがコイツだというのは悪い話じゃ無かった。


 複数の機能が混ざったのが唯一技能だって話だからな、実は他にも様々な何らかの能力が扱えるんじゃないかと密かに期待もしている。


「うわぁぁぁぁっ! 誰かっ、誰か助けてくれぇぇぇっ!」」


 そんな事を考えていたら、莫迦みたいな大声が下から響いてきた。


「何だ?」


「おいおい、何なんだよいったい」


 顔を見合わせた俺達はすぐに下に降りていく。


 其処には血塗れに成った女性と、半狂乱に成る男が二人というちょっとしたカオスな状態が。


「冒険者の男女か!?」


「女性の方が酷いダメージだ」


 俺の視る限り、ランスが言った通り女性の肉体の傷が余りに大きくて死に掛けてしまっている。


 辛うじて四肢は繋がっているみたいだけれど、それでも出血量からしたらハイポーション程度では治療が利かない、フルポーションとは云わないまでもエクスポーションが無ければ助からない。


「誰か、誰でも良い! エクスポーションを譲ってくれっ!」


 叫ぶ男の冒険者。


「何を莫迦な事を。エクスポーションなんざ何百万テランすると思っているんだ? あの男は」


 エクスポーションは、彼方側だと数千万円なんていう価値が付くが、それはレシピが存在しないのと現存してるブツも無いからこその価格。


 此方側ではレシピ自体は存在しているみたいではあるし、錬金術なんかで造れるから素材の稀少性故にか少しばかり高価(たか)いけど、だからと云って数千万テランは流石に無い。


「出来なくは無いけど」


「止めとけ! どうしても遣りたいってんなら、俺に止める権利はねーけどよ。だけどな!」


「ランス、俺だって技術の安売りをする気は無いんだよ」


「そ、そうか……」


 技術を安売りするのは決して俺だけの話では済まない、必ず何処かで誰かの不利益に繋がってしまうのだろうから、安くは売れないのだ。


 そう、絶対に……である。


 これは錬金の技術の持ち主達を守る為でもあったし、その結果に伴う技術の衰退をさせない為だった。


「ケイン、だったらどうするよ? あの女を見捨てるか?」


「さて、どうするか」


「あの様子じゃ、余り時間も無いんじゃねーか」


 ランスが言う通り、彼方此方の傷に加えて出血多量による死亡も充分に有り得ているし、何ならショック死すらも有り得そうじゃないか?


「俺のアイテムバッグの中には、ちょっと特殊なポーションが入っている。だけど無償で与えるなんて真似は絶対にしないし出来ない」


 生命に関わる事とはいえ、誰かに例外を認めたら次もまた次も……とワラワラ湧いて出てくるのが人間の浅はかさ、醜悪さというものだ。


 俺がそれに付き合ってやる義理も義務も無い、そんな連中が利益を貪る権利も資格も無いのだ。


 ケイン・ユラナスの幼馴染み達の為にならば、特殊なポーションを使うのも躊躇わないけどな。


 そういや未だ名前も決めてはいなかったよな、特殊なポーションとかスーパーポーションなんてのじゃ無く、いい加減できちんとした名前を考えないといけないんだろうけど、はてさていったいどうしたもんか?


 俺はあの二人の冒険者と特殊なポーションという二つの事に頭を悩ませるが、取り分けて急ぎなのは生命の危機に瀕している彼女だろう。


「おっさん」


「ああ? んだ、こんガキャァ! 此方は緊急事態なのが見ていて理解(わか)んねーのかよっ!?」


「随分な言い草だな。エクスポーションは持って無いけど、ちょっと特殊なポーションなら手持ちに有るから売ってやろうかと思ったのに」


「なっ!? 寄越せ!」


 余程、切羽詰まっているのだろうけど、嘘か真かなんて考えもしないで襲い掛かって来た。


「ふっ! はぁぁっ!」


「ギャンッ!?」


 伸ばした手を避けると、その腕を取って柔道の要領で投げ飛ばしてやったら、潰れた蛙の如くな悲鳴を上げながらぶっ飛んで地面に落ちる。


「歳下が相手なら勝てると思ったか? 甘いな、大した戦闘経験も積んで無いんじゃないか?」


「ググッ!」


 頭から落ちたからか、男の冒険者はフラフラと千鳥足で立ち上がって来たけど、再び向かってくる事は無くてガクリと膝を付いてしまう。


 そうしている間にも女性冒険者は死に向かっており、チラリと彼女を見遣ると頭を額に打ち付ける勢いで手を床に付けて――即ちDOGEZAをしながら叫ぶ様に口を開く。


「お願いだっ! ポーションを売ってくれっ! 出来る限りの金は支払うから! 頼むっ!」


 潔いというべきか、DOGEZAをしながらお金を支払う旨を口にする辺り、彼も決して悪人では無いのか。


「特殊なポーションだ、一二〇万テランに成る。支払いなんか出来るのか? 可成り高額だが?」


「払う! 一二〇万テランでも仮令それが何百万テランでも!」


 ランクが幾つか知らないけれど、一二〇万テランともなればDランク程度では難しかろう。


 若し彼らが其処ら辺のフィールドに顕れている程度の、そんな魔物に苦戦したのがあの結果なら一二〇万テランなんて支払う能力は無い。


 とはいえ彼女を喪えば、彼の心も折れて二度と冒険者なんて出来なくなる可能性が高かった。


「貴方のランクは?」


「……Cランクだ」


 彼は自らの冒険者カードを取り出して見せる、其処には確かにCランクと記載が成されている。


「頑張れば稼げなくは無いけど、暫くの間は粗食に耐えながら武具のメンテナンスと借金苦に喘がないといけない。貴方にそれが出来ると?」


「遣る!」


「はぁ、ミスティ」


 俺は決意を持つ彼に最後の決断を促す事に。


 歩み寄るミスティが持つのは一枚の羊皮紙で、これは或る種の魔法の契約書という物なんだ。


 サリア・エメリア嬢から聴いた説明の中には、一風変わったギルドの掟みたいなモノも有る。


 その内の一つがこの契約書。


 覚悟こそしていたのだろうけど、彼は羊皮紙を視て矢張りというべきか一瞬だけど狼狽をした。


「解りますよね?」


「あ、ああ……」


 ミスティに訊かれて、多少は吃りながら頷く。


 其処には契約の内容が書かれている訳だけど、名前を書いたら肉体も精神も括られて縛られる事に成り、契約書に書かれた内容を無視する事など絶対的に不可能と成るのだという恐ろしいモノ。


 この契約書自体は高価なモノで、それでも一般にもよく使われている魔導具、冒険者ギルドでは何らかの約束を口約束では済まさずに、契約書により縛り付けるという手段を平素から執り入れているのだと云う。


 名前を書いて血判を捺印したらもう戻れない、如何なる理不尽な内容であろうとも従うしか無くなるし、契約の破棄は出来なくも無いけど可成り難解な手法になるらしいから、それは余り現実的な方法では無い。


 肝心な契約内容は[一二〇万テランを一〇万テランずつ、一二ヶ月の分割払いで支払う事]――大まかに云うとこういう事になるだろう。


 極めて現実的且つCランクの冒険者なら無理の無い返済プラン、此方も別に彼らが破滅をする事が望みでは無いから、それで良いと考えた。


「俺が拇印をすれば契約は完了をする訳だけど、本当に良いんだな? ラルフ・ローレンツさん」


「構わん! ルートが助かるなら」


 ラルフ・ローレンツ氏の恋人で、それも幼馴染みという関係からずっと傍に居るのが当たり前なのにな、そんなルート・イルハ女史を喪うのは鳥で云えば片翼になるに等しい。


「何と無く理解(わか)るよな」


 俺は思わず呟いて拇印した。



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